2010-06-25(vol. 153) | |||||||
─ 財政難をめぐる動き |
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□□ 目次 □□ 【ニュース】ドイツ自治体、財政難と文化 【編集後記】クールな会社 |
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【ニュース】 ドイツ自治体、財政難と文化 浮かび上がらる文化の価値 ドイツの市町村が財政難にあえいでいる。それにあわせて、各自治体での文化政策にも影響が出ている。 世界経済危機の影響による企業の収益減と、社会保障の出費の増大をうけて、ドイツ自治体の財政状況が悪化。150億ユーロの赤字が見込まれている。 生活保障などの自治体の福祉関係の負担は多く、自治体は連邦政府に対して負担減を要求している。ドイツ都市会議によると、福祉関係の出費はここ20年で倍にまで増加しているという。 一方、税収の増加も図ろうとしている。自治体の税収で大きなものに地元企業から納税される営業税があるが、納税対象を小規模な自営業者などにも範囲を広げるよう連邦政府に求めている。 文化予算削減も 自治体の財政難は文化に対する予算削減にもつながる。 とりわけヴッパタール市(ノルトライン=ヴェストファーレン州)はその象徴。同市は 人口35万人の町だが、昨年6月に亡くなった世界的な振付家ピナ・バウッシュ氏の舞踊団の劇場のほか、ヴッパタール劇場やオペラハウスがある。今年にはいって、統廃合の意見が出ていた。35万人の町に『文化』が多すぎるのではないかというわけだ。 ミュー ジアムも深刻だ。特に自治体のミュージアムは所有物の維持費がかさむ構造にあるからだ。 そもそも自治体の文化予算は全体の 1.6-2.6%程度。たとえ文化予算を削っても財政状況の大きな改善にはつながりにくい。ところが文化分野は市民のボランティアで成り立っているところ も多く予算のカットをしやすい。 一方、フュルト市(人口11万人、バイエルン州)の文化責任者のクラウディア・フロリッツ氏は、不況の時だからこそ、文化に投資するべきだと長期的視点にたった意見を述べている。 エアランゲンのフェスティバルも危機
同フェスティバルは名称からいうと子供向けの操り人形などを思い起こすかもしれないが、『人形』を取っ掛かりにした演劇やダンス、パフォーマンスなどが行われるもの。1979年にスタートし、2年ごとに開催されている。近隣の3都市と共同で開催することでスケールメリットを生み出し、18カ国65アーティストが100以上の公演を行う。観客動員数は2万5千人を超える。 そんな同フェスティバルの中止案に対して反対運動が活発化。全国紙でもとりあげられた。また、地元紙は連日動静が伝え、読者欄には国外からも継続を願う投書があった。 2月下旬には市役所前に文化を専門にしている市会議員らをはじめ約200人が集まりデモを展開。市長のシーグリッド・バライス博士がやってきて直接話し合う一幕もあった。
中止案に対する反対運動は、結果的にフェスティバルの価値を浮かび上がらせる結果にもなった。 フェスティバルを継続する価値を語るものに、町の『内向け』にはアイデンティティを強め、『外向け』には町のイメージを発信することになるという意見が出てきた。ドイツでは都市の生活の質やイメージを大切にする考えが根強いことから、企業を誘致する際にもこれは重要な条件になる。 また、フェスティバルには観光客を呼び込むことにもなる。そのため市内のホテルや小売業、サービス業の売上増という『実益』もある。こういった効果もあることから、市内のホテルは市長あてに、100人分のアーティスト用の宿泊クーポン券をプレゼントするという『反対運動』も行った。 さて、1か月以上にわたる反対運動の結果、同市を一拠点にしているグローバル企業のシーメンス社がスポンサリングを行うことを決定。これによって、2011年の同フェスティバル開催は可能になった。同社は『拠点の生活の質を高めることは企業の責任でもある』としている。 ※ ※ ともあれ、自治体の財政難が目立つと、文化予算のカットが取り上げられる。そして必ずといってよいほど抵抗が出てくる。社会活力など見えない価値を鑑みると文化は重要だ。ドイツで時々『文化は経済のエンジン』といった言い回しが聞かれるのもその証左といえるだろう。 一方で文化予算縮小に対する抵抗は、少し距離をおいて見ると、社会保障などと同様、既得権益を守ろうとする贅沢な欧州人の姿とともだぶる。それにしても背景には文化があるのは当たり前という意識が働いていることがうかがえる。(了) 【編集後記】 クールな会社 ◆エアランゲンのフェスティバルを救ったのはシーメンス社のスポンサリングだった。 ◆12歳の長女に、フェスティバル中止案とそれに対する反対について説明。最後に、シーメンス社のスポンサリングについて話したところ、『クール!』と声をあげた。 ◆企業が文化におカネを出すのは、広告、イメージアップ、CSR(社会的責任)といった理由がある。シーメンス社は文化にカネを出すことで、少なくとも12歳の少女に『クール』と言わしめた。スポンサリング効果の一例を見た思いでした。(高松 平藏) |
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■■インターローカルニュース■■ 発 行 : インターローカルジャーナル http://www.interlocal.org/ 発 行 人 : 高松平藏 発 行 日 : 不定期 Copyright(C) Interlocal Journal |
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