2007-08-03(vol. 139) | |||||
─ 自治体にとって市民の文化とは何か |
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□□ 目次 □□ 【ニュース】コミュニティ型の文化娯楽施設、25周年を迎える 【解 説】「官・民・政」が施設を支える 【編集後記】大阪の文化施策、なぜもろいのか |
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【ニュース】 コミュニティ型の文化娯楽施設、25周年を迎える ドイツ南部のエアランゲン市(人口約10万人、バイエルン州)の文化娯楽施設『E-Werk(イー・ヴェルク)』が設立25周年を迎えた。 カルチャー・センター E−ヴェルク(Kulturezentrum
E−Werk)は発電所だった建物を利用し、1982年にオープン。7月は25周年記念の月とし、通常のプログラムに加えてシンポジウムなども行われた。
施設内には劇場、ディスコ、レストランなどがあり、週末は若者でにぎわう。そのため若者の文化と娯楽施設というイメージは強いが、写真ラボや陶芸ルームなどもあり、ロック、エレクトリック・ミュージック、社交ダンス、演劇と映画に関するグループなどの拠点となっており、定期的に30歳以上を対象にしたディスコ・パーティなども行われ、すべての世代が関われる。 ちなみに日本のスカバンド、東京スカパラダイスオーケストラもヨーロッパツアーのたびに同施設でライブを行っている。 ■非営利法人から有限会社化 E−ヴェルクができる以前から市街にはジャズクラブや若者向けのクラブがあったものの、周辺住民からあまり歓迎されていなかった。若者のための集まる場所をつくろうという話が70年代後半に浮上し、79年にフェライン(ドイツの非営利組織)を設立。市も改装費用などの経済的な補助をすることになり、82年のオープンにこぎつけた。 同施設のプログラム運営に関しては非営利法人であるにもかかわらずマネジメントは手堅く、動員数の少ない分野の公演やイベントは年間の本数を減らすなど、プログラムの工夫が奏功し、1997年には『非営利法人』にもかかわらず黒字決算となった。 運営上、問題もあった。会場にもなることもある施設内に併設されたレストランは有限会社。E−ヴェルク全体をみると2つの組織がある状態だった。90年代後半には財務の合理化と、よりコンセプトに沿った運営の実現とを目指し、施設全体の運営を一元化すべきという議論が噴出。これを受けて、レストランの運営会社を吸収するかたちで『カルチャー・センター E−ヴェルク 有限会社』が設立された。非営利法人の代表だったベルント・ウルバン氏(=写真)が社長についた。なお音楽やダンスなどのグループに関しては今も非営利法人が運営している。(了) 【解説】 「官・民・政」が施設を支える E-ヴェルクの見るべき点は多々あるが、市内のあらゆる人々が関わっている点が25年間の継続につながっているのではないかと思われる。
設立につながった背景には、当時コミュニケーションンセンターと呼ばれる形態のコミュニティ志向の文化施設が出始めていたこともある。またドイツでは1968年に学生の反乱とよばれるものがあった。 日本と同様『政治の季節』で、この時代の人々のメンタリティには社会的なものや人権を重視する傾向が強く、文化シーンにおいてもコミュニケーションセンターという形態に大きく影響したと思われる。実際にE−ヴェルクの設立当初はそういう世代が持つ雰囲気が強くあった。エアランゲンの40代以上の人にとっては『E−ヴェルクはわれわれがつくった』という意識を持つ人も少なくない。 ■自治体との関係 さて『市民参加』という考え方はNPOが一般的になった日本では、理解しやすいが、市もこの施設を強く支えているところは見るべき点だろう。 施設の建物は築100年を越えており、オープン当時からすでに老朽化している。そのためになんらかの補助金を必要とし、開設時から経済的援助に市は合意していた。この合意は裏をかえせば毎年議会の承認等も必要になるので、同施設は政治的な文脈のなかでも扱われるかたちだ。 ただ政治的といっても、そもそもドイツの自治体は文化は政策としても重要な分野である。文化に注力している市議会員や政党の党員もいるほか、行政の仕組みを見ても文化局には専門知識を持った職員がおり、日本のような数年で異動ということはほとんどない。局長になると、政治家でもあり『街の文化大臣』の役割を果たしている。