ドイツ・エアランゲン在住ジャーナリスト
高松平藏 のノート
前へ次へ
|インターローカルニュース | ノートのリスト |

2007年2月13日



 首相のエアハルトが歌って、踊った

1月にフュルト市営劇場で“ペチーコート & シッケダンス”というレビュー作品を見た。地元の経済にまつわる著名人を扱った「エコノミック・レビュー」。公演の所感を書いておきたい。
公演のパンフレットより。左上の3人が登場人物たち。城のようにそびえたつ建物は今も使われている市役所

登場人物はルートヴィヒ・エアハルト、マックス・グリュンデイヒ、グスタフ・シッケダンツの3人。いずれもこの街にゆかりの深い“経済”著名人だ。天国にいる3人は地上におりて、所持金20ユーロを元手にどれだけお金がもうけられるかというストーリー。彼らがおりてくる地上とはフュルトの街で公園や市役所、地下鉄の駅などまさに見慣れた風景の中で街の著名人が歌って、踊る。
天国にいる3人。向かって左からエアハルト、シッケダンツ、グリュンデイヒ。エアハルトの内ポケットにはたくさんの葉巻が隠してある。 (写真=Stadttheater Fuerth)

街の3人の著名人
登場人物たちはこんな人物だった。いずれの似顔絵もパンフレットに描かれたもの。
ルートヴィヒ・エアハルト

フュルト出身の旧西ドイツ首相(1963−66)。首相になる前は経済相を長く努めた。戦後の『経済の奇跡』と呼ばれる経済成長の立役者であった。また、ドイツは『社会的市場経済』という経済体制を敷いているが、これもエアハルトによるものである。自動車好きで葉巻がシンボル。
グスタフ・シッケダンツ

通信販売のクヴェレ(QUELLE/ 現在はカールシュタット・クヴェレグループ)の創業者。こちらもドイツでは有名な流通会社。QUELLEとは『泉』とか『源泉』といった意味があるため、私は『ドイツのイズミヤ』とひそかに呼んでいる。
マックス・グリュンデイヒ

家電メーカー グリュンデイヒ(GRUNDIG)の創業者。ドイツで有名なメーカー。本人はオートバイ好きで、やんちゃな性格だったようだ。

ちなみにおもちゃのプレイモビールもフュルト地方で創業された。同市近隣にはプレイモビール・ファンパークというテーマパークもある。

スーツ姿の3人は歌ったり、踊ったりもするが、エアハルトはややスローモーにやぼったく、グリュンデイヒは足取り軽く、シッケダンツはスマートに知的に踊る。キャラクターをうまく反映させている。
歌って、踊る3人(写真=Stadttheater Fuerth)


以下、印象に残ったことを羅列する。
地上におりてきた3人、ユーロ札を見て『なんだい、これ おもちゃのお金のみたいじゃないか』

グリュンデイヒ社の巨大な携帯電話の広告。そして『0ユーロ』と書かれているのをみてグリュンデイヒは『プレゼントしちまうのか』と驚く。

公園にはイカサマ・ギャンブルをしている外国人グループがいる。シッケダンツをカモにしようとしたが、逆にイカサマを逆手にとって大もうけ。

エアハルトは2人からお金を徴収・配分。さすが『社会的市場経済』

シッケダンツとグリュンデイヒがサッカーで対決。市場経済で戦う経営者、審判のエアハルトは社会的市場経済を維持する政府といったところか。

サッカーのあとは拳闘。グリュンデイヒは反則を連発。混乱しているあいだに、シッケダンツの上着から外国人からお金をうばわれる。国内市場の混乱とグローバリズム?

経済行為に対して、プロテスタントとカトリックのちがいがちらりと台詞の一言に含まれていたりする。

シッケダンツとグリュンデイヒがサッカーで対決。グリュンディヒの反則に警告を出す審判のエアハルト。一緒にプレーしているのはプレイモビールの人形たちでユニフォームは地元サッカーチームのもの。後ろで応援団も地元のサッカーチームグッズを持っている。背景の城のような建物は今も使われている市役所。
(写真=Stadttheater Fuerth)

フュルトという街
公演が行われたフュルト市営劇場。2002年に100周年の記念祭が行われた。
フュルトは今年1000年記念年。この公演も記念行事の一環だ。脚本も地元の作家が手がけている。また時期的には黄金の50年代に焦点があたっており、パンフレットには50年代にまつわるクイズが載せられていたのも面白い。

ところで、フュルトは日本ではあまり知られていないが、ドイツで初めて鉄道が走ったところでもある。

また、ユダヤ人が多かったことから、ユダヤ文化を伝えるユダヤ・ミュージアムが1998にオープンされた。毎年、東欧系のユダヤ人のクレッツマー音楽(日本では『クレズマー』と表記されることが多い)フェスティバルが行われている。公演が行われた市営劇場も100年余り前にユダヤ人市民らの発意で建設された。

今回の登場人物以外に、ニクソン、フォード政権の時代に国家安全保障担当大統領補佐官、国務長官をつとめたキッシンジャーもフュルト生まれ。キッシンジャーはユダヤ系の家系でナチスの台頭に伴って、アメリカへ移住し、帰化した。(了)

無断転載を禁じます。
執筆者の高松 平藏についてはこちら
|インターローカルニュース | ノートのリスト |