2008-04-07 (vol. 144)
─ 俳優・松野方子さん インタビュー 1/3
【インタビュー】
日独の演劇と子供
俳優 松野方子さん

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文化庁の海外派遣プログラムで昨年11月から今年の1月にかけてドイツに滞在した俳優・演出助手の松野方子さんに話をきいた。同氏は劇団『仲間』に所属し、小中学生を対象としたワークショップなども手がけている。

演劇が身近

松野方子さん。2007年11月から3ヶ月間ドイツに滞在した。
■平成19年度の文化庁新進芸術家の海外留学制度でドイツへ。目的は?
『演劇と教育の関係がテーマです。児童演劇におけるドイツの実態を見るために、子供による演劇の授業や稽古を見学したり、演劇関係者から話を聞いたりします』
『研修の受け入れ先というのがあるのですが、私の場合2カ所。ニュルンベルクの劇団「テーフォー(Thevo)」とフランスの国境近くにあるヘルクスハイムという町にある劇団「チャヴヴェルッシュ・テアター(Chawwerusch Theater)」です』

■ニュルンベルクの劇団とは以前、共同プロジェクトを行われていましたね。
『はい。2004年から2006年にかけて、私が所属する劇団のメンバーと共同でプロジェクトを行いました。お互いが日独を訪問して共同で作り上げた作品の上演やワークショップをしました』

『私も共同作品に出演したのですが、ヘルクスハイムはドイツ国内での上演場所のひとつです。そのときにお世話になったのが劇団「チャヴヴェルッシュ・テアター」でした』

■ヘルクスハイムは人口1万人程度の小さな町ですが、大変印象的だったようですね。
『ここの劇団は芝居も面白いのですが、ギムナジウム(中等教育機関)で演劇を教えるなど、地域で本格的にいろんなことにチャレンジしている。こんな劇団があるということが、まずすごいと思いました』

『そして私の滞在期間中、同劇団は学校演劇、児童演劇、稽古、地域との関係などを学べるように準備してくれた。研修の目的に沿ってドイツで見ておきたいものや、体験したいものがすべてあったといってもいい。人間的にもいい人たちで、ここで研修できてとてもよかったです』

■それ以外の街へも足を運び、稽古の現場などをご覧になっていますが、全体的にどういう印象を持たれましたか?
『たとえば教会でも教区の子供たちがクリスマス劇をします。ドイツって演劇が身近なんだということを実感しています。また教会のみならず劇場などでも演劇の取り組みがありますが、どこでも一杯になるのが面白い』

■年末になると家族で地元の劇場に行ってオペラを見る、などという人もけっこういるようですからね。
『私も大晦日にはニュルンベルクの劇場に行ってみたのですが、なぜ大晦日のこの時間に満席なんだろうと思うわけです。私たちの感覚でいうと、「紅白はどうした!」と言いたくなる(笑)。一言でいえば文化のあり方の違いということなのでしょうね。』

ドイツの演劇

■芝居も随分ごらんになっているようですね。2ヶ月で30以上はご覧になったとか。
『ベルリンなど様々なところで見ていますが、研修先になっていたヘルクスハイムで見た作品が印象的でしたね。元々オーストリアの作品なんですが、町の地域性を考えたアレンジがされていた。笑って、泣いてというツボのようなものをうまく拾っている』

■空間の使い方に面白いものがあったとか。
『ヘルクスハイムで見たものですが、ワイン工場なんかを使っていて、シーンごとに芝居をする場所を変える。そのたびに観客はゾロゾロと移動するわけです。工場全体を劇場として考えているわけですね。随分驚きました』

『それからドイツという国は意外と古いものを大切にしてつかっています。そのせいか街じたい空間的におもしろい。日本だと壊したり、逆に大切にしすぎて入れないってことがある。そんなことを背景に空間に対する柔軟なアイデアが出てくるのかもしれませんね』

■日本と比べていかがですか。
『私の語学力の問題もあるので、比較は難しいですが、まず彼らを役者として尊敬はできます。なぜなら技術やアイデアがある。それに気持ちから発信していて、彼らから伝わってくるものが本物。そして芝居をすることや演劇の目的がはっきりしている感じがする』

『ただ、残念なのは子供向けの芝居。あれだけ数多くあるのに、私が「いい」と思うものは少ない。正確にいえば私が求めている芝居には出会えなかった』

■どういう芝居が見たかったのですか。
『難しい芝居を求めているわけではないのですが、子供に媚びず、小さくとも物語のエネルギーを与えられるようなものです』

『私たちの場合、なぜこの作品をやるのかということを熟考するわけです。そうやって決めたテーマをお客さんにどれだけ渡せるかということを考える。ところがドイツで見た子供向けの芝居では技術はあるのに、その作品をなぜやるのかといった真意が見えてこない』

『他方、私の属しているの劇団では演出上の決まりごとのようなものがあるのですが、その中に「やっちゃいけないこと」がある。それがドイツではあっさりできている。私にとってこれがまた複雑な気持ちになる』

■子供向けといえば、「アウグスブルガー・プッペンキステ人形劇団」という有名な人形劇があります。テレビでも繰り返し放送されている。
『確かに子供向けの芝居が見たいといえば、人形劇を紹介されることが多いでしたね。人形劇のほうが面白いんですよ』

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発      行 : インターローカルジャーナル
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発  行  人 : 高松平藏 
発  行  日 : 不定期

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