2007-04-06(vol. 137)
 ─ 地域の強さとしての文化・学術
□□ 目次 □□
【ニュース】バイエルン州立図書館、グーグルと提携

【ニュース】街の文化について話そう
【編集後記】地域の強さとしての文化・学術

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【ニュース】
バイエルン州立図書館、グーグルと提携


グーグルと提携したバイエルン州立図書館
【ミュンヘン】バイエルン州と同州立図書館はこのほど検索エンジンのグーグルと提携し、著作権切れの蔵書をオンラインで公開すると発表した。州立図書館が所蔵している100万冊以上の著作権切れの蔵書が世界中から閲覧できるようになる。

グーグル・ドイツ(ハンブルク)との提携を発表したのは先月6日。州科学・研究・芸術大臣のトーマス・ゴッペル博士が同社との契約に署名した。

同図書館は900万冊の蔵書数を誇り、8万9000点の歴史的な手書き資料や2万点の初期印刷本などを収蔵している。今回の提携で、グリム兄弟やゲーテ、専門の蔵書、図書館内でしか閲覧できなかった稀覯本(きこうぼん)のほか、東欧、アジア、スペイン語、フランス語、ラテン語、英語の蔵書も閲覧が可能になる。

図書館館長ロルフ・グリーベル博士は、デジタル時代における『本と知識の発見』の大きな一歩を踏み出したことになり、ドイツの文学的に豊かな伝統を世界中の読者に提供することは興味深い兆戦と位置づけている。

同図書館の設立は1558年。学術・研究を主目的とした学術図書館でドイツ国内および欧州でもよく知られている。『バイエルン科学アカデミー』(1759年設立)の支援機関として位置づけられているほか、1949年以降、ドイツ研究協会とも契約を結んでいる。

州の戦略的パートナー
世界中でグーグルが検索エンジンの代名詞となるなか、国内の知識や文化の入り口をアメリカ企業に握られるのは国家的危機という考え方がある。これをうけてフランスとドイツが共同で『QUAERO(ラテン語で「私は探す」の意)』という検索エンジン開発プロジェクトが取り組まれているほか、日本でも昨年、国産検索エンジン開発のための『情報大航海プロジェクト・コンソーシアム』が立ち上がっている。

また図書館の蔵書のデジタル化と書誌の国際共通化の推進というのは世界的な潮流だ。特に近年アングロサクソン圏(英語圏)の目録が幅をきかせており、ドイツの図書館で使われていた目録もいずれアングロサクソン圏の目録と統合させる時期がくると見られている。

そういった流れのなか、バイエルン州の州立図書館が同社とパートナーとして提携したわけだが、これによって同州が研究の立地条件としての魅力をアピールすることにつながるとした。また民間企業とのPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)であることから、蔵書のデジタル化事業での省コストにつながるとしている。グーグルの興隆が欧州の国家意識をくすぐる中、バイエルン州は州の研究・知識に関する戦略的パートナーに同社を選んだといえるだろう。

グーグル社は2004年からスタンフォードやハーバードといった大学や図書館とすでに同様のプロジェクトは行っているが、ドイツ国内および、非英語圏の大規模図書館との提携は今回が初めて。同社『グーグル・ブック』の責任者イェンス・レトマー氏はグーグル社は本の持ち主でもなければ、メディア企業でもなく、あくまでも技術企業であることを強調している。(了)
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【ニュース】

街の文化について話そう

カルチャー・ダイアローグ

対談を行うディーター・ロスマイスル博士(左)
コーヒータイムでも『ダイアローグ(対話)』が会場内のあちらこちらで行われる。
【エアランゲン】ドイツ南部のエアランゲン(バイエルン州・人口10万人)で、このほど街の文化についての対話を進める催し『カルチャー・ダイアローグ』が行われた。これは毎年行われるもので、今回は公共空間での芸術作品がテーマになった。

この催しは先月17日に市の『文化と余暇』局の主催で行われているもので、今年で5回目を数える。毎年テーマが決められ、文化関係者や関心のある市民が参加する。講演と分科会、そして分科会での議論の発表という構成で午前9時半から午後4 時半まで、たっぷり1日かけて話し合われる。今年は『アーティストは街を描く、(同時に)街を特徴づける』と題され、公共空間での芸術作品がテーマになった。

