2011-06-14(vol. 155)
 ─ 町の文化、イノベーションの源泉
□□ 目次 □□
【インタビュー】エアランゲンの『コミックの祭典の父』にきく

【ニュース】文化はイノベーションのエンジン
【編集後記】新機軸

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【インタビュー】
 
エアランゲンの『コミックの祭典の父』にきく
カール-マンフレット・フィッシャー
『コミック・サロン』創設者


カール-マンフレット・フィッシャーさん
1936年生まれ。エアランゲン市文化局の元企画部門責任者。1984年にはじまったコミックのフェスティバル『インターナショナル・コミック・サロン』を立ち上げ、定年退職するまで責任者を務めた。
ドイツ南部の10万人都市エアランゲン市(バイエルン州)では2年に1度『インターナショナル・コミック・サロン』というコミックの祭典が行われる。1984年からはじまった同フェスティバルはドイツ語圏では先駆的なコミックの祭典。毎回、出展者130を超えるメッセをはじめ、原画などの展覧会、セミナー、講演、映画上映などが行われ、こらにあわせて作家たちもやってくる。フェスティバルを立ち上げた『コミック・サロンの父』カール-マンフレット・フィッシャーさんに話をきいた。(取材・構成:高松 平藏)

■ドイツでは長いあいだ、コミックは子供のものという考え方が強く、『Manga』も当然なかった。つまり文化とはみなされていませんでした。そんな中、どういう動機でフェスティバルを発案したのですか。
『コミックをテキストとビジュアルを組み合わせたメディアであると考えました。マイナーなメディアの「場」を作ることを狙いました。あくまでも文化的な動機によるものです』。

■当時はかなり抵抗があったのではないですか?
『まあ、そりゃ、いろいろありましたよ』。
『初回は成功裏に終わったのですが、それにしても社会的・文化的エリートに属する人たちはかなり強い抵抗を示しました。定期的に開催することに対しては政治家や報道関係者はかなり疑問をもっていました』。

■それでも継続にこぎつけました。
『そうですね。2回目は期待以上に全国的にも国際的にも成功しました。あくまでも文化的な意識でつくったもので、コミック・サロンはドイツ国内では初のコミックの大きなフォーラムであり、読者とフェスティバルがつながりました』
『コミックの読者はアート・文学レベルでの理解にもあった。大新聞の文化欄やミュージアムもこれに気が付きました。コミックが“第9番目の芸術(※)”というわけですね』。
※9番目の芸術: フランスの文芸批評家、フランシス・ラカサンが1971年に発表したエッセイで建築、絵画、彫刻、グラフィック、デッサン、写真、映画、テレビに次ぐ芸術としてコミックを挙げた。

■コミック・サロンはすっかりおなじみのものになった。
『今日ではコミックは社会的に受け入れられ、独立した芸術部門とされている。コミック・サロン自体は市の財政難などもあり、厳しい予算の中、常にトライアルを迫られています。しかし、毎年行われている“詩人の祭典”、2年ごとに行われる“フィギュア・フェスティバル(人形系のパフォーマンスアートフェスティバル)”と並んで、今や町の“文化の灯台”といえるでしょう。コミック・サロンはドイツ国内はもとより、国際的にも意味のあるものだと思います』。

■メディアとしてのコミックについてどう考えますか。
『テキストとビジュアルの組み合わせによる物語は、あらゆる層に魅力的でエンターティンメントであり、感動をもたらします』。
『もちろん、他のメディアと同様、作品の質については玉石混交です。しかしよい方向で作れば、高いレベルのアートに展開できるというものです』。

コミック・サロンの様子。町全体にフェスティバルの雰囲気でいっぱいになる。レストランやホテルなどサービス業を中心にした経済効果も高い。
■コミックに将来は?
『テキストとビジュアルの組み合わせは1000年以上あり、人間のニーズにこたえているかたちです。最近は歴史や環境問題、政治・社会にまで広がっていて、(コミックは)公式の議論の場にもなっている』。
『将来的にはコンピューターと組み合わさり、コミックの形が拡大するのではないでしょうか。コミックに将来があるからこそ、メディアのフォーラムとしてのコミック・サロンも将来があるといえると思います』。

