2008-05-12 (vol. 145)
 ─ 環境問題、意識と技術
□□ 目次 □□
【ニュース】日環境年は終わったが

【ニュース】住宅関連の環境メッセ開催
【編集後記】住宅の環境技術についての実感

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【ニュース】
 
環境年は終わったが・・・



昨年、1年間にわたり環境年としたドイツ南部のエアランゲン市(人口約10万人、バイエルン州)は、このほどアクション・イヤーの記録を発表した。

同市は昨年『ナテュアーリッヒ・エアランゲン』というアクション・イヤーを設けた。この名称は『もちろん』と『自然』という意味の言葉を掛け合わせたもので、『もちろん、自然保護』といったような意味になる。

自然をテーマに、地元のギムナジウムなど複数の学校の学生たち250人が地元の森や川で芸術作品を作るプロジェクトも行われた。写真はその一環で行われたイベント。(2007年11月
その名のとおり、自然をテーマにした取り組みが中心で、1年間にわたり、110のイベントが行われ、16のプロジェクト、14の展示会が行われた。訪問者はのべ5万人。また46のフェライン(非営利組織・協会)や機関が参加した。さらに16のスポンサーが環境年を応援。全予算約41万ユーロ(約6,560万円)のうち約25万ユーロ(約4,000万円)を負担した。(1ユーロ=160円)

また環境年を機にエアランゲン環境賞を創設したほか、来月も国際環境デーにあわせた環境週間を設ける。こうして同アクション・イヤーの枠組みを継続させる。

エアランゲン市は1970年代から自転車道の整備が始められ、『環境首都』の称号を得たこともある。環境年のような取り組みは同市の歴史を踏まえ、継続的に環境問題を街の中で顕在化させることにつながっているといえそうだ。(了)




【ニュース】
住宅関連の環境メッセ開催


ドイツ南部のエアランゲン市で、このほど建築関係専門の環境見本市が行われた。

パシーフハウス(省エネハウス)に用いられる窓。現在の一般住宅は二重窓だが、パシーフハウスは断熱性を高めるためにガラスが三枚使われている。
先月5日、6日の2日間にわたり、市役所に隣接する大ホールで環境見本市が行われた。同見本市は建築、住宅、エネルギーといった分野に特化したもので、近隣地域の約90の事業者が出展した。

ドイツでは景観維持や建築素材などの要因から住宅の寿命は長い。古い住宅も改築を繰り返しながら使用され続ける。また冬の寒さが厳しい気候であるため、エネルギーを最も消費するのが暖房だ。そのため暖房と断熱のための技術は人々にとって関心が高い。

そんな事情からも、メッセ会場には断熱性の高い建築技術の紹介などがよく目につく。また古い住宅の改築、太陽発電、パシーフハウス(省エネ住宅)といったテーマの講演などもあわせて行われた。

本音はコスト削減?
エアランゲン市の環境局(正式名:「自然保護とエネルギー問題」局)の一室ではひっきりなしに電話のベルが鳴る。住宅の改築に関する相談の電話で、対応しているのがコンラート・ヴォルフェルさんだ。

7月から住宅を売る場合や人に貸す場合、エネルギー・パスとよばれる証明書が必要になってくる。これは住宅の『燃費』がどれぐらいなのかを示すものなのだが、これが相談件数の多さにつながっている。

しかし、ヴォルフェルさんによると『もちろん電話相談の多さはエネルギー・パスの義務化のこともあるが、年間の暖房費を下げたいという人もかなり多い』という。

省エネ技術やクリーンエネルギーは気候温暖化対策とセットになっている感があるが、消費者としてはエネルギー高騰が続く中、少しでも暖房費コストを下げたいというのが本音といったところだろうか。

普及する省エネ住宅
一方、近年は雨水や太陽光発電といったことを利用し、かつ断熱効果を最大限にしたパシーフハウス(省エネ住宅)にも注目があびている。『エアランゲンで初めて建てられたのが1999年。現在は20−30軒のパシーフハウスがある』(ヴォルフェル氏)。現時点ではパシーフハウスの施主といえば、環境問題に関心の高い人という傾向はあるようだが、じわじわ普及しているのがうかがえる。

ひるがえって、環境見本市に出展したパシーフハウス用の三重ガラスの窓を扱う会社の担当者は、『今はまだまだ広告やマーケティングを進めていかねばならない状況。しかし市場のポテンシャルは高い』と言う。

エネルギーコストを気にする消費者、気候温暖化問題の解決という課題、建築分野の新規市場、法的規制といったものがからみあっているのが最近のドイツの住宅をめぐる現状といえそうだ。

同見本市は建築関係の環境分野に特化したマーケティングと見本市を行うマットフェルト&サンガー マーケティング・メッセ社によるもので、様々な都市で同様の見本市を展開している。エアランゲンでの開催は今年で3度目になる。(了)




【編集後記】
住宅の環境技術についての実感

◆取材などを通して私が感じる住宅における環境技術の広がり具合を述べておきたい。はじめて太陽光発電などに関する取材をしたのが10年ほど前。ちょうどエアランゲンではじめての一般のパシーフハウス(少エネハウス)ができたころだが、まだまだ一般には手に届きにくいイメージが強かった。

一般住宅の太陽光発電やパシーフハウスを取材したのが4、5年前だった。その頃、ある友人に『こんな家を見てきた』と話した。彼は博士号も持つ、いわゆる『知識人』。ドイツの階級社会のようなものはまだ残っていて、知識階級とそうでない人では社会的関心や購読する新聞なども異なる。その友人は私の話に『ああ、なるほど』と聞いていたが、そういう住宅があるのは新聞か何かでも読んだことがある。という程度の反応だった。

ところが、である。1年ほど後に会った時、彼は熱心にパシーフハウスのことを話した。この様子をみると、2003年、04年ごろ、ドイツ社会で急速に身近な建築技術になってきたのではないかと思える。背景には太陽光発電に関する補助金制度やエネルギー高騰、技術の確立、温暖化など様々なものがあると考えられるが、それに平行にメディアが扱うことも増えたということなのだろう。エアランゲンの環境見本市が成り立つのもうなずける。

◆『環境先進国』といわれるドイツも所詮、大量のエネルギーを消費する、いわゆる先進国である。そして生活の質は落とせない。それだけに省エネ技術やクリーンエネルギーの開発は重要だ。また1990年代には経済と環境問題は両立するかというテーマが大真面目に語られるようなことがあったが、今や技術開発、国際・国内政治、市場経済などが複雑にからみあったものになっている。(高松 平藏)


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発  行  人 : 高松平藏 
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