2009-10-29(vol. 150)
 ─ 自治体と地元社会
□□ 目次 □□
【インタビュー】社会貢献は地域への『お返し』

【ニュース】2010年、経済危機が自治体に 
【編集後記】EUと自治体

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【インタビュー】
 
社会貢献は地域への『お返し』
ガブリエレ・シュティーフラーさん
(エアランゲン・ライファイゼン・フォルクスバンク マーケティング担当)


『貢献は地域へのお返しです』と語るシュティーフラーさん
ドイツの銀行は地元の文化や福祉、教育といった方面へ様々な支援を行っている。エアランゲン・ライファイゼン・フォルクスバンクのガブリエレ・シュティーフラーさんに話をきいた。同行は共同組合銀行で日本の信用金庫にあたる。(取材・構成:高松 平藏)

■ライファイゼン・フォルクスバンクはドイツの共同組合銀行、つまり地域に根差した金融機関といえますが、社会貢献が盛んですね。
『エアランゲンにはいくつかの銀行がありますが、当行は市内で2番目の規模の銀行です。社会貢献の分野は芸術、スポーツ、青少年、社会の4分野にわけて行っています』

■フェライン(協会、非営利組織)と一緒に行うような内容が多いそうですね?
『芸術に関しては賞を設けていますが、賞金は2000ユーロ。この芸術賞はエアランゲンの芸術フェラインと共同で行っています』 。
『フェラインと一緒に行うものといえば「遊びながらスポーツ」というプログラムがそうです。幼稚園で子供の運動不足の解消を目的にしたものですが、実際に指導しているのが市内のスポーツ・フェライン。当行は2500ユーロの支援を行っています』。

■日本の学校は全日制でクラブ活動などあり、学業のほかの文化やスポーツまでカバーするかたちです。それに対してドイツ は基本的に午前中で授業は終わり。あえて日本とのコントラストを大きくしていえば学校がひきうけているのは学業のみという感じが強い。そんな中でもドイツの学校はプロジェクト制で様々な文化的取り組みをします。銀行がスポンサーになっているのをよく見ます。
『青少年を対象にするかたちで、学校のプロジェクトに支援しています。創造性を目的としたプロジェクトを行う場合、学校はいろいろなサポートが必要ですからね。年間の予算は100万円。学校がなんらかのプロジェクトを行うときに当行に応募していただき、審査員が支援の可否を決めています。本当はできるだけ多くのところに支援したいのですが、最終的には審査員の好みが左右される面は否めませんね』。
『昨年度、助成したのは24校。演劇、サーカス、ビッグバンドなど。金額も200〜2500ユーロとプロジェクトに応じた額にしています』。

■学校側は銀行に助成制度があることをよく知っているんですね。
『まず、すべての学校の校長先生に助成のパンフレトを配っています』。
『また当行で様々な講演を主催する場合がありますが、中には学生を対象にしたようなものもあります。そして、学生が学校から遠足のような感じで来れるようにしています。これで、助成制度があることを知ってもらえる』。

■『福祉』『社会保障』といったカテゴリーにある分野にも積極的です。
『予算的には、2万ユーロと最も多いです。具体的には、たとえば、若者のために職業訓練(インターン)先の企業を探すプロジェクトや、福祉施設に自動車を寄付するなどを行っています。また13の福祉組織に合計1万ユーロを寄付しています』。

エアランゲン市内にあるライファイゼン・フォルクスバンク
■こうした貢献の根拠はなんですか?それに、マーケティングや広告というような意味あいもあるのでは?
『個人主義が強すぎると、社会が冷たいものになってきます。それらを補正していくようなプロジェクトを支援したいと思っています。もちろん、マーケティングも重要ですし、支援の一部を広告費からねん出しているところもあります』

■ドイツの様子からいえば、企業にしても金融機関にしても、スポンサリングは当然と思っている人も多いのでは?
『そうですね。銀行は当然支援するものであるというイメージが定着しています。そのためのプレッシャーもけっこう強いですよ』。
『それにしても、当行はこの地方で経済的に成り立っている。この地方にお返しをしなければならないというのが基本的な考え方です。いってみればギブ・アンド・テイクですね』。

