2007-02-26 (vol. 135)
─ 経済、文化と地方
□□ 目次 □□
【ニュース】地元の経済人をレビュー仕立てで

【ニュース】バイエルン内の多様性を示す展覧会
【編集後記】経済と文化で地方の結晶性高める

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【ニュース】
地元の経済人をレビュー仕立てで


【フュルト】ドイツ南部のフュルト市(バイエルン州、人口約11万人)の市営劇場でこのほど同市出身の著名人を主役にしたレビュー作品が上演された。フュルト市は今年1000年祭の年。年間を通して様々な催しが行われるが、今回の作品もその一環。


公演の一幕(写真=Stadttheater Fuerth)
天国にいるスーツ姿の3人の紳士が20ユーロをもって下界へおり、誰がどれだけお金を儲けられるか──。歌と踊りを交えてそんなストーリーがすすむ。“エコノミック”レビュー作品『ペチコート & シッケダンス』が先月、上演された。

3人の紳士とはルートヴィヒ・エアハルト、マックス・グリュンデイヒ、グスタフ・シッケダンツである。いずれも同市の出身であったり、ゆかりの深い“経済”著名人だ。

エアハルトは同市出身の旧西ドイツ首相(1963−66)で、首相になる前は経済相を長く努めた。戦後の『経済の奇跡』と呼ばれる経済成長の立役者であった。また、ドイツは『社会的市場経済』という経済体制を敷いているが、これもエアハルトによるものである。

グリュンディヒとシッケタンツはそれぞれ、家電メーカーのグルンディヒ(Grundig)、通信販売のクヴェレ(Quelle/ カールシュタット・クヴェレグループ)の創業者で同市が発祥の地だ。いずれもドイツでは有名な企業であり、クヴェレなどはフュルト市営劇場のスポンサーの常連でもある。

■地元づくし
3人がおりてきた『下界』とはフュルトの街。公園、地下鉄の駅のほか、今も使われている城のような市役所も背景に使われた。現代の政治や経済を皮肉るところがあったり、3人の人柄もうまく盛り込まれた。また、同市のサッカーチームや玩具のプレイモビール(同社もフュルト地方で設立された)が登場した。

脚本を書いたのも地元の作家だ。フュルト在住の作家エヴァルト・アレンツ氏は1965年にニュルンベルグに生まれ、フュルトのギムナジウムを卒業している。バイエルン州やフュルトの文化関係の賞を受賞している。

■ドイツらしさ
ドイツの地方都市には劇場を持つところが多く、いずれも『わが街の劇場』といったような大きな存在感がある。また専門家が運営しており、上演プログラムも豊富だ。とりわけフュルト市市営劇場は運営手腕に見るべきものがあり、『フュルト・モデル』として知られている。

劇場は新ロココ調と呼ばれるスタイルで100年余り前に建てられた。多くの市営劇場は貴族の持ち物だったというケースが多いが、同市の場合、市民の発意によるものだった。そのせいか、幾度か迎えた経営危機も市民の尽力で乗り越えてきた。支援組織の会員数は2,000人を超える。同市の人口が10万人であることを考えると、けっこうな人数だといえよう。

街の1000年祭の催しに、街の劇場で、街の著名人を扱う。ドイツらしさがよくあらわれた作品だ。(了)

参考:首相のエアハルトが歌って、踊った(高松 平藏のノート)







【ニュース】

バイエルン内の多様性を示す展覧会



【ニュルンベルグ】バイエルン州はドイツ南部に位置する最大の州である。どの地方でもそうであるように、現在のかたちになるまで歴史的な変遷がある。州の北部にはフランケン地方と呼ばれる地域がある。この地域は1806年にバイエルンに編入され、昨年は200年を迎えた。このほど『バイエルン・イン・フランケン 200年』という展覧会がニュルンベルグで行われた。

向かって右がフランケンの紋章。左がバイエルンの紋章。バイエルンの紋章の中にフランケンの紋章がはいっているのがわかる。

この展覧会は2006年4月から行われているもので、12月に終わる予定だったが2007年2月11日まで延長された。内容はフランケン地方の歴史、文化、植生などを紹介し、戦中、戦後の資料などが展示された他、フランケン地方の未来を予想するコーナーが設けられた。

またフランケン地方で開発されている医療技術など先端技術の展示も行われたが、これにはエアランゲン、ニュルンベルグ、ヴュルツブルグにあるフランホッファー研究所が協力している。

フランケン地方は人口も面積もバイエルン州内の約3割を占める。行政区的にはアンスバッハという街が中心だが、歴史的に交通の要衝でもあったニュルンベルグが文化や経済などの中心になる。1835年にドイツで初めて鉄道が敷かれたが、ニュルンベルグから隣接しているフュルトの間だった。

■フランケン独立!?
宗教的にも旧バイエルンの地域とは異なり、プロテスタントが多く、文化的にフランケン語という方言が大切にされ、今も小学校でフランケン語について扱われることがある。ロマンチック街道で知られるヴュルツブルグを中心に生産されるワインは『フランケンワイン』と呼ばれ、ボックスボイテルという丸みをおびた独特の形をした瓶に詰められる。またフランケンの紋章を元にした旗をはじめ、様々なグッズも多く売られている。

こうした事情から、今もフランケン地方をひとつの州として独立させようという考える人たちもおり、そのための活動も行っている。また同展覧会のポスターは州内にたくさん貼られたが、フランケン独立を目指すグループはよく似たデザインで『200年は十分だ!』と書いたポスターを展覧会のポスターの傍に張り出した。

ちなみにまた数年前にニュルンベルグ地域は周辺の都市と連携を組み『メトロポリタン地域・ニュルンベルグ』として経済振興をはじめ、プレゼンス(存在感)を高めることに注力しており、マーケティング組織がつくられているが、フランケン地方という属性と重複する部分も少なくない。
(了)
展覧会のポスター。水色と白はバイエルンの旗の模様。その中にフランケンの紋章があしらわれている。
『200年は十分だ!』フランケン独立グループによるポスター。フランケンの紋章にバイエルンの旗がくさびのようにつきささっている。






編集後記
経済と文化で地方の結晶性高める


◆ドイツの街は小さくとも、何でもそろっていて、一言でいえば街の結晶性が高いという印象をもちます。その理由は何かといえば経済・文化・地方政治がお互い結びついているところにあるように思えます。

◆そして日本からはちょっと想像がつかないほどの地方の自律性があります。ドイツは連邦制の国でありますが、街の結晶性の高さがあるからこそ連邦制が成立しており、連邦制にせざるを得ないともいえます。

◆日本の地方都市が疲弊していると言われて久しいですが、その大きな理由が経済・文化・政治の連関性の薄さに一因があるように思えてなりません。なぜなら、この3つがあってこそ経済力・存在感・住みよさをつくっていくからです。

◆一方、日本ではここ15年ほど、芸術や文化の専門家の間で、政策や社会の中でどう文化や芸術を位置づけていくかという議論が続けられており、地方でもそういった専門家がたくさん生まれています。また各地方に著名人や偉人がいるはず。これを映画や演劇など芸術作品にしていくプロジェクトが各地でやってみてもいいかもしれません。こういったプロジェクトはきっと地元の経済・文化・地方政治のなんらかの結びつきが生まれてくる可能性があります。

◆ただし日本ではこういったプロジェクトに対して『官製』という非難がおこることもしばしば。『地方のために、地方の人材で、地方の結晶性を高める』という基本的な考え方をきっちり共有することが肝要であり、表現の自由とスマートなプロジェクト運営が求められます。(高松 平藏)


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発  行  人 : 高松平藏 
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