2006-12-27 (vol. 134)
─ 舞踏家・竹之内淳志さん ロングインタビュー
1 2 3 4 5 6

竹之内さんの踊りに見入る子供たち(ニュルンベルグ『アジア・ナイト・マーケット)

アルコール・薬物中毒者を
対象にアート・テラピーも


■ポーランドでアート・テラピーもしている。
『ここ4年ぐらい毎年、モナル(※)という施設でワークショップという形でやっています。ここはアルコール中毒・薬物中毒の若者を対象にした更生施設なんですよ』

『ポーランドはまだ経済的に苦しい国で一部の若者たちは職につきたくても職がなく、あぶない薬品を西側へもっていて売買する。それでお金をつかもうとする若者が多くいるわけです。しかも若者自身がドラッグにつかってしまう』

『あるいは親が職を失い、アルコール中毒になっていて働いていない。子供もお金がない。こうした状態の中、結局一家でドラッグにつかっちゃう。それからキノコの中毒、深刻なんだけど田舎のほうへいくと食べるものがないから、キノコを食べてしまう。それでドラッグのようなことがでてくる』
※モナル(Monar)
ヘロインなどの薬物中毒者のための厚生施設。慈善ワーカー、ホームレスやHIVなど恵まれない人々に尽力した政治運動家Marek Kota?skiによって1978 年に設立されたポーランドのNPO。Monar はポーランド語の"Miedzynarodowa Organizacja Narkomanow" (International drug-addicts' Organization)の略。現在157以上の『モナル・センター』がある。

■2004年にポーランドがEUに統合されました。今年、イタリアの休暇地へ行きました。そこはドイツからの客がほとんどですが、ポーランドの客もちらほら。2003年の時にはまったく見られなかった。ポーランドの経済成長を感じたのですが、実態はまだまだ深刻そうですね。
『そうですね。この施設ではあらかじめ、個人的な体験は聞かないという約束になっているので、詳しくは分かりませんが、ここの若者たちは死と背中合わせになることを体験し、狂気を潜り抜けてきた人たちです。たとえば母親と父親が殺しあったとか、目の前で父親が殺された、家族のだれかが売られてしまったなどといった体験をしてきている。この時の「暗さ」を開放できないでいる』

■ 尋常な経験ではないですね。
『ポーランドの人の感覚が鋭いなと思うのは、こういう若者を対象に舞踏をぶつけてみるというアイデアが出てきたことですね』

『ここではアート・テラピーなどは6年前にはなかったのが、そういうものをいれていったほうがいいのではないか、それも体のいいアートではだめ、もっと毒のあるものが必要ではないか、ということから僕が呼ばれた。彼らにクラッシックバレエを教えてもしかたがないわけです』

■具体的にどんなことをしますか。
『「今、炎に包まれた部屋に皆いるんだ。ここで焼かれて死んでしまうかもしれない。そんなときにどんな踊りができるか」というめちゃくちゃな話をするときもあるんですよ。火の中に踊ってみようというふうにいう。そして、一緒に踊り、それによって昔の自分はやけおちて、再生のダンスというようなことをするわけです。それで恐怖から脱皮していく可能性がある』

『地震で怖い体験をした神戸の子供たちは地震の絵を何度も描く。それによって地震に対して強さをもつわけです。それと同様に若者たちも自分がみてきた恐ろしい場を舞踏を通して自分の奥そこにあるものをもう一度確認する、そして自分で「あれは何だったのか」と問いかけることができる。』

■舞踏以外にもその施設では何かやっているのでしょうか。
『言葉で表現するということで、ラップで音楽をつくっている。自分たちがおかれている立場や反権力のようなこととか、自分を解放させたい、社会をかえたいといったようなことを言語化していくというようなことをしています』

■身体と言葉の二本立てというわけですね。
『ただ、ラップでも自問自答はできているかもしれませんが、彼らは決して言葉のプロではない。だから自分の体験を整理できず言語化しきれないことが多いのではないかと思う。また、この施設で個人的なことはあまり言わないようにしているようです。そういうこともあるので、内にあるものをすべて出し切るということは難しいと思います』

『舞踏は本当に自分の体から生まれてくるもの、吐き出すものです。舞踏を使おうとしたのは、自分の本当の内面、奥にあるものを、あけない限り、ずっと心のおくにたまっていて、そのドアをあけずに社会に順応するということをやっても限界があるからではないでしょうか。いずれにせよ、そういうことに対する渇望が高いと感じますね』

■効果のほどは?
『舞踏のワークショップがどんな効果をもたらしているのかはわかりません。ただ更生施設の効果ということでいうと、それなりにある。彼らは半年ごとに入れ替わるのですが、60%は更生します。残念ながら40%はまた元の世界に戻ってしまうのですが・・・』

『彼らの中には、もともと住んでいた地域からはなれて一から出直したい人もたくさんいる。ところがポーランドの経済状況では難しい。結局、もとの地域にもどってもどってしまう。親と一緒とか、複数でくらしていかないと、1人が1人分の仕事をしてもそれがすべて家賃になってしまう。また、施設から元にもどったところで麻薬密売者というレッテルが貼られている。そうすると仕事が見つからない。あるいは悪いグループに戻ってしまうなど、厳しいようです』 
次へ
■■インターローカルニュース■■

発      行 : インターローカルジャーナル
http://www.interlocal.org/  
発  行  人 : 高松平藏 
発  行  日 : 不定期

    Copyright(C)  Interlocal Journal
引用、転載の場合「高松 平藏」が執筆したこと、または「インターローカル ニュース」からのものとわかるようにしてください