■■インターローカル ニュース
■■ Interlocal News  2005-09-02 (vol. 121)

 

─ 『家族』、どうする? 前号次号

 

□□ 目次 □□
【インタビュー】 少子化対策は競争力とつながっている/ エアランゲン商工会議所所長、レナテ・ドェブリンさん

【ニュース】 詩人の祭典で『家族』を考える/シュミット家族相が参加
【編集後記】 2人の“レナテ”


【特別編】パネル・ディスカッション『家族ー終わりに向かっている?』
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【インタビュー】

少子化対策は競争力とつながっている

エアランゲン商工会議所所長 レナテ・ドェブリンさん

レナテ・ドェブリンさん
EUで最も「家族に優しい国」を目指すドイツ。その実現には経済・政治双方の協力が不可欠で、その具体的な現場は地域社会にある。エアランゲン市のIHK(商工会議所)所長、レナテ・ドェブリンさんに話をきいた。 (取材・構成 高松 平藏)

■経済界での認識は?

『最近メディアや国が少子化をテーマとして幅広く扱うことが増えました。少子化が(大切な)テーマとして企業もようやく気付いた。この状態が続くとスキルの持った人材が不足するのが見えていますからね』。

■外国から人を導入しても不足するとも。
『そうです。そのことに企業がやっと気がついた。少しづつですが家族に優しい環境というのが必要なものとして認識されつつある』。
『人手不足になってしまうと、経営者は優秀な人材を自社に引き込むための手段を考えなければならないわけです。つまり経営者は一度自分の会社で働いた優秀な女性を引き止める方向で考えていかなければならない』。

■その方策が家族に優しい経営というわけですが、具体的にはテレワークによる自宅勤務など様々な方法があります。
『そうですね。一方、勤務時間が決まっているサービス産業などは幼稚園などに預けている子供を誰かが1人巡回して迎えにいくといった協力体制をつくるということもひとつの手ですね』。


■家族に優しい経営の実現は難しいのでは。
『ニュルンベルグ地方(エアランゲンもこの中にある)は外国企業の誘致を行っていますが、外国企業は当然、自国の慣れている環境を水準に考えるわけです。ドイツよりも家族のための環境のよいスカンジナビアやアメリカの企業がいい意味でわれわれの地域にプレッシャーを与えてくる』。
『ニュルンベルグ地方が最近メトロポリタン・リージョン、すなわち国際的な広域地域として競争力を高める戦略に出ていますが、家族向けの環境整備も地方の競争力につながるわけです』。

■小規模の企業に対してどんなふうな啓発をしていますか。
『規模にかかわらず、企業の経営者に対してセミナーに招待しています。ISO(国際標準)などもそうでしたが、家族に優しい経営をしなければ「仲間はずれ」になってしまうというふうにもっていくわけですね』。


【取材メモ】新たな『連帯』つくれるか
 『連帯』というと労働運動などを想像する人が多いと思うが、ドイツでは階層や分野を越えた協力という意味でこの言葉がよく使われる。そしてこれがドイツの社会を成り立たせている重要な部分だ。

 家族に対してよりよい環境の整備はこれまで政府が主導でやってきたが、今後は企業、地域、政治の連帯によって築かなければならない状態になってきている。

 ドイツ社会が内部にもつ『連帯』という強みを発揮できるかどうかが試されている。(了)






【ニュース】
詩人の祭典で「家族」を考える
シュミット家族相が参加
 

メイン会場の宮殿庭園で行われたパネル・ディスカッション
毎年エアランゲンで行われる文学フェスティバル『詩人の祭典』でパネル・ディスカッション『家族−終わりに向かっている?』が行われ、パネリストに『家族・高齢者・女性と若者のための大臣』レナテ・シュミット氏(女性)が参加した。議論はドイツの歴史にも言及され、ドイツらしさがよく出た。なお、議論の内容については当サイトで再現した。

