2008-04-07 (vol. 144)) |
─ 俳優・松野方子さん インタビュー 2/3 | |||||
ドイツとの プロジェクト
『大きな影響を受けたのはインプロ(即興)演劇ですね。これは相手が即興で演じたものに対して、反応しながら続きを演じるというスタイルのものです』 『ところが日本の役者というのはインプロ(即興)が苦手なんですよ。うまく見せようか、上手にやらなきゃいけない。そんな気持ちがどこかにある』 ■松野さんの所属してらっしゃるような劇団の場合、基本的に台本があって、作りこんでいきますから、随分発想が異なるでしょうね。 『はい。ドイツ側と一緒に取り組んだとき、違和感を覚えることがある。ところが、それはあくまでも私たちの劇団の中で共有している方法論からの見解。相手が何か考えをもって、その演技をしているのであれば、それに応えなければならないのがインプロ(即興)のキャッチボールです』 『それにインプロでは自分がやったことに対して、間違いはないと確信することが大切です。自分がやったことをさらにふくらませていくのは次の人という姿勢が必要ですね。そして違和感を覚える演技に対しても正直に応えて、次に渡さなければ続かない』 ■インプロ演劇の体験は役に立っていますか 『そうですね。この体験はほかのことにも通じる話ですからね。たとえば、若い俳優と一緒に稽古をした時、その俳優さんの演技に対して「違うわよ」というのは簡単。それよりも対話をしながら作っていくようになった。話し合えるというのがとても面白い』 『それに私自身が普通のお芝居で、何がきても怖くなくなりました。なんとかできるだろうという自然体でいられる』 ワークショップの 現場 ■日本でワークショップもよくされているようですね。 『文化庁の「本物の舞台芸術体験事業」というのがあるのですが、当劇団もその事業の一環で取り組んでいます。具体的には小中学校で「カモメにとぶことを教えた猫」という作品を上演するのですが、その前に子供たちを対象にワークショップを行います。そして、子供たちにも作品に出演してもらうというやり方です』 『進め方のポイントは、まず子供たちと劇団員とでコミュニケーションをとって、信頼関係を作る。ワークショップのあとは芝居に参加するための稽古に入るわけですが、それは子供たちに考えさせる。もちろん適宜助言はしますが、子供たちで動きをつけていくし、衣装や小道具も作る。そのためのグループ分けやその班長を決めたりするのも子供。私たちはそのための環境をつくってあげるというのが基本的な仕事です』 ■なるほど。ワークショップの内容は? 『アイコンタクトをつかったコミュニケーションや聴覚で相手をさぐるなど五感を目一杯つかう。ほかには「ぱっ」という発声だけで感情を表現するといったことをします』 『いろんなリズムをみんなでつくって、音楽として完成させるということもします。これで子供たちの集中力が出てくる。身体の不自由な子供がいることもあるのですが、皆と同じようにはできないわけです。このとき、その子供を排除せずに、逆に皆が彼に合わせる。そうすると彼は一生懸命やっているし、自分のリズムがある。それにみんなが集中していく。そういうふうにすると、相手を思ったり、しゃべらずに相手の何かを感じるというかたちの協調性をつくっていける』 ■世界が裏がえるような瞬間ですね。 『彼は彼。マイペースでいいんです。でもこれまで皆は彼に合わせて何かしたことはあるかというと、なかなかない。そこで皆が彼のリズムに合わせてみると、彼も皆も嬉しそうにやっている』 『また、中には普段から「自分が自分が」という子供もいる。だけどその子も体の不自由な彼にあわせるということができれば、人との接し方がかわるのではないかと思う。あとは集中力のない子や、排除されることが多いような子にあわせるということをします』 ■子供たちから見ると、松野さんはどううつっているんでしょう。 『子供たちの中には自分から積極的に取り組めず“他動”の子がけっこういる。その子をつかまえて「おばちゃんの目をみて」というふうにやるわけです。私も彼も真剣になるとちゃんと目を合わせることができるし、むしろそれによって落ち着くようなんですね』 『それにその子にとっては自分のことを見てくれていると思うようです。あとで感想文なんかを見ると「(おばちゃんは)自分を信じてくれた」というようなことが書いてある。もしかして他人に対して恐怖があるのかもしれない』 ■他人とじっくり相まみえるという体験がないのかもしれませんね。 『そうかもしれません。いろんな子供がいるんですけど、自分を見てほしいという発信をしている子が多いような気がしますね。そういう子供は、たとえば落ち着きがなかったり、さり気なく私のほうによってくる。あるいはみんなと離れていながらも、気にしているといったような行動をとっているように思う』 |
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