2007-03-26 (vol. 136)
 ─ 『環境年』の値打ち
□□ 目次 □□
【ニュース】環境銀行10周年

【ニュース】今年は『もちろん』環境年
【編集後記】21世紀の先進国の条件

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【ニュース】
環境銀行10周年


【ニュルンベルク】エコロジー分野への投資などに特化した金融機関、ウンベルト・バンク(環境銀行)は今年10周年を迎えた。


同銀行はCEO(最高経営責任者)のホルスト・P・ポップ氏(48歳)が1997年、ニュルンベルクに設立した。同氏が設立を計画したのはその3年前。1994年に夫人とともにD.U.T環境信託有限会社を設立し、環境銀行の創設につなげた。

1996年後半には14の設立者、733の設立出資者から640万ユーロ(約10億円)を集め、その後すぐに約3,300人の個人から1,940万ユーロ(約30億円)が集まった。2001年にはドイツ証券取引所で株式を公開した。

これまで同銀行は6,695のプロジェクトに対して6億8200万ユーロ(約1兆72億円)を貸し付けている。貸付分野は2006年12月31日現在、最も多いのがソーラーエネルギー(33%)。ついでエコロジー・社会的建築物(31%)、風力・水力発電(20%)、バイオマス・バイオガス(8%)、エコ農業・その他(8%)の順になっている。(了)
(1ユーロ=157円)





【ニュース】

今年は『もちろん』環境年


市内の植物園で環境年をアピール。
左からカローラ・シュヴァンク氏(シーメンス)、“環境大臣”のヴュストナー氏、バライス市長、ヴォルフガング・ゴウス氏(エアランゲン・インフラ供給会社)
【エアランゲン】ドイツ南部のエアランゲン市(バイエルン州・人口10万人)はこのほど、市の『環境年』のプログラムを発表した。

先月、市内の中心部にある植物園で記者会見が開かれ、今年の市の年間の標語『もちろん、自然、エアランゲン』を発表した。ドイツ語で “natuerichERLANGEN” と書くが、『もちろん』と『自然』をだぶらせたネーミングだ。

記者会見では市長のシーグリット・バライス博士をはじめ、“環境大臣”相当のポストにあるマレーネ・ヴンシュトナー氏らが顔をそろえた。

今年は年間を通して、環境境教育、セミナー、講演、展覧会、教育と娯楽が伴うエデュテインメントイベントなどのロジェクトが多数開催される。『環境はいつでも、今日的なテーマだ。学校などとも一緒に進めていきたい』(ヴュストナー氏)

■先駆的な環境都市における意義
2月のカーニバルで行われたパレードでは環境年の山車も登場した。
同市はドイツ国内でも先駆的な環境都市のひとつ。かつて“環境首都”の称号をうけたこともあり、今回の環境年も急にでてきたものではない。

環境都市のはじまりは1974年から行われた自転車専用道の整備だろう。日本でも専門家のあいだで『自転車道の街』として知られている。1982年には『グリーン・イン・エアランゲン』という年間テーマを掲げた。88年作成された市の環境報告書では、市内の川や地下水などの自然環境について詳細に調査されている。

1985年には環境局に相当する部署(現・「環境保全とエネルギー問題」局)ができた。当時、西ドイツ国内で環境局を設置する自治体がでてきた最初の時期だった。ちなみに連邦政府の環境省は1年後の1986年にできている。

ドイツの環境問題への社会的・政治的動きは1960年代の学生運動などからさかのぼれるが、いわば環境問題は時代の空気という側面があった。これが緑の党などの政党結党にいたり、環境問題をにらんだ社会システムの構築や法律の制定につながる。1998年には緑の党はドイツ社民党との連立で与党にまでなった。

しかし、現在の若い世代にとっては、ごみの分別など環境対策の諸々のシステムや法律は生まれたときからすでにできているもので、環境問題が『時代の空気』であった世代とは意識が異なる。これを鑑みたときに市が改めて環境年を設定することは意味がある。

ただ年間プログラムに目をむけると、一般や子供向けの取り組みが多いなか、10代から20代前半を対象にしたものが少ない。これを踏まえた記者の問いに対して、プロジェクト責任者のコンラート・ヴォルフェル氏(環境局)は『そういった年齢層への催しがまったくないわけではないが、確かにもう少し必要かもしれない。プロジェクトに協力してくれている若者のグループにも話してみたい』と述べた。

■行政・経済の協力関係
環境問題の中でも昨今、問題として大きくなってきているもののひとつに地球温暖化現象がある。科学的に根拠がないという意見もあるが、現実的には政治・経済の大きなテーマになって久しい。国家間でのかけひきがあり、同時に各国内では産業界と政界のかけひきが展開される。

それに対して、エアランゲンでは温暖化と省エネをにらんだ動きが近年活発化。行政と経済界、さらには活発な市民との協力関係ができている。

たとえば市内では外壁に断熱材を張る工事を行っている共同住宅がよく目につく。市と地元の貯蓄銀行によって戦後まもなく設立された住宅建築会社があるが、同社供給している共同住宅の工事だ。

共同住宅や学校などの公共施設の屋根に太陽発電パネルをとりつけるプロジェクトも進行している。これは積極的な市民がリーダーシップによって生まれたもので、行政や市内のインフラ供給会社、銀行、太陽エネルギーの専門機関らが協力し、数年前にはラウンドテーブルも作られた。これらの動きの中、パシーフ・ハウスと呼ばれる断熱性が高く、太陽熱や雨水を最大限に利用する省エネ型の家屋も増えてきている。

エアランゲンの様子を鳥瞰すると、都市を支える様々な分野が歩調をあわせ、都市をあげてCO2削減とエネルギーの効率化を図っているのがわかる。国レベル、国際レベルではなにかと駆け引きが展開されるが、10万人都市の場合、比較的協力関係が結びやすいといえるのかもしれない。環境年の記者会見でも市長のほか、水やエネルギーなどのインフラ供給会社、地元銀行、市内最大の企業シーメンス社のプロジェクト担当者が顔を並べた。また地元のビール会社の経営者なども参加していた。(了)

※ドイツ語のつづりは英語のアルファベットで表記しています。




【編集後記】
21世紀の先進国の条件


◆ドイツの環境に対する取り組みは反原発、人権運動などの社会運動から出発したようなところがあります。日本との対比でいえば、こうした動きが『草の根』や『オルタナティブ』といったところでとどまらず、政治や金融にまで昇華するのが早かった。これが『環境先進国』といわしめたゆえんでしょう。

◆日本のテレビをたまに見ると、家電メーカーのリサイクルや環境配慮の経営をアピールするコマーシャルが目につきます。ドイツのコマーシャルではほとんど見たことのない内容のものです。ドイツとの対比でいえば日本は政治や社会運動よりも企業の動きのほうが環境問題のアピールの度合いが高いといえるかもしれません。

◆10年一昔といいますが、環境問題と経済の融合はありえるのか、といった議論も一昔前にはありました。しかし今では政治や経済・金融といった分野の中で議論されるようになり、議論のみならず駆け引きのカードになる時代でもあります。

◆日本もドイツも世界の中ではトップクラスの大量生産・大量消費の国ではありますが、エネルギー高効率、資源の有効活用、高い生活の質を成立させることが求められます。この3つの条件は国情の安定を前提に、より効果的な法律やシステムを作る力や技術力、経済力、教育、モラルなどが問われるハードルの高いものです。21世紀の『先進国』の条件といえるかもしれません。(高松 平藏)

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発  行  人 : 高松平藏 
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