政治的にも行政的にも文化はひとつの取り扱うべきテーマになっていることで、市民の生活の質を高めていくことに寄与することはもちろん、自治体そのものの存在感を文化で高め、造型していく役割を果たしている。 加えて行政にとってE−ヴェルクは利用者により近い人材が、採算性を意識しながら運営してくれる『文化施設』であって、街全体の文化を充実させてくれる施設としてなくてはならない、といったところであろう。もっともドイツにおいてはスポーツや文化における地元の非営利法人の数は充実しており、これらの法人が自治体の娯楽・文化を支えているというのが地方都市の構造的特徴だ。そのため必要な非営利法人には行政が補助金を出すケースは珍しくはない。 他方、ドイツの地方都市と文化といえば、地元の企業が地元の文化に対してメセナなど、いくつかのかたちで支持するケースが多く見られるが、E−ヴェルクに関しては企業の姿は意外と少ない。それでも地元のビール会社が自社の名前を冠したサッカーゲームのリーグ戦を同文化施設で開催したりしている。 エアランゲンのSPD(ドイツ社会党)のヴォルフガング・フォーゲル氏は同施設の存在を『まさに(文化の)宝石のようだ』と述べている。(了) 【編集後記】 大阪の文化施策、なぜもろいのか ◆大阪・通天閣のすぐそばにフェスティバルゲートという都市型立体遊園地があります。97年に大阪市と3つの信託銀行による信託事業としてスタート。ところがテナントの退店が相次ぐという始末。 ◆大阪市は同施設を文化芸術拠点にしようと、アート系の3つのNPOを誘致。これは2001年の大阪市文化芸術プランに沿うかたちのものでもありました。賃料や光熱費は大阪市が支えるかたちの公設民営方式で、2002年から10年の計画で地元と連携した芸術活動展開してきました。この方式は評価も高く、モデルとした自治体もあったようです。 ◆ところが肝心のフェスティバルゲートが破産。入居していたNPOは退去を求められ、現在、立ち往生の状態のようです。10年計画のはずが5年で立ち消えになった。まるで詐欺のような話ですがドイツの自治体の様子からみると、都市運営の中でどう文化を扱うかというところでの脆(もろ)さが、行き当たりばったりの動きにつながったように見えます。 ◆政治とは国なり自治体を運営していくための戦略といえると思います。ドイツの場合、文化は明らかに自治体運営のための戦略の中に組み込まれています。もちろん、かけひきという意味での『政治』もありますが、遠目でみると、自治体は戦略という名の椅子に『文化』を乗せている。あるいは戦略とはいわないでも、文化は自治体運営のためのOS(オペレーションシステム)に組み込まれて当然のものというような位置づけにあります。文化とはパンの表面に細工をする『飾り』ではなくイースト菌ということですね。 ◆政治が戦略ならば、行政は戦術でしょう。日本の自治体における文化は戦術部門が奮闘しているかたちです。日本に在住中は文化関係の行政マンの方を横から見ていたことがありますが、せっかくよいアイデアがあっても残念ながら政治的(戦略的)には動かない。優れたアクションプランも自治体全体からみれば戦術部門での話しになってしまいます。これでは行き当たりばったりになってしまうのもしかたがないのかもしれません。しかも数年ごとの人事異動があります。 ◆楽観的でしかも、乱暴な言い方になりますが、アクションプランなどの施策が仮に少々まずくとも、都市の運営戦略の中に文化がきちんとあると、それほど悪影響も出ないのではないかという気がしますし、そもそも戦略がしっかりしていると戦術でぶれるということも少ないと思えます。 ◆日本の大きな流れは地方分権です。地方分権のひとつのポイントは地方が自らのプレゼンス(存在感)を明確にしていく必要があるということです。もちろんその裏づけになる財源をどうするかという課題もありますが、自治体をどう造型していくかというときに文化を政治的な文脈に持ってくる必要はおおいにあるかと思います。幸い街づくりや市民参加という考え方は広がってきています。こういうダイナミズムは自治体の質を高める動きであり、地方分権のためのひとつの条件はそろいつつあるといえるかもしれません。 ◆日本には文化政策に関する知見を蓄積しているシンクタンクやNPOも確実にあります。地方の政治家の皆さん、これらの機関を政策立案のブレーンにしてみてはといわずとも、話をきいて、自治体の戦略家として手腕を発揮されてみてはいかがでしょう。(高松 平藏) |
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