2011-09-27(vol. 156)
【インタビュー】
元祖・環境都市の今日
エアランゲン市 環境政策責任者
マレーネ・ヴュストナーさん

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マレーネ・ヴュストナーさん。『法務・環境局長』だが、政治家でもあるため、自治体の『大臣』に相当と理解するとわかりやすい。1957年エアランゲンの隣、ニュルンベルクで生まれる。エアランゲン市の法律顧問などを経て2000年から現職。
ドイツ南部のエアランゲン市(人口10万人、バイエルン州)は今日『医療都市』として知られているが、実は1970年代の終わりから自転車道を整備するなど、先駆的な取り組みを行ってきた。同市の環境環境責任者マレーネ・ヴュストナーさん(=写真)に元祖環境都市ともいえるエアランゲン市の現在をきいてみた。同氏のポストは自治体の『環境大臣』に相当する。(取材・構成:高松平藏)

法律と環境
■かつて、ドイツ環境支援協会による自治体のコンテストで『環境首都』に。ほかにも90年に国連環境計画(UNEP/United Nations Environment Programme )の『グローバル500』のうちのひとつに選ばれている。また2005年にはバイエルン州でもっとも自転車に優しい町になっています。
『90年代、環境政策についてトップクラスでした。他の自治体も環境政策を強化してきているのであまり目立たなくなっていますが、現在も当時のレベルは維持しています』。

■エアランゲンの環境部署は1985年に設立。かなり早いほうです。そして行政の構造が面白い。ヴュストナーさんは『環境大臣』のようなポストだが、同時に『法務大臣』でもある。法律と環境が同じ部局にあります。
『当市の場合、法関係および環境保全の管轄下に環境保全・エネルギー部をおいています。ドイツ全体を見た場合、北部の自治体では建築分野と環境分野が同部署になっている傾向が強いですね』。
『環境と建築分野が同じ場合のメリットはスピードです。両分野の意見が一致した場合はスピード感のある政策が実現します。デメリットは対立した場合。建築分野のほうが力を持っていることが多く、環境保全の配慮の少ない建築物が建設されることがあるわけです』。
『エアランゲンのように法律関係と組み合わさっている場合、計画の実現に時間がかかる。しかし、建築部署と対等に議論ができる構造にあるのが特徴ですね』。

社会問題としての環境意識の変化
■市民に着目すると、40代以上の人は、リアルタイムに環境政策が整備されてくるのを見てきた。あるいは、法整備を実現していく担い手でした。
『そうですね。たとえば、「緑の点」というマークのついた包装材を集めてリサイクルするシステムがあります。そのための専用ゴミ・コンテナがありますが、今の若い人はどういうシステムかきちんと理解していない。包装材といえばビニールやプラスチック製のものが多いので、包装材以外のプラつチックゴミが捨てられています。この専用ゴミ・コンテナに入れられたものは、分類作業というプロセスがあるので、いっそうのこと、「分別不能ゴミ」と同じゴミ箱にしてしまってはどうかという意見も出ています』。
『今後は環境政策を支える市民を継続的に育てていく必要があり、環境教育に重点をおいています。エアランゲンは医療都市の次のビジョンに教育都市をかかげています、環境教育との統合するかたちで進めています』。
前市長が打ち出した緑化政策は環境問題のみならず、生活の質を高めることにもつながっている。(写真はエアランゲン市中心地)
■2007年、市の年間キャンペーンは環境でした。
『学校の授業で水、土壌、気候、コンポストなどを扱っているほか、2007年の環境アクション年ではて1年にわたり、フェライン(非営利組織)や学校と共同で様々なプロジェクトを行いました。これをきっかけに環境賞をつくりました』。
『環境賞の対象は14─20歳の青少年によるプロジェクトです。昨年、2010年の場合ですと服のリサイクルをテーマにした学生のグループが受賞しています。古着の使い道にはじまり、どの国でどのように繊維が加工され、市場に出回るかといったことを研究したものでした』。
『環境賞の審査基準はエコロジカルなテーマであることはいうこまでもありませんが、記録性と再生性、透明度、能動性、環境意識へのインパクト、プロジェクトの継続の可能性といったところから評価します』。
『人々の環境意識は年々、個人格差が大きくなる傾向があり、これを社会的問題と捉えています』。

■ここ10年をみると、フェライン(非営利組織)のイニシアティブで水、ガス、電気を供給するインフラ供給会社や金融関係などとパートナーシップを実現。公立の建築物や市内のすべての学校に太陽光発電を設置する取り組みが進んでいる。10万人以上の都市の中で4位につけています(2011年3月現在)。
『太陽光発電の設置は学校も対象にしていることから、環境教育の一環としても機能しています。またインフラ供給会社は現在風力発電の建設にも着手しています』。
『当市の電気の使用量の4分3は事業用。だからオフィスの環境配慮を進める価値と必要性が高い。そのために企業、大学、病院、インフラ供給企業、住宅供給会社などと気候保護協定を結び、建築物のエネルギー効率を高めたり、職場の意識を高めるようにしています。これによってCO2の排出量を抑えていく』。
『もちろん個人宅に対しても普段から住宅のエネルギー効率を高めるための助言・情報提供を役所で行っていますが、定期的に地域に出向いて、情報提供のための説明会を開いています』。

自治体の強みとしての環境対策
■市長は市議会の議長、自治体の代表、行政のトップといった強い立場で、自治体の歴史を変えてしまうことすら可能です。自転車道の整備のときもそうでしたが、企業がきちんと自転車置場をつくるなど、市長が協力を仰ぐことで積極的な協力がみられました。実際どうしていますか。
『企業との話し合いに、市長が必ず同行しますね。議員に関してはテーマによってかなり異なりますが、場合によっては党関係なしに環境政治家が一緒になって取り組みます』。

■なるほど。ところで市長といえば、自転車道を整備したのが前市長のイニシアティブでした。加えて緑化政策も目玉でした。
『そもそも森が町をかこむようなかたちをしており、77平方キロメートルの面積のうち、35平方メートルが森です。道路など公共の空間に4万5000本の木が植えられています。2002年の市の1000年記念年の年にはプロジェクトの一貫で1000本の木を植えました』。
『それから樹木保護法によって樹木の数を維持しています。これは周囲が80センチ以上の木を切る場合、必ず新しく植樹しなければならないという市の法令です』。

■自転車道については今も整備が続いています。
『そうですね。現在エアランゲン市が位置するバイエルン州では全体で自転車を推進しようという動きがあります』。
(了)

【取材メモ】 かわる、環境問題の環境

◆環境問題、特に自治体におけるこの問題は人々の生活レベルと密接だ。年月がたつと当初の制度設計を見直す必要も出てくる。

◆たとえばゴミ処理に関しては人々の意識と知識の変化がヴュストナーさんの話しから透けてみえてくる。また近年EUは市場競争化を推進する方針を強めており、国と各自治体は自己の利益を守るために調整に腐心している。

◆いうまでもなく環境問題は各分野と関連づいている。自治体単位ではいかに都市の競争力、魅力、存在感づくりに編みこんでいけるかがカギだ。ヴュストナーさんは『環境政策は明らかに都市の立地を高める条件のひとつ』だと言う。(高松 平藏)

引用、転載の場合「高松 平藏」が執筆したこと、または「インターローカル ニュース」からのものとわかるようにしてください
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