2009-07-24(vol. 149)
 ─ 町の歴史、町での対話
□□ 目次 □□
【ニュース】街の歴史を移動型演劇作品で/『ユダヤの今』

【ニュース】グローバル時代、地元のボランティアの役割大きく 
【編集後記】ドイツ、文化と政治はワンセット

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【ニュース】
 
街の歴史を移動型演劇作品で
 『ユダヤの今』



街が突然劇場空間に
イスラエル文化会館ではユダヤ教徒の食文化に触れることができる。エプロン姿人物は俳優。
【フュルト】ドイツ南部のフュルト市(人口約11万人、バイエルン州)でこのほど、『ユダヤの今』と題した演劇作品が上演された。

同作品は先月17日から今月5日までのあいだ計6回上演。5人の俳優のほか13人の市民も『俳優』として参加した。

フュルト市はもともとユダヤ人の多かった街で、ドイツ系ユダヤ人であるアメリカの国務長官などを務めたヘンリー・キッシンジャーの出生地でもある。現在も270人ほどにユダヤ人が住むが、ヒトラー政権が成立した1933年当時は2000人程度が住んでいた。

そんな歴史的経緯からたびたびユダヤ人・ユダヤ文化をテーマにした文化プログラムが展開されているが、今回の作品もそんな中のひとつだ。

■街を演劇空間に
上演の方法は観客が移動し、様々な場所で役者が宗教やユダヤに関することをテーマにした小作品を演じる『ライブ・サーキット』方式。家族や友達といった身じかなものから、神話、政治など様々な角度から時には皮肉やお笑いをまじえ、アプローチしている。

観客の一人の女性は『現在は別の町に住んでいるが、フュルト市は故郷。たまたま帰ってきたところ、この作品が上演されていた。驚きと楽しさ、ユダヤに関する説明が作品にさりげなく入っていて、台詞も面白い』と述べる。

作品のはじまりは、市営劇場内でのロビーである。観客は思い思いに座ったり、立ちながら隣の人と話をしている。そこへ劇場運営責任者のベルナー・ミュラーさんが演台で挨拶をはじめるが、間もなく聴衆の一人が突然、大声で異議を唱え、また別の人が応酬する。もちろん、これは役者による演技だが、一瞬観客はどきっとする。

このあと劇場を出て、スタッフの案内で様々な場所をまわる。ある時は大通りの真ん中、石階段のある場所、広場をはじめ、1999年にオープンしたユダヤ・ミュージアムも会場になった。館内のレクチャー室ではレクチャー風にアレンジした作品を上演したほか、展示室やカフェなど様々な場所が使われた。

またイスラエル文化会館では観客はテーブルにつき、ユダヤ教徒の食べ物であるクラッカー状のパン『マッツォー』とスープを実際に食べながら、役者がこれらの食べ物にまつわることをテーマに観客と対話式で話しを進めていった。

最後は文化施設『カルチャーフォーラム』の舞台で公演が行われ、4時間余りのプログラムが終わった。

ドイツの都市は自らの歴史を執拗に描く傾向があるが、こういった取り組みが都市のアイデンティティを強めているといえる。(了)




【ニュース】
グローバル時代、地元のボランティアの役割大きく
エアランゲンのカルチャー・ダイアローグ


分科会での議論を発表する発表者
人口約10万人のエアランゲン市の文化・青少年・余暇局はこのほど、第6回『カルチャー・ダイアローグ(対話)』を開催した。

昨年は地方選挙と重なったため、開催は見送られたが、毎回設定されたテーマにそって講演や分科会での議論などが行われる。また文化施設のスタッフや専門家、フェライン(協会・非営利組織)、政治家、興味のある市民など100-150名の参加がある。3 月に行われた今回のテーマは『市民による市民社会の文化』。

ドイツ全体を見ると350万人以上の人が文化の分野でボランティアとして活動している。また今回講演を行ったトーマス・ローブケ博士(全国市民社会参加ネットワーク代表)によると、全国で分野にかかわらず、14歳以上で何らかのボランティア活動を行っている人数は人口の36%。経済規模でいえば240億ユーロに相当するという。

ドイツはボランティア活動の拠点になりやすい教会が地域単位であり、さらにフェライン(協会・非営利組織)の歴史が古い。またドイツの労働スタイルをみると、職住近接で短時間労働、長期休暇もとりやすいため、可処分時間も多い。そのため自分の余暇時間を使って、自由意思で行う活動(ボランティア)の環境がすでに整っている。

分科会のテーマ
1. 文化フェラインの改革
─後継者や新しいメンバーの獲得
2. パートナー探し
―行政や学校などとのパートナーシップの形は?
3. 市民活動の推進
─資源、枠組み、ノウハウ、評価
4. 新しい課題
─支援・推進のためのフェラインは、町の文化的生活のための『圧力グループ(ロビー組織)』としてどうあるべきか?
日本から見ると、『市民社会』は充実しているように見えるドイツだが、なぜ、今回のようなテーマがなぜ設定されたのだろうか。エアランゲン市の文化の責任者であるディーター・ロスマイスル博士は『文化政策の予算が減少傾向にあるなか、市民の活動が大切になってくる』と話す。

また、討論を行う4つの分科会からもフェライン(協会・非営利組織)の歴史が長いために起こってくる後継者問題や、社会の変化に対して既存のフェラインがどのような役割を担うべきか、といった課題がうかびあがる。

■ボランティアは地元の『栄養素』
ローブケ博士によるとボランティアは社会全体の腐葉土のようなものだと述べる。腐葉土とは自然が長年かけてつくりだす栄養たっぷりの天然の堆肥だ。『グローバル化によってかえって地方のアイデンティティを見直す機会がある。また昨今の経済危機は、世の中お金がすべてではないことに気がつくだろう』という。

そして『市民のボランティア活動はお金はそれほどいらないが、やはりある程度必要。ボランティアのためのインフラもいる。また市役所の中で、ボランティア・マネジメントやフェライン(協会・非営利組織)の支援も不可欠』とローブケ博士は述べた。(了)




【編集後記】
ドイツ、文化と政治はワンセット

カルチャー・ダイアローグの議論の中で、ある文化施設のスタッフの若者が『政治と文化政策をきりはなしてはどうか』とやや興奮ぎみに発言した。ドイツの様子からいえば、未熟としかいいようのない発言であるが、そのあと、市の文化の責任者であるロスマイスル博士が『私たちは今、議論をしていることさえも政治。文化がつかっているお金1セントでも政治がきめたこと。決してバラバラでみることはできないし、ばらばらにする必要もない』と論じた。文化と政治がきちんとつながっているがゆえに、『ユダヤの今』のような街の歴史を形作るプログラムが生まれる理由になっているといえよう。

◆ドイツで面白いと思うのは様々な場所をうまく演劇空間に変えてしまうところ。『ユダヤの今』でも、ミュージアムのカフェでは店員さんだと思っていた女性が突然、テーブルについている(観)客に愚痴を言うように話しはじめて、演技が始まるといったものなど、驚かされ、楽しんだ。作品のそのものに、街の歴史や文化そのものを形にする機能があるわけだが、実際にユダヤ文化が残る町並みをゆっくり歩く機会にもなっている。(高松 平藏)


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発  行  人 : 高松平藏 
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