冒頭にヨハネス・キルシェンマン教授が講演を行い、『街の中での公共空間では議論が生まれるような空間である必要があり、公共空間での芸術作品も議論を喚起するものが好ましい。しかし最近は議論の喚起というよりもエンターテインメントに傾く傾向がある』と述べた。

次に同局の責任者、ディーター・ロスマイスル博士が芸術家団体の代表やギャラリーの経営者、ギムナジウム(中等教育機関)の芸術の教諭らと対談を行った。

分科会では各テーマにそって(1)現状認識、(2)問題点、(3)ポジティブな批評、(4)問題に対する具体策 といった手順で話し合われる。分科会は次の4つのテーマにわかれて行われた。
芸術家の活動拠点の枠組みとしての街
ツーリズム、マーケティングとしての芸術
芸術空間としての街空間
芸術空間・エアランゲンのビジョン 2020年

エアランゲンは10万人の都市だが、人口規模に対して文化的な動きが多い。しかしながら具体的に活動している人同士のネットワークが希薄だった。それを問題視した文化局が5年前にはじめたのがカルチャー・ダイアローグだった。同局の責任者であるディーター・ロスマイスル博士によると、企画当初は50人程度集まればいいほうだろうと考えていた。ところが毎回100人を超える参加者がおり、多い年は150人程度の人数になったときもあった。

政党も文化の対話
エアランゲンのSPD(ドイツ社民党)も昨年末から連続で『SPDダイアローグ』と題して都市計画や育児環境といったテーマで対話集会を行っている。これは来年3月に市議会選挙をにらんだものだ。

一連の対話集会のひとつ『カルチャー・ポリティック・ダイアローグ』が2月14日の夜に行われた。テーマは『人間はパンだけで生きているわけではない・・・』。この日に集まったのは約50人。ギャラリーの運営責任者や劇場支援の非営利組織の会長など文化関係者が顔をそろえた。ミヒャエル・フォン・エンゲルハルト教授によって社会学の視点から都市における文化とは何かという短い講演が行われ、その後は参加者が自由に意見を述べた。

発言内容は補助金の増加など陳情・要望などが多く、建設的な発言は少なかったが、それでも医療都市というエアランゲンの戦略を踏まえて医療ミュージアムを作ってはどうか、といった提案もとびだした。

司会進行を努めたのは次期市長を狙う同党のウルスラ・ラーニグ氏。同氏は市会議員で、同党の文化政策のスポークスマンを務めている。(了)




【編集後記】
地域の強さとしての文化・学術


◆ドイツ語でスタンドートという言葉があります。直訳すると『立地』といったような意味になりますが、この言葉に『政策』とか『条件』といった言葉がくっつくことがよくあります。

◆市の『立地政策』といえば、市の魅力とか強さをつくっていくための政策ということになります。そしてそのための『立地条件』とは何かがよく議論されます。立地条件とは何かといえば、幅広い議論があるのですが、たとえば企業誘致や生活の質のためのインフラなどが挙げられます。

◆バイエルン州の州立図書館は州の『国家図書館』に相当する図書館でもありますが、それゆえバイエルン州の文化を保護するという役割を持ちます。また学術図書館としても欧州・ドイツ国内では知られています。そういうソフトパワーを持っている図書館にグーグルで世界中からアクセスできる。これに対して州の科学・研究・芸術大臣は学術の立地条件のよさをアピールできると、述べています。

◆カルチャー・ダイアローグの分科会、『ツーリズム、マーケティングとしての芸術』に私も参加しました。『ツーリズムやマーケティングというテーマをまとめれば、立地条件としての芸術ということだと思う。その線で議論してはどうか』と発言したところ、分科会に参加者の数名の琴線にすぐ触れるようで賛成する人の手がすぐに挙がりました。ドイツの人にとって『立地条件』という言葉は、街のあり方を考えるときに深い了解があることを再確認した一件でした。ただ残念なことは、議論が進んでいくと、私のドイツ語ではついていけなくなってしまうのがタマにキズ。むむむ。(高松 平藏)

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