インターローカル ニュース
 連 載
前号次号

メールマガジン
『インターローカル ニュース』の無料配信をおこなっています。

お申し込みは
こちら

| インターローカルニュース | 連載記事一覧 | 筆者について | 

 第3回 どんな言葉をつかっているのか


ジャーナリズムとは何かという議論が日本で盛んだ。インターネットやブログの台頭でジャーナリズムの具体化のための道具がすっかり変わったためである。今回はジャーナリズムの条件を言語から考えてみたい。

ジャーナリズムの位置

  ジャーナリズムは西欧において近代社会の成立になくてはならない存在だった。そのため強靭な歴史的文脈が流れている。その中でどういう役割を担ったかといえば、権力の監視が大きかった。

 19世紀の国民国家の文脈でいえば、国家とは個人に介入してくる存在であり、その介入を阻止するのが『社会』とか『公共』である。いわば『国家-社会・公共-個人』 という三層構造をつくっている。

 一方、日本では社会と世間を混同しているし、公とはお上をさした。お上の下に個人がいるという二層構造なのだ。

 西欧においてジャーナリズムはどの層に位置しているのかといえば、社会とか公のところだ。そこで権力の監視をし、個人に対しては『知る権利』を提供する。この役割と位置づけをみれば、19世紀の国民国家の文脈からいうと、実は日本にはジャーナリズムの居場所がないということになる。

最低条件
 ジャーナリズムの仕事をもう少しかみくだいてみよう。
 一言でいえば、権力に対してツッコミをいれるのが仕事である。ツッコミといってもデートをすっぽかした恋人にイヤミを書き連ねた手紙を書くのではない。私信ではなく、公の言葉で堂々とツッコむのである。

 この『公の言葉』というのが大切だ。ジャーナリズムは公の言葉で国家権力の監視を行い、同時に社会をかたちづくる。そして個人に対して知る権利を具体化する。

 つまりジャーナリスト(=ジャーナリズムを行う者)は公の言葉を操れなければいけない。これがジャーナリストの最低限の条件であろう。

 公の言葉とは、言葉を発する者が誰であるかということが明らかであり、その者が責任の持てる範囲で発するということである。ジャーナリストにとって、調査や取材はその担保であるわけだ。

『親愛なる同僚殿』
 ドイツにいると面白いことがある。
 毎日いくつかのプレスリリースが広報担当者から私のもとに届くのだが、その中に『親愛なる同僚殿』という書き方ではじまるものがある。

 なるほど、ドイツの広報マンにはジャーナリズムを学んだ人がけっこう多いようであるし、広報担当はジャーナリストの転職先のひとつだ。逆に広報を行っていた人がジャーナリストになるケースもあるようだ。

 なぜこういうことがおこるのかを考えると、ドイツは職業意識が高く、制度も職業別になっているということがある。それにしても、もう一歩ふみこんで、広報マンとジャーナリストがなぜ『同僚』なのかと考えると、『公の言葉』で社会に発信できるという能力を職業として持っているということなのだろう。

 広報とは組織について公の言葉で語ることだ。厳密にいえば、組織を社会的存在として位置づける行為であり、企業の広告や宣伝は消費者へ投げかける行為である。むろん、現代は消費者も社会的存在と位置づけて論じられるが、あくまでも原則論としては消費者という個人に向けられるのが広告・宣伝なのである。

地域で『公の言葉』を操れる人
 新聞とはジャーナリズムを具体化するメディアで、同時に公共の言語空間をつくる。しかも、ドイツの郷土紙をみると、公共の言語空間と実際の読者の生活の公共空間(=街)が一致しているということはすでに書いた。

 私が住む人口10万人ばかりのエアランゲンにジャーナリストが市民としてたくさん住んでいるという話も書いた。

 そして、ドイツの街には市役所、非営利法人、大学、教会、そして企業といった各組織に広報マンがたくさんいる。

 すなわちドイツの郷土紙は 『公の言葉』を操つれる者がジャーナリスト、広報という両方の立場の専門家が支えているということになろう。

 さらに、以前も触れた郷土紙における『読者からの手紙』はいわば市民が公の言葉で公共の言語空間に意見を表明することである。 『公の言葉』を操れる市民はジャーナリストとしての最低条件をクリアしている。(つづく)
(2006年9月27日 高松 平藏)
■■インターローカルニュース■■

発      行 : インターローカルジャーナル
http://www.interlocal.org/  
発  行  人 : 高松平藏 
発  行  日 : 不定期

    Copyright(C)  Interlocal Journal
引用、転載の場合「高松 平藏」が執筆したこと、または「インターローカル ニュース」からのものとわかるようにしてください

|インターローカルニュースtop | 本編 |