【取材メモ】
エアランゲン市では3つの文化系のフェスティバルがある。2つのフェスティバルの訪問者は8割が市内や近隣地域から。それに対して、コミック・サロンは8割が地域外からやってくる。宿泊、サービス業などの経済効果も高い。

『先見の明』という言葉は何かしらの成功をもたらしてから言われるものだ。海のものとも山のものとも分からないものに可能性を見出し、合意を得て、事業化にもっていくのは難しい。フィッシャーさんの勇気ある決断と実行力がエアランゲン市の『コミックの町』としての顔をつくった。(了)




【ニュース】
文化はイノベーションのエンジン
創造性をテーマにしたフェスティバル『made in….』


エアランゲン市街の広場もフェスティバルの会場になった。
ドイツ南部の隣接する4都市ニュルンベルク、フュルト、シュワバッハでこのほど「made in…」というフェスティバルが開催された。

4月1日から17日にかけて行われたこのフェスティバルは展覧会、パフォーマンス、シンポジウムはじめ30程度のプロジェクトが展開された。

たとえば『ブラインドデート』と呼ばれるプロジェクトでは、参加希望者はあらかじめ主催側に登録しておくと、まったく面識のないアーティストと「デート」をセッティングしてくれるという仕組みだ。アーティストとどれだけ創造的な会話ができるかは、参加者次第だ。

市営の図書館で行われた「交換プロジェクト」では参加者が気に入った本を持参し、会場においてある本と交換していく。これらのプロジェクトは、感性や知識の交換といったものがテーマになっている。

著名人が訪問したときに署名される市のゴールデンブックにサインをするベルント・ノイマン連邦文化メディア大臣。後ろにたつのは左から、ディーター・ロスマイスル博士(市文化局長)、シュテファン・ミュラー氏(連邦議員)、シーグフリード・バライス博士(エアランゲン市長)。市営劇場にて。
他方、同フェスティバルでは創造性と経済にも着目されているが、『Let´s Talk about Money』と題したダンスシアターが上演されたほか、『創造性の位置』と題したシンポジウムは文化や芸術分野、デザインなどの創造的な産業で働く人やアーティストたちが集まり、これからの働き方などに焦点をあてたテーマが扱われた。

フェスティバルのオープニングはエアランゲン市内にある医療技術ベンチャー育成を専門にしたビジネス・インキュベーター(「孵化器」の意)で行われた。連邦文化メディア大臣のベルント・ノイマン氏も臨んだ。

開催にあたって、ナウマン氏は『デザイナー、建築家、ダンサー、芸術家、音楽家などが活躍する文化や創造産業は柔軟性の高いイノベーションのエンジン。経済成長のみならず、新しい雇用機会も生み出す』と述べた。(了)




【編集後記】
新機軸

◆コミックという『下に見られていた』子供のものを、新しいメディアとして捉えなおしたところに新規性があった。コミックやマンガに関して今では同市はドイツ語圏でも最もよく知られた町のひとつだ。同市の新機軸をつくりだした。

◆ドイツのようにいわゆる先進国はすでに経済から文化に及ぶまで、インフラの蓄積は分厚い。高いレベルで安定している分、大胆な新機軸を生み出しにくい側面はある。それを意識したフェスティバルが『made in....』だと思う。

◆自治体は永遠に経済、生活の質、存在感を高めていかねばならない。常に大小のイノベーションが必要だ。コミック・サロンはその一例。『made in...』はこれからの時代、更にイノベーションが必要だという自治体の強制観念、あるいは鼓舞にも見えた。(高松 平藏)


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発  行  人 : 高松平藏 
発  行  日 : 不定期
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