ドイツ・エアランゲン在住ジャーナリスト
高松平藏 のノート
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2008年6月24日



アスパラガスと食文化


ホワイトアスパラはドイツの季節料理。ドイツにおけるアスパラの食文化について書いてみたい。


おふくろの味
妻の実家でいただくホワイトアスパラ。ドイツの『おふくろの味』
日本は季節にうるさい。季語なんぞあるのはその証左だ。これと同様、食に関しても季節とあれこれからめていう。『初物』などという言葉もそうだろう。

ドイツの食生活をみると、日本ほど季節にうるさくはないのだが、3月から6月ぐらいが旬のホワイトアスパラにかけては関心が高い。これを食べないと夏が来ない、というような感じがある。

わが家は毎年、妻の実家でホワイトアスパラを食べる。
義母が調理し、義父が選んだワインと一緒にいただくのだ。

数年前だが、一度わが家でも調理してみた。
しかし、である。なんだかウマくないのだ。いや味はそこそこなのだが、雰囲気といおうか、『なんか違うなあ』と妻と顔をあわせた。

もっとも、この違和感はある程度推測がつく。私の初めてのドイツのアスパラ体験が義母のもので、それ以外のアスパラはレストランで一度食べた程度。義母のアスパラが私の基準になっているということがあると思う

しかし、それにしても、食とは五感すべてにかかわってくるものである。味以外に、もりつけ、食器類、食べるシチュエーションに左右される。ましてや、私がいただいたのはドイツの『おふくろの味』である。おおげさにいえば、その家庭の食文化に触れているわけである。

料理について、それぐらい広げて考えると、自宅で調理したものがしっくりこないのも理解できる。アスパラガスはわが家の食文化から離れすぎているのだ。

日本でも関心が高い!?
少し話しがかわるが、先日、いっせいに友人や知人にメールを送った。冒頭には5月にホワイトアスパラを妻の実家で食べたエピソードを少し書いた。

すると面白いことに、『最近、食堂でホワイトアスパラを食べた』とか、『自分は農家の出で、子供のときにアスパラの収穫を手伝った』、といったアスパラ体験や思い出などを書いた返事を下さったかたがけっこういたのだ。

私もアスパラについて思い出がある。私の実家は兼業農家なのだが、子供のころ畑でグリーンアスパラをつくっていた。それでグリーンアスパラは本当によく食卓に並んだ。母が『土をかぶせる とホワイトアスパラになる』ということを教えてくれたことがあったが、結局ホワイトアスパラを食べたのはドイツへ来てからだった。

ある大学の先生は、東京で講義ののち、会食でホワイトアスパラに遭遇したという話を送ってくださった。特別メニューとして仏から輸入したもので『2本だけう やうやしく頂戴しました』。おいしかったが、『なんで2本だけ?と馬鹿らしく思ったこと、それがこの国の現実でした』と日本の食事情にチクリと一刺し加わったコメントがあった。

日本の食文化には『初物』とか『季節物』に価値をおくことは周知のとおりで、これ自体は文化であり、その感性を誇ってもいい。しかし、アスパラのみならずボジョレーヌーボーに大騒ぎするありさまなどは、かえって食文化に おける『洗練』から離れてしまうように思う。そう、まさに『馬鹿らしい』。

ミュージアムまである
農業地帯の『オープンドアイベント』に登場した『アスパラクィーン』(2003年)
こういったメールのやりとりをした数日後、もう一度、妻の実家でアスパラガスをいただいた。そこでアスパラに対して日本からのメールの話などに花がさいたのだった。

その中でグリーンアスパラとホワイトアスパラの栽培法の違いにも話題がうつったのだが、前述したように日光にあてないようにして作られたのがホワイトアスパラ。それにしても時々日光があたるケースもあり、そういうところが紫色になることがある。

数年前に近状の農業地帯で誰もが訪問できる『オープンドアイベント』があり、たずねたことがあるが、農家の人が『紫色になった部分のあるホワイトアスパラを見ると「不良品だ」と騒ぐ人もいるんですけど、これは自然のもの』と説明していた。

それから驚くなかれ、『ヨーロッパ アスパラ・ミュージアム』なるものがドイツにはある。

ずいぶん以前にニュースか何かで見たことを思い出し、『いや、さすがドイツだなあ』と義母と義父に話したところ、義母が『ああ、私も知ってるわ。雑誌かなんかで読んだことがある』ときた。それなりに有名らしい。

ホームページを見てみると、アスパラのための食器類やアスパラがモチーフになった絵などが展示されているようだ。

そんな話をしていると、
『ホワイトアスパラは人の手でつくったものだが、グリーンアスパラは野生のものだっていう人もドイツにはいるんだよ』と義父が教えてくれた。

『なるほど、ホワイトアスパラはアート(人工)。ミュージアムがあるのも当然ですね』と私。

『そういうこと!』と義父は笑った。(了)


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