ドイツ・エアランゲン在住ジャーナリスト
高松平藏 のノート
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2006年9月28日


国旗はイカす?

今年、ドイツで開催されたワールドカップで驚いたのが、町中のあちらこちらに見られた国旗だ。家の窓、自動車といたるところに人々はとりつけた。そして新聞などでは『愛国心』という言葉が頻繁に使われた。ワールドカップはドイツ人の愛国心をストレートに表現する装置になっていた。
9月17日付 SONNTAGBLIZ紙で見かけたアパレル関連企業の広告

ワールドカップ終了後は、さすがに減ったが、それでも日常生活のいろいろなところにデザインとして使われるようになった。

たとえば、今月のある新聞で見かけたのが、アパレルのMURK社の広告だ。

モデルの女性の横にドイツの国旗の色である黒、赤、金の3色をグラデーション処理をしながらデザインしている。そして『黒、赤、イカす』というヘッドコピーが入れられているのだ。意訳すると<秋のファッションに赤、黒はイカす>といったような感じになるだろうか。

少しばかりドイツ語の話になるが、『イカす』の部分は『Geil』と書く。金色は『Gold』と書くからスペルが似ているのを使ったアイデアであろう。

しかもここで『イカす』と訳した言葉は本来あまり行儀のよい言葉ではない。『 さかりのついた、 好色な』といった意味がある。それが今、『クール(かっこいい)』と同様の意味で使われているのだ。数年前、とある電気製品の大規模小売店がコマーシャルのコピーに使いだして広がった。

そして今、こんな言葉と国旗を思わせるイメージとだぶらせてデザインされているのだ。

■グローバリズムとナショナリズム

そもそもドイツはナショナリズムの強い国である。しかし日本でもよく知られるように、反省を教育の現場にも持ち込んだ。その結果、戦後のナショナリズムは『反ドイツ』を内包する屈折したものだった。

特に70年代、80年代に教育を受けた世代になると、自分をドイツ人であることを表明するのをいやがる傾向が強かった。だから、『EU人』という言い方をすることもあった。

ところが、そういったタブーを今回のワールドカップは溶かしてしまったようだ。

ここ数年のドイツをみると、経済の低迷が続き、サッカーの成績もそれに伴走するかのような状態であった。しかしワールドカップではクリスマン監督はこれまでの『ダメぶり』を一新するかのような斬新な采配を展開。これで一気に『ドイツを誇ることに皆が賛成した』。シュピーゲル誌のマティアス・マツセック氏(文化担当)はあるインタビューに対して、こう答えている。

それから、グローバリズムを反映しているようにも見える。

グローバリズムは国際政治や金融、企業経営の中でよく語られるが、人々は精神的にかえって国、民族、歴史をふりかえる傾向が世界的にある。また、ドイツは急速に多民族国家化にむかっているが、こういう国家になると、何か象徴的なものがあれば、それだけで国の帰属意識につながる。ドイツのナショナリズムもこういった状況と無関係ではないだろう。

ちなみに同氏はこういった態度はワールドカップ終了後も続くだろうというふうに答えている。(了)

ワールドカップ開催中、あちらこちらで国旗がたなびいた。自動車の窓にとりつける国旗は大流行(左)。ベランダにも旗を飾る人が多かった(右)。しかも“メイド・イン・チャイナ”のドイツ国旗がかなり出回っていた。

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