■年間プロジェクト
2009年度(2009年9月〜翌年7月)の1年間、私が住むエアランゲン市内の幼稚園、キンダーセンター・トミチールでは子供たちによるオペラ・プロジェクトを行った。同園設立50周年記念のビッグ・プロジェクトであり、ほぼ1年間かけて準備を行った。そしてり2010年7月にエアランゲンの御隣、ニュルンベルク市にある州立劇場でオーケストラをバックに演じた。
私は園長から依頼をうけ、このプロジェクトの記録写真を1年間、手弁当で撮り続けた。そして、写真集というかたちにまとめ、2010年12月に地元の出版社から出版した。記録集というより、アート作品としての写真集で本当にささやかなものだが、私にとっては初めての写真集となった。
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幼稚園でサイン+販売会もおこなった。右は編集担当のテレジア・ケッスラーさん。以下、写真集より |
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さて、同園の名称をみると『キンダーセンター』という名称になっているが、なぜ幼稚園を意味する『キンダーガルテン』ではないのかというと、あずかる子供の年齢が10歳ぐらいまでを対象にしているからだ。
ドイツの小学校は4年生まで。授業は原則午前中のみ。だから日本の小学校のような給食もない。それで午後から同幼稚園は小学生もあずかるのだ。日本の感覚でいえば学童保育も兼ねた幼稚園と考えるとイメージしやすいかもしれない。
さらに、このプロジェクトには『卒園者』も数人出演したので、出演者は3歳ぐらいのちびっこから卒園者のティーンエージャーもまざっておこなうというものだった。
ついでながら、私の3人の子供たちも参加した。2番目の娘は小学校4年生。一番下の長男は3年生で、2人とも当時まだ小学校が終わってから同園に通っていた。上の娘はすでに中学生に相当する学年だったが『卒園者』として参加した。
■多様なプログラム
そんなプロジェクトに私は1年間付き合ったわけだが、興味深いのがそのプログラムだろう。
まず、オペラ作品ということになっているが、実質ダンス作品といったほうがよい。実際ウィーンのダンスアーティストがワークショップに来たり、ミュンヘンから振付家を招聘した。
また、ニュルンベルクのオーケストラと共演したわけだが、チェロやコントラバスなどの奏者が実際に楽器を持って、幼稚園に数回出張。楽器の紹介や演奏、子供たちが実際に触ってみたりする機会があった。
ニュルンベルクの州立劇場へも訪問した。ちびっこ、小学生、卒園者、保護者と言うぐらいにグループごとにわけて劇場を訪ねたのだが、同劇場と幼稚園の共同プロジェクトという側面もあるため、コーディネ−ト・案内を担当してくれるスタッフが毎回劇場の裏、衣装やカツラの製作現場を見せてくれた。バレエの練習風景を見せてもらうこともあった。ともあれ、この劇場は500人程度の雇用を創出しているのだが、その一端を垣間見れたのが私自身も興味深かった。
一度、オーケストラのリハーサルを子供たちと一緒に訪ねたこともあった。残念ながら記録写真はそれほど撮影できなかったのだが、帰りがけの路面電車でオーボエの奏者の女性と一緒になり、彼女は子供たちに車内で楽器を広げて見せてくれ、そしてちょっとした演奏をしてくれた。なんとも楽しい路面電車になった。
ほかにも園内ではオペラや劇場について学習したり、音楽をきいてイメージを膨らませて絵を書くといったことなど、『オペラ』を起点に『総合的学習時間』のようなことを行っていた。
■プロジェクトの意味
また写真集の製作段階にはいると、幼稚園でしばしば打合せを行ったが、打合せが長引き、幼稚園の給食をごちそうになることがしばしばあった。また、自分の子供を家に帰して、親の私が幼稚園に居残るという妙なことが起こったりした。
いずれにせよ、このプロジェクトに参加したことは私にとって喜ばしいことだった。というのも、もう何度か書いたり、話したりしているのだが、当然のことながら私はドイツでは外国人である。幼稚園という地元の『機関』から依頼を受け、プロジェクトに参加できたことは、私にとって、きちんと地元で生活しているという実感を得ることができたからだ。もう少し話を広げると芸術プロジェクトが外国人を巻き込んでいく機会になっているということがうかがえる。
最後に、写真集に書いた『ご挨拶』の文章を記しておく。
ご挨拶 写真/高松 平藏
創造的な写真を撮りたければ、技術やアイデアは必要だが、最後の最後に、『今、撮って』という空間の囁く声に耳を澄まさねばならない。つまり空間との対話である。その空間をいつも動かしていたのが子供たちだ。特にダンスは人の体を使った空間芸術だ。
私は約 1 年間、主に子供たちが作りだす空間と対話していたことになる。これは楽しい時間であり、カメラを通して参加できたことは大変嬉しく思う。キンダーセンター・トミチールの
50 周年記念に素晴らしい企画をたてたスタッフのみなさん、特に園長のシビレ・ハルトルさん、そしてこの写真集の編集をしてくれたテレジア・ケッスラーさんに感謝したい。(了) |