ドイツ・エアランゲン在住ジャーナリスト
高松平藏 のノート
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2006年9月23日


子供と遊ぶということ
誰でも昔は子供だった。が、大人になってから子供と遊ぶのはなぜか難しい。『身体』を手がかりに考えてみたい。
(メルマガ『ドイツ発 わが輩は主夫である』2006年9月29 発行分を転載)

友達や知人がわが家を訪ねてくることがしばしばある。

そこで面白いのが子供への対応だ。

わが家に遊びに来た人は、ことごとくウチの子供たちに子供部屋に引きずりこまれ、相手をさせられる。さらには『お話よんでー』とせがまれて、本を読まされていく。

さすがに子育てが終わった人や現役の人はうまい。子供の気の引き方も知っている。

おもしろいのは『子供とは縁がなさそう』という人でもうまい人がいることだ。そういう人はたいてい、甥っ子や姪っ子がいたり、兄弟姉妹の多い大家族で育ったという体験を持っている。

例外的にこんなケースもあった。
アメリカ人の友人が泊り込みで遊びにきたことがある。ちょうど七夕のころだったので折り紙で一緒にかざりをつくった。彼女は当時40歳ぐらいだろうか。独身だが子供の相手も工作もやたらにうまかった。

『なんでそんなにうまいの?』ときいた。
『しょっちゅう似たようなことしてるから』と言ってカラカラと笑った。

そうだった、彼女の仕事は小学校の先生だった。さすがにプロである。

一方、日本人の独身の若い男性に多いのだが、どう対応すればよいか分からず、ただ、子供部屋で突っ立っているケースが多い気がする。それでも子供たちは屈託なく、『これは私のお人形なの』などと見せながら、『エピソード』を紹介しているのだ。いや、お気の毒さま。

■一番難しい遊び

考えたら、子供と遊ぶのもなかなか難しい。
言葉でやりとりをするのはまだ簡単だ。カードゲームやボールなどで遊ぶのも、道具がかなり助けてくれる。

一番難しいのは体で遊ぶことだ。
子供と体を使って遊ぼうとすれば、自分の身体を子供に対して開放しなければならないようなところがある。忍者ごっこ だの カンフーごっこだのというものになれば、遊びとはいえ、間合いをうかがい、戦いを作っていく身体の感度も問われる。

今はカラオケがあるので、歌うなといっても歌いたがる人が大勢いるが、昔、人前で歌うのは罰ゲームだった。なぜ罰になるかというと、恥ずかしいからだ。この恥ずかしさは(発声も含む)身体を皆の前で開放しなければならないところにあった。

子供と遊ぶのは、これに似ている。
体をつかって遊ぶということは自分の身体を子供に預けることだ。これには一定のハードルがある。さらに子供と一緒にみょうちきりんな歌を歌ったり、声を出したりしようものなら、ハードルはもっと高い。が、子供と接触する体験があれば、すぐに身体は開放できる。

■身体のバリエーション
それを考えると、わが家を訪ねる日本人の独身の男性が、子供たちの登場で、どう振舞えばいいのかわからなくなるのも当然だといえる。なぜなら、仕事の延長で訪ねてきてくださっていることが多いからだ。

通常、ビジネスで身体を開放することは基本的にしない。逆に『ここは腹を割って』という言葉が使われたり、飲酒や食事という極めて生理的な行動をともにするが、お互い身体を開放することで関係を深めようというわけだ。

ひるがえって仕事がらみの人でも『お父さん』『お母さん』という面を持っている人は、瞬時に子供に対して身体を開放できる。わが家の訪問者を見ていると、お父さん・お母さんの体験があるということは、身体のバリエーションがあるということだと思えてならない。

子供とバカ遊びをすることは、身体性を高めることであり、人間力を高める修行の一環なのだ。とかっこよくしめておこう。(了)


【追記】
9月24日付、毎日新聞(電子版)によると、日本プロ野球選手会と労働組合のナショナルセンター、連合が協力体制をつくったという。

何の協力かというと親子のキャッチボールプロジェクト。これは選手会がキャッチボールを通じて親子のコミュニケーションやきずなを深めようと取り組んでいるものだそうだ。

今月13日、松山市で行われたある労組の定期大会に選手会関係者も登場し、素手でも遊べるボールを販売したそうだ。記事には30代の組合役員のコメントが載せられている。

<「残業でヘトヘトで子供とキャッチボールなんてしたことがなかった。ボールを見て父親と遊んだ子供時代を思い出した。労働時間短縮を実現させ、子供と遊ぶ時間を作りたい」>

父親が子供との時間を確保するには労働時間・スタイルの両方をどうするかという問題がある。ちなみにドイツの労組のデモを見ていると必ずといっていいほど『家族との時間の確保』を訴えているのを見かける。

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