ドイツ・エアランゲン在住ジャーナリスト
高松平藏 のノート
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2010年5月31日



伝統は誰のもの?

私が住んでいるエアランゲンでは毎年ビール祭りが行われる。この時、レダーホーゼ(バイエルンの伝統的な革パンツ)姿の人がけっこういるのだが、どんな人がはいているのだろうか。


ビール祭り
伝統的な革パンツ。(スーパーの広告)
キリスト教の祝日に聖霊降臨祭というものがある。5月末から6月にかけてある祝日で、年によってその日程はまちまちだ。また州によっても異なるが私が住むエアランゲン市が位置するバイエルン州は今年5月25日から6月5日にかけて学校は休みになる。

ややこしい話だが、この祝日の説明をするのが目的ではない。この祝日に合わせて毎年エアランゲンで、12日間におよんで行われるビール祭りの話だ。毎年10―12万人が訪ねる。エアランゲンの人口が約10万人。数字の上では、全市民が通っている計算になる。

今年も5月21日から31日に行われた。1755年にはじまったもので、ミュンヘンの『オクトーバー フェスト』よりも歴史は古い。

伝統服の復活
(伝統的な)衣装でビール祭りに行こう!
(衣料品店の新聞広告)
さてビール祭りになると伝統的な服を着てやってくる人がけっこういる。最近、大手の衣料品店でもひとつのコーナーを伝統服の売り場にしているし、ビール祭りの時期になると『(伝統的な)衣装でビール祭りに行こう』といったような広告が出ている。ただし、専門店で売られているものに比べると結構安い。

日本では着物離れが続いているが、浴衣が復活しているのとよく似ている。いつのまにか夏になるとスーパーにすら浴衣はが並ぶようになり、若者は夏祭りになると袖を通すようになったのと同じような感じだ。

ひるがえって、この革パンツ、いろいろと聞いたところ、バイエルンの伝統服なのだが、エアランゲン市周辺を指す『フランケン地方』のものではないらしい。

このフランケン地方は200年ほど前にバイエルンに統合された歴史がある。つまり同じ州内でも歴史的経緯から、今も『アンチ・バイエルン』というメンタリティが生きているところなのである。今もフランケン地方をバイエルン州から分離させて、ひとつの州にしたいと考えている人たちもいるほどだ。そんなわけで、ちょっとややこしい文化メンタリティがあるのだ。

今日はバイエルン人だ
そんな文化と歴史を念頭におきながら、20人程度の仲間とビール祭りに行ったときに、いろいろと聞いてみた。男性は10人ぐらい、そのうち半分ぐらいが革パンツをはいている。

まずは、革パンツをはいている人たちに質問。『そりゃ、バイエルンの民族衣装だからね』という答えがかえってくるのだが、たいていは別の州から来た人だ。中には『バイエルンに住んでるんだからね、ビール祭りのために、昨日わざわざ買ってきたよ。ヘイゾーも来年は革パンツで来ないとね』と言う。おまけに『(故郷の別の州に住んでいる)家族に写真を送りたいから、革パンツ姿を撮影してくれよ』ときた。今日はワシはバイエルン人じゃとばかりに、ジョッキー片手にポーズをとって撮るのを待っている。

逆に革パンツをはいていないエアランゲンの地元の人に理由を聞くと、『そりゃ、ここはフランケンだぜ、革パンツなんて、ありゃ、バイエルンの文化だ』とそっけない。

伝統とは半ば作られていくものであり、それゆえに時代に即して変化もするものである。だからこそ革パンツからドイツでの地方の関係が見えてくるし、文化に対しての理解も異なる。何よりも人々の革パンツに対する位置づけが面白い。

最後に50代半ばぐらいと思しき友人の弁を紹介しておこう。
『革パンツ? (最近出回ってる廉価版ではなくて)俺はホンモノを持ってるで!』。

はい、恐れ入りました。(了)


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