■■インターローカル ニュース
■■ Interlocal News  2005-11-30 (vol. 125)
─ 地元の力を顕在化させるイベント
前号次号
□□ 目次 □□
【ニュース】地元の力を発見! 地域万博、科学の夜長

【コラム】 地域社会と『知は力なり』
【編集後記】科学の夜長 周辺メモ

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【ニュース】

地元の力を発見!
地域万博、Die Lange Nacht der Wissenschafeten(科学の夜長)

医療機器の説明に聞き入る人たち(シーメンス社内)

 『さあ、どうぞ』。
そういって立体映像をみるためのメガネを手渡す。人々は医療に関する映像に見入る。

 先月22日の土曜日、午後6時から翌日午前1時にかけて『Die Lange Nacht der Wissenschafeten(科学の夜長)』という催しがバイエルン州北部の隣接する3都市ニュルンベルグ、エアランゲン、フュルトで行われた。

 このイベントは夜中に地元の企業、大学、大学病院、研究機関などが門戸をひらくというもの。技術の紹介や設備の説明、さらに科学を学べるようなエデュテインメント・ショー(entertainment とeducationを兼ね備えたもの)を用意するところもあった。

 当日の夜はチケットを購入すれば、好きなところを訪問できるというもので、とりわけ、各機関・施設がパビリオン化し、同地域そのものが万博会場のようになる。冒頭はエアランゲンのシーメンス社でおこなっていた医療機器を紹介する社屋での一幕だ。

 またフュルト市内の技術研究開発の企業が数社入居している施設何にしつらえられた『パーティ・ゾーン』で午前1−4時にかけてパーティが行われた。


 この催しはクルチュア・イデー有限会社(ニュルンベルグ)によって運営されたもので、前回 2003 年に 1 回かぎりのイベントとして開かれた。1 万人の動員数を予想していたが結果的には 12,000 人を数え、好評を博した。これをうけて今回、もう一度開催された。94 箇所で 300 以上の企業、大学、大学病院、研究機関などが“パートナー”として 500 以上のプログラムを組んだ。

 今回は前回の要望に応えるかたちで昼の時間帯も小さな子供向けにいくつかの施設や機関が門戸を開いた。また夜中は“パビリオン”を移動するための巡回バス17台を用意した。前回は6台を巡回させたが、人が多すぎてさばききれなかったということがあったためだ。

 ドイツは職住近接というライフスタイルが主流である。すなわち地域社会とは生活・職場・教育の場ということである。こうしたことを考えると、このイベントは同地域が同地域のために行っているもので、各“パビリオン”を回る人々にとっても自分が住む地域の科学力・技術力、知的資源といったものを発見する機会になっている。ちなみに州科学研究芸術省や地元の銀行、企業、地域マーケティングの非営利法人らがスポンサーとして協力している。(了)
今回増やされた巡回バス

医療ベンチャーのインキュベーターでは医者の世界をパロディにした寸劇も行われた




【コラム】
地域社会と「知は力なり」
 



音声データ圧縮技術、MP3を開発したエアランゲンのフラウンホッファー・インスティテュートではセンサーを搭載したロボットが愛嬌をふりまいた。
『Die Lange Nacht der Wissenschafeten(科学の夜長)』からは地域社会に対する感覚がいろいろと浮かび上がってくる。『地域社会』『知は力なり』という2つの言葉から同イベントの意義を考えてみたい。

■社会とはまず「地域社会」
 同イベントで明確に浮かび上がってくるのが『社会』とは何かという点だろう。

 パビリオンと化する施設や機関にとって、このイベントは地域社会とのつながりを強固にするようなところがある。職住近接というライフスタイルがドイツの主流であることから、パビリオン化した施設や機関を訪ねる人も『地元』の人たちだ。こうした構造があるせいか、IT 関連の 3 SOFT 社は当日の地元紙に技術者の求人広告を出し、興味のある人は今夜当社を訪ねて(様子を見て)くださいと記した。同社もこのイベントの門戸を開いた一社である。

 またエアランゲン・ニュルンベルグ大学学長カール-ディーター・グリュースケ教授は『社会からのお金で大学は運営できている。したがって研究成果などは公開する必要はある』と話す。

 近年日本では社会的存在や社会的責任といった言葉に代表されるように、社会との関係性について議論されることが増えた。 しかし一口に『社会』といってもどこか抽象的な印象がぬぐえない。それに対して、同イベントからは企業や大学、研究機関にとって「社会」とはまず自らの立地場所である『地域社会』であることが見て取れる。

 そもそも企業や施設によっては普段から『オープン・ドア イベント』を独自で行うところもあり、地域社会に向けて門戸を開く姿勢が明確にある。このイベントはこうしたことをパッケージ化するところに値打ちがあり、地域社会で支持される理由だろう。