レナテ・シュミット家族相
 同パネル・ディスカッションではシュミット大臣のほかに自らの作品の中で家族を扱っている作家4人も参加。(男性、女性各2人)。まずはモデレーターのフェレネ・アウファーマン氏(女性)が『家族』というモデルに将来はあるかとの問いに、シュミット氏は『将来はある』と断言。現代のように変化の激しい時代には人々は安定した場所を必要とする、そういう場所は『家族』しか提供できないという意見を展開した。

 また社会的な背景からの言及がおこなわれたほか、ファシズムの歴史がある国々の出生率が低いことが指摘された。それに対して男性作家のハンス-ウルリッヒ・トライッヒエル氏は、歴史的な記憶が影響しているとすれば、出生率の低さの原因はメンタリティの問題、それならば、男性側からみた出生率の低さの理由を見る必要もあると問題提起した。

政府はすべてできるわけではない
 現代において家族が複雑なものになってしまったとの見解を示したのが男性作家アルノ・ガイナー氏。大家族は安定しているが、核家族はちょっとしたことで崩れやすい。核家族を安定させる環境を整備するべきだと述べた。

 それに対して、シュミット氏は『1人の子供を育てるには1つの村が必要』というアフリカのことわざをひきつつ、『しかしドイツではそういう考え方はない、ゆえに現代的なネットワークが必要』と発言。

 またシュミット氏は国は子供の面倒を見る施設や機関をつくることや、経済界に子供に優しい職場づくりをするように声をかけることはできるが、基本的には個人が自分の生活の中で解決していくべきことが多いといったことを述べた。

 同フェスティバルは今年で25回目。8月25-28にかけて行われたもので、期間中、作家による朗読やフォーラム、展示、コンサートなどが行われる。街の中心地にある宮殿庭園がメイン会場で、静かで緑に囲まれた野外で文学を楽しめる。エアランゲンの街の雰囲気づくりに一役買っている。(了)





【編集後記】 
2人の“レナテ”


◆今回は2人の“レナテ”の登場です。いずれも商工会議所や政治の世界の最前線で活躍のお2人。商工会議所のドェブリンさんは時々顔をあわせることがあり、『しなやかでエネルギッシュなお姉さん』がそのまま歳を経た感じです。一方、多くの政治家がそうであるように、シュミット大臣のほうも間近で取材をすると、静かながらも力強い語り口に迫力があります。

◆2人の“レナテ”さんはいずれも50代、60代。ドイツの経済成長とともに子育ての時期を過ごした世代です。いわば現在の女性や家族に関する社会的な世論をつくっていった世代でもあります。それだけに、両氏の存在は説得力があるといえるでしょう。

◆さて、わが家のように現在子育ての真っ只中にある30代、40代。世代論的にいえば個人が社会に働きかけていくことで社会を変えていけるという実感がうっすらと残っている世代です。社会の中核にいる世代でもあり、しかもかつてのような『プロテスト』一辺倒の考え方が小さいというのも特徴。

◆ドイツ国内の各地域ごとの『家族のための同盟』という活動のグループが作られています。エアランゲンにもこの7月にはじまり、子育て世代の人たちがあれこれプロジェクトを立ち上げようと奮闘しています。ただ、話しあいのスタイルについては個人の温度差が高くて、少々から周り気味のようでありますが。。。。

◆さて、たびたび紹介しておりますが、私は『ドイツ発 わが輩は主夫である』というメルマガも発行しております。インターローカルニュースと併読してくださっている方もたくさんおられるようですが、『兼業主夫』の日々の出来事を入り口に日独の文化比較や家族のあり方などにまで言及した内容でお送りしております。ご興味のある方は登録をどうぞ。(無料)

◆明日から妻は10日間の休暇。今週ようやく暖かくなった『夏』ですが、来週はどうなるかな?皆様、よい週末をお過ごしください。(高松 平藏)


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発  行  人 : 高松平藏 
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