ドイツ・エアランゲン在住ジャーナリスト
高松平藏 のノート
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2009年3月24日



部活とスポーツクラブ


私は毎週、子供たちと柔道を楽しんでいるが、この体験から社会と人間関係について考えてみたい。


ファミリーコース
『ファミリーコース』の練習風景

3年ぐらい前から柔道の『ファミリーコース』に通っている。このコースには5歳ぐらいから13,4歳の子供たちと、その親がやってくる。

私自身のことをいえば、デスクワークが多いので運動を必要としていたし、どうせなら子供たちと一緒にできるものを、と考えた。いろいろ検討したときころ柔道が候補にあがった。が、当初は私も含め、練習に行くのが面倒になることもあった。

それでも次第に面白さがわかってきて、子供たちもそれなりに興味を持ちだした。今では家の中で柔道に関する日本語がとびかっている。

とりわけ、一番下の長男(7歳)などは初めての昇級試験をうけたあたりから、関心が高まったようだ。先日、長男のクラスでファッシング(謝肉祭)のパーティがあったが、この時は思い思いの仮装をする。長男は『柔道家になる』と言って道着を着ていった。『それって仮装か?』と問うたが、聞く耳を持たなかった。

ところで私は若い時からスポーツや武道に対してほとんど関心がなかった。それだけに自分の家庭内に柔道カルチャーとでもいうものがはいってくるとは夢にも思わなかった。しかもドイツで柔道を始めたわけだから、人生わからないものである。

学校ではなく地域でスポーツ
さてドイツの様子をみていると何らかのグループにはいって、スポーツをやっている子供たちは多い。グループの運営形態のほとんどはフェラインとよばれる非営利組織だ。通常『協会』とか『クラブ』と訳される。そのためスポーツのフェラインは『スポーツクラブ』として紹介されることが多いが、今の日本の感覚でいえばNPOと理解しても差し支えないだろう。

スポーツのフェラインは地域ごとにあり、ハンドボールやテニス、体操などなど数多くの種類のスポーツがこの形態で運営されている。またひとつのフェラインが単独競技を扱うのではなく、複数の種目を持つケースも多い。もちろんこれらは子供だけが対象というわけではない。わが家が通っている柔道もファミリーコース以外にも大人だけ、子供だけ、初心者向けといった具合に様々なコースがある。

もっとも『ドイツには地域ごとにスポーツ・フェライン(クラブ)がたくさんある』といっても、どんな感じなのかはなかなか想像が難しいと思う。が、ここで両国の子供のスポーツ活動の違いをあえて一言でいえば、学校内のクラブでスポーツを行っているのが日本。地域のスポーツ・フェライン(クラブ)でスポーツをしているのがドイツということがいえるだろう。

もちろん日本でも少年野球やサッカーなど、地域のスポーツ活動はある。しかし競技種類の多さや組織運営のノウハウ蓄積、社会的な存在感などの点でいえばドイツのほうが軍配が上がると思う。そもそもサッカー・フェラインなどはJリーグ創設の際にずいぶん参照され、『ドイツには地域ごとにサッカークラブがあって・・・』とよく紹介されていたものである。

そんなわけで、逆にわが家の子供たちにとって学校での『クラブ活動』というのがピンと来ない。大学の相撲部が物語の中心になる『ちゃんこ』や中学校の野球部が舞台になる『バッテリー』といった映画を見て、なんとなく日本の『部活』の様子をイメージしているようだ。

人間関係のちがい
さて、フェラインは歴史的に見ると、実は19世紀ごろからの市民社会成立との関わりが大変強い。このあたりの話は別の機会にゆずるが、フェラインは職業や立場を越えた同好の士の集まりであったということがポイント。これが『並列の人間関係』をつくることにつながった。

ドイツには文化や学術などフェラインの種類は数多くあるが、とりわけスポーツ分野はかなり多い。わが家が住む人口10万人のエアランゲンでも、約550のフェラインがあるが、スポーツに関するものは100程度を数える。その中の最古のスポーツ・フェラインとなると設立年は1848年とかなり古い。

そういったことからいえば、ドイツの子供たちはすでにスポーツを通じて、『市民社会』的な人間関係を築く環境が整っているということがいえる。私たちが通っている柔道のファミリーコースも理念的なところからいえば、大人も子供も『同好の士』として並列関係の人間関係でもって練習を楽しんでいるわけだ。

一方、日本の学校の部活はどうだろうか。『学生時代の思い出』や『戦友』のような深い絆の友達ができるということがあるかもしれない。しかし卒業した時点で活動はいったん終わりだ。

また人間関係や『視野の広さ』というところからみると、学校という限定された条件を考えると、タコつぼに陥ることもあるだろう。特に体育会系というと先輩後輩の強い上下関係が生じやすく、この時点でドイツのような『並列の人間関係』とは異なる。内申書のための部活などと言えば、目的ではなく手段だ。

翻ってドイツを見ると、最近の若い世代になってくると、『フェライン・カルチャー』が弱まっているという指摘もある。ひょっとして10年後、20年後のドイツ社会の在り方に影響が出るかもしれない。それにしても、日本の『学校の部活』とドイツの『地域のフェライン(クラブ)』を比べたときに、ドイツのほうがより普遍的な人間関係を築く場になっているように思う。(了)


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