2008-06-13 (vol. 146)
 ─ サブカルチャーとメセナに関する2題
□□ 目次 □□
【ニュース】コミックのフェスティバル開催/サブカルチャーとしての存在感大きく

【ニュース】企業の文化支援、継続型多く/商工会議所が調査
【編集後記】文化支援と社会の関係

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【ニュース】
 
コミックのフェスティバル開催
 サブカルチャーとしての存在感大きく



コミックサロンのメイン会場入り口。今回で13回目を数える

中国作品を紹介した展覧会。竹がしつらえられているが、これが欧州の人にとって「アジア」のイメージを強める。
【エアランゲン】2年ごとに行われるコミックのフェスティバル『インターナショナル コミックサロン』がこのほどエアランゲン市で行われた。

同フェスティバルはドイツ南部のエアランゲン市(人口10万人、バイエルン州)で先月22日から25日にかけて行われた。今回13回目を数える。出版社やコミック関係のグッズを扱う企業の見本市のほか、映画、展覧会、シンポジウム、作家によるサイン会などが行われる。ドイツ語圏でも最大のフェスティバルだ。

市街にはのぼりがたち、街中にフェスティバルの雰囲気が漂う。ドイツ国内はもとよりスイスやオーストリアといったドイツ語圏の国からも人がやってくる。レストランやホテルなどの利用者が増えるためフェスティバルには『経済効果』もある。

昨今の日本のMANGAブームはよく知られたところだが、同フェスティバルでも90年代後半からその存在感を増している。前回、2006年を振り返ると、『名探偵コナン』の作者、青山剛昌氏が招聘されほか、、MANGAブームを入り口に茶道のグループによる日本文化の紹介なども行われている。また市内の映画館でも日本アニメが上映される。

今年のテーマは中国。市内の大ホールでは中国のマンガ家やその作品の展覧会が行われた。それにあわせて、茶道グループも日本の『ティー・セレモニー』以外に中国茶の説明や試飲なども行った。

コミックの描き方教えます
「コマわり」の説明を熱心に聞く参加者
多数のプログラムの中、今回はマンガの描き方を教えるセミナーも開かれた。

これはドイツ、オーストリア、スイスといったドイツ語圏14箇所で展開している『コミカデミー』によるもので、出版社業界の話からコミックのコマ割の説明まで幅広い内容だ。老若男女、約20人が参加。熱心にメモを取る姿が見られた。

日本では京都精華大学が先駆的にマンガ学部を設置されることで知られているが、ドイツでもコミックについて、何らかのかたちで『教える』という動きが出てきたといえる。『コミカデミー』の資料によると、2009年からはドイツ国内で『コミカデミー・キャンパス』を展開するという。

ところで、今でこそ、サブカルチャーとして認識されているMANGAだが、かつて日本でも漫画は子供のものという考え方が大きく、それ以上にPTAなどから悪書と批判された時期もあった。『手塚治虫物語』(朝日文庫)によると昭和30 年ごろの悪書批判に対して、手塚は、マンガは『主食』とは別の『おやつ』といった『漫画おやつ論』をテレビで展開したことが描かれている。

ドイツでもコミックといえば、あくまでも子供のものという考え方が主流だったが、MANGA人気の台頭などを背景に10年ほど前からサブカルチャーとしての存在感が増してきた。

期間中の訪問者数は25000人以上。前回に比べて20%増えた。(了)




【ニュース】
企業の文化支援、継続型多く
商工会議所が調査


ドイツ・バイエルン州北部のミッテルフランケン地方の企業を対象に、このほど文化支援に関する調査が行われた。

社員500人以下の企業も文化支援
同地域管轄の商工会議所(ニュルンベルク市)は地域内の企業に対して文化支援に関する調査を行った。2月13日から3月1日のあいだに106件の回答を得た。

同調査結果によると、そのうち76.1パーセントに相当する81社が文化に対してスポンサリングといった文化や芸術家への支援をしたことがあるという。しかし調査報告にはどの程度の回答率かは明記されていない。アンケートに回答する企業はそもそも文化支援を行っているというケースが多いことは考えられる。したがって76.1パーセントという数字から同地方の企業は文化支援が盛んだという評価はできない。

しかし着目すべきは、文化支援を行っている企業の規模だろう。調査結果によると、文化支援をしたことがある企業のうち38.5%が社員500人以上の規模の企業だという。これは、いいかえれば文化支援をしたことがある企業の6割程度が社員数500人以下の企業ということになる。

多い、支援継続派
支援分野は数字の上では展覧会が最も多いが、音楽や演劇・カバレット(政治・社会を皮肉るようなお笑い芸)への支援も多い。さらに今後も支援の予定があるかとの問いに対して、「No」と答えたのは23.3パーセント。4分3以上の企業は文化支援を継続していくかたちだ。

一方、文化支援のための動機は何なのだろうか。
もっとも多かったのは企業の『イメージ』だ(74.3%)。しかし『パトロネージュ/地域への助成』という動機も68.9パーセントを占めている。ほかには『存在感のアピール/販促』(50%)、『顧客との結びつき』(43.2%)と続く。

文化支援の本質は理解されている?
ドイツの企業は一般に地元へのまなざしが強い。都市の発展の歴史に伴走するかたちで、拠点の社会の発展が企業収益につながるという考え方が源流にある。そのため文化への支援はまわりにまわって、企業にとってもメリットが生じるということになる。

また一般にキリスト教圏では財を成したものや、権力・社会的地位を得たものには社会に対して貢献しなければならない、という考え方がある。いわゆる『高貴なるものの義務(ノブレス・オブリージュ)』だが、この考え方が企業の経営者にも引き継がれている面もある。

調査結果からいえば、企業イメージの向上が文化支援の動機の一位となった。おそらくこれが大多数の本音ということだろう。しかし、一方で『パトロネージュ/地域への助成』という動機も高いことから、文化支援の本質的な役割が企業経営者に浸透しているといえるだろう。(了)




【編集後記】
文化支援と社会の関係

◆企業が芸術や文化にカネを出す『メセナ』。社会貢献のひとつと考えてもよいが、日本でも議論がおこってすでに久しい。ドイツの場合、自社の拠点を対象にするケースが目立つ。ずいぶん以前だが、あるグローバル企業のアートプログラム担当者が『拠点に対するお返し。企業の社会的責任だ』と述べたことがあった。グローバル企業といえども貢献する社会とは『拠点』をさす。立脚する地域の『社会』の発展が企業の成長につながるという考え方が奥に見える。

文化支援と社会の関係についての全体像の理解はなかなか大変だ。ただ文化の享受という観点からいえば、仕事とそうでない部分をきりわける古代ギリシアの労働観も影響しているように思える。仕事以外のところでは文化や芸術が重要だ。とりわけハイクラスの人ほどそう考える。ということは、生活の質の高い地域にはハイクラスの人がくる。つまり優秀な人材が集まる。企業にとっては質の高い社員を雇える。そんなモデルが描ける。さらに職住近接という事情も見逃せない。地元の生活の質の向上は社員とその家族の住環境の向上を意味する。

◆コッミクサロンにも『パートナー』として地元の企業の名前が見える。そのひとつが日本でも筆記具や製図用品で知られるステットラー社。同社はエアランゲンと隣接したニュルンベルクの企業だが、エアランゲンとの境界に近いところに社屋がある。ジャーナリストに配られる広報資料には同社のペンがついていた。(高松 平藏)


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発  行  人 : 高松平藏 
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