ドイツ・エアランゲン在住ジャーナリスト
高松平藏 のノート
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2008年5月09日



ファミリー・ビジネス2─国際年の効用


日本文化を紹介する機会が続いているが、その中である先生の判断力に感心するものがあった。


こぎつね
学童保育もかねている幼稚園は『国際年』を設けたが、『これは面白い』と影響をうけたのが次女(小学校2年生)の担任の元気な先生。クラスの外国人のお父さん・お母さんに頼んで、それぞれの国の紹介をしてもらうということを始めた。

私にも依頼がきた。ある日、朝から次女は着物を、私は黒紋付と袴といういでたちで日本についての話をした。

いくつかのプログラムを用意したのだが、そのひとつが『こぎつね』の歌。日本の小学校の教科書にものっているが、もともとドイツの曲である。

順番はこうだ。ローマ字で書いた歌詞を先生にまず音読してもらう。『今、先生は上手に日本語の歌詞を読みました。ところで何の曲かわかりますか?』と私は全員に問いかける。

もちろんわかるはずはない。そしておもむろに、娘と一緒に歌うのだ。クラス一同『あ、あの曲だ!』という顔になる。

巡業
先生はずいぶん気に入ったようで、何度も全員で日本語で歌った。そして私の耳元で言った。

『タカマツさん、提案なのですが、後で1年B組に行って、歌ってもらえませんか。担任の先生には話してあります』

提案、って・・・そりゃ最初から仕組まれているじゃないか。と苦笑しつつ、次女と一緒に1年B組へ行った。ここは長男のクラスである。

ここでも結局『こぎつね』を次女と一緒に歌う。これでは、まるで巡業である。長男にも一緒に歌うように促した。が、恥ずかしがって歌わなかった。

ところが面白いことに、長男は学校が終わってから行く幼稚園(学童保育)の先生には日本のことや、私と次女のことを誇らしげにいろいろ説明したらしい。長男は友達同士では元気に遊んでいるが、いざというときに自己主張や発言が少ない。それを考えると、よほど『巡業』がよかったのだろう。

『ハリネズミ組』の先生はそんな長男の様子を見て、日本についての話をしてほしいと言ってきた。この先生はベテランで子供の観察にすぐれているのだが、さすが機を見て敏である。私も先生の意図がわかったので快諾した。こうして、次は『ハリネズミ組』で長男と一緒に着物姿で日本のプレゼンテーションをすることになったのだった。

ルーツを主役にする仕掛け
『巡業』の最後のプログラムにはちょっとしたゲームを行った。箸の食文化を説明したのち、30秒の間で小指大のグミのお菓子をどれだけ箸でとれるかというものだ。

これは子供たちに大人気のゲームである。そして、いささかアンフェアではあるが、長男がチャンピョン。長男は照れ隠しで、大げさに嬉しそうにはしないが、表情には満足感と得意気な気持ちがあらわれていた。

こういった取り組みは、子供が自分のルーツを一瞬にしてクラスの主役にする機会である。幼稚園の『国際年』にひっかけて、先生が長男の自信と自己表現、そして『日本』側のアイデンティティを引き出したかたちだった。(つづく)


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