【取材メモ】
ドイツ企業のCSR(社会的責任)といったときに社会とは、企業が立脚している『地元』が具体的な社会だ。この地元社会の生活の質を高めることが、社会貢献 と考える傾向が強い。これは世界的な企業でも同様で、様々な社会貢献やメセナ(文化支援)も結局、拠点になっている地元『社会』への貢献を行っている。同行は農協や信用組合のような組織で、元々社会的な金融機関であるが、それにしても地元との関係の強さがくっきり出ている。(了)




【ニュース】
2010年、経済危機が自治体に
『コムナーレ』
バイエルンの自治体集まる 


交通関係の機材など、自治体に必要な商品を扱う企業が出展している。
ニュルンベルク見本市会場にて、このほどバイエルン州の自治体の催し『コムナーレ』が行われた。

今月14、15日の2日間にかけて、開催された『コムナーレ』は自治体向けの商品を扱う企業の見本市のほか、講演や首長の会議などを組み合わせたもので2年に一度行われる『専門メッセ』。主催は州内の自治体で構成される『バイエルン自治体会議』。

毎回、消防やITなど自治体にかかわる様々なテーマがあげられるが、今回、強調されたのが、高速情報ネットワークの充実化と教育問題。とりわけ教育 問題が取り上げられるのはドイツらしい。というのも文化や教育は州の管轄だからだ。そのため州によって学校の仕組みが若干異なることもある。

『自治体に経済危機の影響が来るのは2010年』と語るブランドル博士
またバイエルン自治体会議の代表ウヴェ・ブランドル博士は会期中、『このたびの経済危機は2010年にバイエルンの自治体に“たどり着く”だろう』と予測を述べた。

2008 年におこった経済危機は、ドイツでも大きな影響をおよぼしているが、自治体の財政をみると、2009年は前年度の税収が元になっているため、経済危機の影 響が比較的少なかった。それに対して、2010年は経済危機の影響が自治体財政につながってくる。とりわけ自治体財政のなかでも、地元の企業から入る営業 税の比率が大きい。経済危機に対し、企業などは労働時間の短縮などの措置などで、対策を講じたが、収益の減少傾向にあるため、2010年の自治体財政に強く影響してくるというわけだ。

この催しが初めて行われたのが1999年。今年は10周年の年だ。今年は 市長や高位の公務員など5,100人以上が訪ねた。見本市の出展者も260を数えた。

近年EU(ヨーロッパ連合)は拡大傾向にあるが、これを背景にドイツの自治体も『EUの基礎自治体として大丈夫だろうか』という危機感をつのらしている。これを受けて近隣地域が手を組んで、EUの中で存在感を高める取り組みを数々行っているが、『コムナーレ』もそんな取り組みの一つだ。主催者『バイエルン自治体会議』の事務局長・ヴィルフリード・ショーバー氏によると『この10年で同メッセに対してマスコミの取材も増えた。政治的にも存在感が高まってきてい る』という。(了)




【編集後記】
EUと自治体

◆日本の自治体の中にも韓国や中国との関係を考えて動いているところもあるが、ドイツの自治体がEUという枠組みをにらんで、生き残りを考えるあたりは、ヨーロッパらしい。

◆人口3万人ほどのある街ではフランスやイタリアの都市と姉妹都市関係をつくっているが、政治的にはEUをにらんだ戦略というような意味もあるようだ。

◆昨今、日本で企業経営の新たなキーワードにCSR(社会的責任)が注目を浴びている。ドイツでも大切な概念であるが、昔から企業にとっては立脚した街との関係を強く意識しているようなところがある。その経緯からいえば、ドイツ国内に関しては今さらCSRを声高に叫ぶ必要もなさそうにも思える。

◆ただ、EUでもCSRは強調されている。この背景にはEUの拡大に伴い、新規加盟国の企業倫理をEUスタンダードにしようという狙いがあるといえそうだ。(高松 平藏)


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