2007-06-30(vol. 138)
 ─ 街ぐるみの『環境ギャンブル』
□□ 目次 □□
【ニュース】省エネギャンブル、どちらの氷が先に溶ける?

【写真ニュース】省エネハウス、カウントダウン開始
【編集後記】なぜ『街ぐるみ』でできるのか

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【ニュース】
省エネギャンブル、どちらの氷が先に溶ける?


エアランゲン市街の中心地には2つの小屋が並んでいる(=写真)。ひとつは断熱性が高く、もうひとつは通常の厚さの壁でつくられた小屋で、それぞれに巨大な氷の塊がはいっている。どちらの小屋のほうが氷が長持ちするか、さてお立会い。

今年、『環境年』としている同市は、年間を通じ数々の催しが行われている。この小屋もその一環で『氷塊の賭け(アイスブロック・ヴェッテ/Eisblockwette)』と銘打って設置された。アイデアは市内の非営利法人『太陽エネルギー・エアランゲン』のマルティン・フントハウゼンさんによるもので、4月21日にクレーン車で小屋の中に1.8立方メートルの氷の塊が入れられた。

教会を背景にふたつの小屋がならんでいる。
小屋は17.5センチのレンガでつくられ、内側にはそれぞれ10センチ、30センチの断熱材がはいっている。昨今ドイツではパシーフハウスと呼ばれる省エネ型の住宅が増えてきているが、断熱材の厚い小屋はパシーフハウス仕様というわけだ。

どちらの小屋の氷が長持ちするか、どのぐらいかけて溶けるか、ある時点で溶けた水が何リットルあるか、といったことを当てる趣向も凝らされており、ウェッブからも『氷塊の賭け』に参加できる。

5月半ばには、どちらの氷が長持ちするかという問題への申し込みが締め切られた。正解は断熱効果の高い小屋のほうが長持ちした。応募者数は330人。そのうち正解は250人。正解者のうち10人が抽選で選ばれ、6月5日に小屋の前で賞品の授与式が行われた。賞品は自転車やドイツ鉄道のチケットなど温暖化抑制に寄与するもので、ほかにもアイスクリーム専門店の商品券なども賞品にされた。

ドイツの気候と省エネハウス
ドイツの気候は夏は涼しく、冬は寒い。そのため住宅づくりの基本には、冬をどうすごすかという発想が見出せる。伝統的な日本建築の家が柱の骨組みに障子やふすまをはめ込むかたちでできているとすれば、ドイツの住宅は箱をくりぬいて窓やドアをとりつけたようなつくりになっている。

パシーフハウスなどを回る見学ツアーではソーラーカーの充電施設もコースのひとつになった。非営利法人『ソーラーモビール・エアランゲン』のペーター・マイアー氏によるとエアランゲンおよび周辺で30−40台が走っているという。ちなみに同非営利法人は1985年に設立された。(撮影日:4月28日)
箱型の家の中はセントラルヒーティングで全体を暖められるわけだが、暖気をもらさず、断熱性をいかに高めるかということが住宅づくりで重要になってくる。窓も二重ガラスがスタンダード。しかもドアのようなかたちになっており、まるでゴムパッキンの蓋をするようなかたちだ。

昨今の省エネ住宅『パシーフハウス』は断熱性をより高めている他に、雨水を利用したり、太陽光による温水器や発電装置がついている。

エアランゲンでは90年代半ばから住宅の省エネ率を高める方向に進めており、セントラルヒーティングのボイラーを交換するときには省エネ型のものに交換を促したりしている。

また数年前から同市環境局が市内のパシーフハウスやソーラーエネルギー施設を搭載した家屋の見学ツアーなども行っている。今年は『環境年』の取り組みのひとつとして行われた。(了)





【写真ニュース】

省エネハウス、カウントダウン開始


【エアランゲン】4月21日に『氷塊の賭け』のカウントダウンがはじまった。氷のブロックが入れられる様子を写真でお送りする。
バライス市長のあいさつ
非営利法人『太陽エネルギー・エアランゲン』のマルティン・フントハウゼン氏
メインストリートで行われるため、多くの人が興味深そうにみていく。エアランゲン市の『環境大臣』に相当するヴュストナー氏が挨拶している。
氷をいれるために小屋の準備を入念に行う。
巨大な氷のブロックが登場
氷に触っていく人もいる。
地元のメディアもそろった。
クレーン車でつりあげられた氷
  氷が入れられたあとは中蓋がいれられる。見た目の厚さがまったく異なる。断熱材の厚さは、
パシーフハウス仕様(左):30センチ
通常の仕様のもの(右):10センチ
最後に傾斜のかかった屋根がとりつけられる。





【編集後記】
なぜ『街ぐるみ』でできるのか


◆エアランゲンの取り組みをみると、まず『街ぐるみ』という言葉が思い浮かびます。その背景には行政にも専門家がそろっていることや、専門の非営利法人があるといったことが挙げられるでしょう。

◆フェラインとよばれる非営利法人の歴史は古く、『協会』『クラブ』といった翻訳が定訳になっていますが、現在の日本の感覚でいえばNPOに相当します。自治体にとってフェラインの存在ぬきでは語れないほどの役割を担っており、数も多いです。

◆パシーフハウスのオーナーたちが自宅を開放するような催しが行われたりすることもあります。現在のオーナーたちは環境問題に関心が高く、社会的にその重要性をオープンにしていこうという考え方があるように思えます。

◆ドイツの環境問題に対する対応の展開をみると、社会的な動きが盛んになって非営利法人と地方行政とも歩調をあわせていくようなところがあります。ソーラーエネルギーやパシーフハウスの普及についても『街ぐるみ』という印象を持つのは、そういった流れがあるためでしょう。(高松 平藏)

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発      行 : インターローカルジャーナル
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発  行  人 : 高松平藏 
発  行  日 : 不定期
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