2007-11-22 (vol. 141)
 ─ 地域をかたちを提示するしかけ
□□ 目次 □□
【インタビュー】『風刺のお笑い』ご当地芸人“K K K”の活躍

【ニュース】街の歴史上の事件をダンス作品化
【編集後記】地方を造詣する芸、街の記憶を形にする舞台

メールマガジン
『インターローカル ニュース』の無料配信をおこなっています。


お申し込みは
こちら


【インタビュー】
『風刺のお笑い』ご当地芸人“K K K”の活躍
カバレティスト 
クラウス・カール=クラウスさん

エアランゲンのご当地カバレティスト、“KKK”ことクラウス・カール=クラウスさん。“KKK”はドイツ語読みで「カー・カー・カー」と発音する。
“KKK”と書くとアメリカの白人至上主義団体のクー・クラックス・クランを思い出す人も多いだろうが、エアランゲンではクラウス・カール=クラウスさん(=写真)のことを指す。ドイツには社会・政治を風刺や皮肉たっぷりのお笑いを話芸や音楽で展開するカバレットという芸がある。同氏はエアランゲンのカバレティスト。地元での活躍ぶりをきいてみた。(高松 平藏)

■ドイツは人材、施設、政策、メディアそして“お客”とあらゆる面で地方の文化が充実しています。それにしてもエアランゲンおよび周辺地域を指すフランケン地方でお客さんは十分ですか?

『フランケン地方ではカバレットに興味のある人がたくさんいますよ』
『私は他の地方でも舞台にたつことがあるのですが、面白いのはフランケンそのものに興味を持っている人がいますし、もちろん“フランケン人”も住んでいるのがわかる。まあこれは、ここ数年フランケン出身の2人のカバレティストが全国規模のメディアに出演するなどの活躍があることも影響していると思います』

■エアランゲンでの舞台チケットも売り切れが早い。
『エアランゲンのカバレット専用劇場、フェフティ・フィフティでは年間12-14回程度、出演しています。もっとも、そうこうしているうちに隣町のフュルト市で舞台をもつことも増えました。年間26-30回出演している』

エアランゲンで
KKKは
大切な存在です


■ 存在感は大きいですね

『フランケン全般では“KKK”の存在感はそれほどでもありません。なぜなら、フランケン地方とほぼだぶる“メトロポリタン地域 ニュルンベルク”を対象にカバレットを展開しているアーティストがたくさんいるからです』
『しかし私は年6回程度、テレビで“フランケンのカバレット”という番組の司会をしています。この仕事を通して、影響力を強める可能性はある』

■エアランゲンではどうですか
『“KKK”は大切な存在です。毎年地ビール会社が行うビールのお祭りがあります。このときにエアランゲンのVIPが集まり、私も舞台に上がる。当然、皆さんは風刺のようなものを期待しています。しかし、(会場にいる本人たちが風刺対象になるため)もっと軽いものをほしがっている。「私を洗ってください。でも濡らさないでください」という感じですね』

地方を映し
方言で世界を笑う


■カール=クラウスさんにとってエアランゲンはどんな街ですか。

『エアランゲンは私にとっていくつかの魅力がある。まずは市街から自転車で5分も走ればどの方向でも緑がある。それからビール祭り。エアランゲンの“5番目の季節”で、世界でただひとつのものです』
『同市は人口10万人の都市ですが、グローバル企業のシーメンスと大学があるおかげで、あれほどの多くの外国語や方言が行きかう街は他にないのではないかと思います』
『エアランゲンはニューヨークのような碁盤の目に作られている。これは大昔にフランスから移ってきた人たちによるものですが、いすれにせよマンハッタンよりもはるかに早く作られた』

■エアランゲンやフランケンでのカバレティストの役割は何だと思いますか。
『この地域のトレンドを映し出すのが仕事です。そしてもう一方で世界中の問題をフランケンの方言でお客さんに伝えるということですね』

クラウス・カール=クラウス(Klaus Karl-Kraus)さん
1951年エアランゲン生まれ。カバレットのほかに、ミュージシャン、モデレーター、レポーター、著述活動なども行っている。

【関連記事】高松平藏 のノート『風刺お笑い〜カバレットとドイツ社会




【ニュース】

街の歴史上の事件をダンス作品化

【フュルト】 ドイツ南部の都市、フュルト市(バイエルン州、人口約11万人)でこのほど街の歴史的な事件を作品化したダンス作品が上演された。

フュルトの孤児たち(写真=フュルト市市営劇場)
同市営劇場で11月に上演されたダンス作品『マイム・マイム』は同市の歴史的事件を題材に作品化されたプロジェクト。フュルト市はユダヤ人の多い街だったが、ナチス時代にユダヤ人市民の子供33人が孤児になった。子供たちは孤児院で過ごすことになったが、彼らも強制収用所のあったベウジェッツ(ポーランド)へ送られ、戻ってくることはなかった。

この作品にはイスラエル、セネガル、インド、中国、ポルトガルなど世界中から33人のダンサーが招聘され、地元のアーティスト、ユッタ・クツルダさんによって作品化された。日本からも野口雅子さんも出演した。

作品は33人のソロダンスが中心になったもので、各ダンサーが孤児の一人一人を象徴するかたちだ。

なお『マイム・マイム』は日本でもフォークダンスとしてその名が知られているが、もともとイスラエルの民謡で『水』を意味する。

街の記憶を芸術作品に
ドイツの都市は自らのルーツや歴史を大切にしていく傾向が強いが、フュルト市の場合は『ユダヤ系市民の多かった街』という歴史をかなり意識的に市の文化プログラムに反映させている。

まずは10年ほど前にユダヤ・ミュージアムが開設している。このときは全国ニュースにもなった。

またクレッツマー(日本ではクレズマーと紹介されることが多い)という東欧系ユダヤ人がルーツの音楽があるが、毎年クレッツマー音楽フェスティバルを開催している。市営劇場でもユダヤ人にスポットをあてた作品が上演されている。

そして、なによりもこの市営劇場そのものが、100年ほど前にユダヤ系市民によって建設されたものだ。

また2007年は同市の1000年記念年の年で、この枠組みの中で『街の記憶』を舞台作品化されたのが今回の作品だった。また今年のはじめには同市出身の首相や経済人を主人公にしたレビュー作品が上演されている。(了)




【編集後記】
地方を造詣する芸、街の記憶を形にする舞台


◆KKKこと、カール=クラウスさんは地方の方言を武器に、世界に対峙し、かつ拠点地方をお笑いで造詣していきます。大阪の漫才にも関西人のメンタリティをネタにして形にするケースがあります。こういう芸を通して地方の特長が確認されていくのではないでしょうか。

◆カール=クラウスさんは『KKKはエアランゲンにとって大切だ』という発言していますが、あたかも自ら街のトリックスターを自認しているようにとれます。

◆一方で街の記憶を作品化したのがフュルト市。こういう行為が街の存在やルーツを確認していく作業になっていきます。
ドイツは連邦制で、いわば地方分権です。アートや芸の世界も地方がしっかりしている。こういった行為が地方のかたちをはっきりさせていくのでしょう。(高松 平藏)

■■インターローカルニュース■■
発      行 : インターローカルジャーナル
http://www.interlocal.org/  
発  行  人 : 高松平藏 
発  行  日 : 不定期
    Copyright(C)  Interlocal Journal
引用、転載の場合「高松 平藏」が執筆したこと、または「インターローカル ニュース」からのものとわかるようにしてください