 同イベントの運営はニュルンベルグに拠点をおく『Kulturidee GmbH(クルチュア・イデー有限会社)』、英語風にいえばカルチャー・アイデア社という企業によっておこなわれている。文化関係の専門家たちが中心になった会社だ。『専門家のサービスによって大学の研究成果を(地域社会に)紹介できることがいいことだ』(グリュースケ教授)。

■「知は力なり」と地域社会の強さ
 次にイベント開催地である3都市そのものを見ると、『知は力なり』という言葉が思い浮かぶ。この言葉はフラシスコ・ベーコン(英)による言葉だが、近代社会が成立する啓蒙主義の時代を見るときに重要な言葉である。そして世界を分類・整理して知識化する作業を丹念に行ってきた。

 この思考態度は政策にも見て取れる。バイエルン州は研究分野と経済分野との結合を進めており、各都市、各地域で産官学を結びつけるクラスター政策に注力している。まさに知を力にしようとする政策だ。

 そもそもドイツは街ごとの独自のアイデンティティを大切にし、強みを活かして街全体の力にしていこうという方向性が強いが、その基本になるのが、街について常に分類・整理することにある。『科学の夜長』に戻ると、このイベントは事物を分類・整理をして公開するミュージアムのような役割を果たしている。文化政策的なイベントともいえる。

 他方バイエルン州北部にロマンチック街道の街として日本でも知られるヴュルツブルグ市があるが、こちらは近年、地域マーケティングを強めている。力点はやはり知的ポテンシャルの顕在化だ。大学や研究機関があるにもかかわらず、『観光都市』のイメージが強い。そこで一般向けに研究成果や知的蓄積などを紹介するプログラムを開催している。ここでも街の中にあるものを分類・整理する作業が行われているわけだ。

 さて、『科学の夜長』の開催地のニュルンベルグ・エアランゲン・フュルトの3都市は何かと協力しあうことが多い。今年にはいって、さらに周辺都市と連携をとり、メトロポリタン・シティとして地域の存在感を強めていく方向にある。そんな流れからみてもこのイベントの意義は大きい。(了)






【編集後記】 
科学の夜長、周辺メモ


技術関連の施設で説明を受けるジェシカちゃん
◆科学の夜長開催前に報道陣を対象に記者会見とプレスツアーが行われました。報道陣にまじって、女の子がひとり。学校新聞の記者14歳のジェシカ・ウィルちゃんが同行していました。地元紙の編集長ローター・ホヤ博士がしばしアドバイスするシーンも。ツアーの最後は『パビリオン』になる大学のある学部でエアランゲン市長や地元銀行の代表、学長らを交えての記者会見。向かい側にジェシカちゃんが座っていたのですが、途中から『あー疲れた』という感じでぐったり。いやホント、皆さん話が長いですからね。

科学の夜長に参加した3D-SHPE社は立体物のスキャンする技術を開発したベンチャー企業。科学の夜長のときには訪問者の顔をスキャンして3D画像にするというアトラクションを展開。
(=写真右)この夜は約200人が同社を訪ね、100人あまりの顔をスキャンしたとか。その後も要望があったらしく、ふたたびスキャンサービスを行っています。同社の技術は外科方面で活用されることが多いのですが、『科学の夜長さめやらぬ』といったところでしょう。私も次女と長男の2人をつれて、顔をスキャンしてもらいました。予約制なのですが、リストをみせてもらうとけっこう詰まっています。また子供連れが多いようです。

スキャンされた私、高松の顔。専用のビュアーで様々な角度から見ることができる。
◆ハイテクですとかベンチャー企業というと日常生活からは少し遠い存在ですが、このような取り組みがあると、子供たちの中に何か残るように思えてなりません。起業家育成のプログラムを高校などで実施するケースも最近日本で増えてきているようですが、親子で楽しめるプログラムも一考の価値ありと思えます。

◆開催地の3都市(ニュルンベルグ・フュルト・エアランゲン)の中でエアランゲンへの訪問者がもっとも多かったといいいます。同市は「エアランゲン‐ニュルンベルグ大学」の発祥の街でもあり、90年代半ばから医療関係の研究開発、ベンチャー育成に力をいれています。また同市はシーメンス社の一拠点で、医療分野に力点を置いています。その結果エアランゲンは『メディカル・シティ』としての存在感を高めています。3都市の中では知的な蓄積がもっとも集中しているというイメージガ強く。そして、それが人々をひきつけたというのがもっぱらの見方のようです。

前回の発行から1 ヶ月あまりたってしまいました。ドイツはクリスマスシーズンです。エアランゲンでも街の広場でクリスマス市場がスタートしました。こちらは先週末に雪がふりました。テラスには子供たちがつくった雪だるまがならんでいます。(高松 平藏)

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発  行  人 : 高松平藏 
発  行  日 : 不定期

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