■■インターローカル ニュース
■■ Interlocal News  2005-06-30 (vol. 119)

 

─ 産業クラスターは地域から 前号次号

 

□□ 目次 □□
【インタビュー】 産業クラスターは地域から/ヨアッヒム・モェラー教授にきく

【取材メモ】 ボトムアップ構造
【編集後記】 地域の経済報道とクラスター

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【インタビュー】

産業クラスターは地域から

レーゲンスブルグ大学 国民経済学研究所教授
ヨアッヒム・モェラー博士

Webをつかった企業データベース「CORIS」にはバイエルン州東部の約1300社の情報がはいっている。業態や従業員数、技術、属するクラスターなどから検索できるシステムで、あらたなマッチングを創出するのが目的だ。同データベースプロジェクトのヨアッヒム・モェラー教授に話をきいた。
なおCORISはCluster-Orientiertes Regionale Informations-System fur den Raum Ostbayern(東バイエルン空間のためのクラスター・ベース地域情報システム)を略したもの。

(インタビュー・構成 高松平藏)

【ことば】クラスター

もともとは「ブドウの房」の意。特定の地域で企業や研究機関などをぶどうの房のごとくつなげて特定の産業に強いネットワークをつくる。米国の経営学者マイケル・E・ポーターが提示した。

浮かび上がる地域のポテンシャル


■最近の経済政策では研究成果を市場へという流れをつくるために、クラスター」という手法が着目されています。
『バイエルン州東部では9つのクラスターが見出せます。このプロジェクトがはじまったのは2001年。その前に地元の経営者・管理職と大学がはなしあう機会があったが、産学協同の取り組みが必要ということになった。それをうけて地域マーケティングを専門にしている私にお鉢がまわってきたわけです』。
『プロジェクト資金はこの話し合いに参加した企業から拠出されました。最初の話し合いに参加していた企業に話をきくと、5つ程度のクラスターがあるのではないかということだった。その後、商工会議所の協力のもと100社にインタビューをした。そこでわかったのが9つのクラスターがあるということです』。

■最初の数と随分ちがいますね

『それぞれの企業が公表している情報以上に、企業同士がつながりを持っていたからです。昨今のグローバル化で企業も地域性に関係なく、取引を行っているような印象があるものですが、実は地元での調達が多いわけです』。

■その関係性を洗うとクラスターとして浮かび上がってきたのですね。
『先ほどの話とやや矛盾しますが、企業自体は自社に関係しない隣の会社についてよく知らないんですよ。さらに地域の全体像が見えていない』。
『一方、調査の結果、同地方でIT関連のポテンシャルが高いことも判明。これは地元の商工会議所も気付いていないことでした。これをうけて、アメリカの大手IT企業がレーゲンスブルグにビジネス・インキュベーターをつくることになりました』。
『他方、労働市場と失業者とのマッチングにつかえないかと連邦雇用局が興味を示しています』。

クラスターの相関関係が面白い

CORISホームページより 
※図をクリックすると日本語訳をつけた拡大版がごらんになれます。
■CORISのサイトをみると、各クラスターがからみあっている図(左)がある。非常に興味深いです。
『クラスターとひとことでいってもいろいろあるわけです。原材料に関係するようなクラスターになってくると地方との結びつきが(より強く)あるものです。いずれにせよこの調査で複数のクラスターの重なりが発見できたし、そこがまた面白いところです』。

■具体的な事例はありますか?
『フィードバックが少ないので、すべてを把握していないのですが、医療機器の会社と自動車産業が結びついた例があります。手術用のテーブルには台部分を上下に動かす機能がついているのですが、この技術をVIPなどが乗る特殊な自動車の防弾ガラス窓を上下させるにことにつかった』。

■これからの課題は?
『第2のステップはクラスター・マネジメントですね。システムから得られる情報を効率的に使えるようにしていくということですが、予算的に厳しい。というのも、システムの利用する企業はけっこうあるのですが、システムの値打ちはそれほど評価されていない。また資金を拠出していた企業も人事異動があり、プロジェクト開始時からの理解者が減っている。そのため支援がすくなくなってきている』。

■他に同様のクラスターに関するデータベースの取り組みはないのですか?
『オーストリアのある地方によく似たようなプロジェクトがある。政府の援助があるようで、プロジェクトに80人程度が働いていている。第2ステップまで進んでいます』。
『(CORISよりうまくいっている)理由はいろいろあるが、まずはオーストリアのほうは参加している人々が調査のメリットをよく理解している。それからデータ保護の規制が少し軽いということが反映しているのだと思います』。

■バイエルン州はクラスター政策を随分進めています。
『2年半ほど前、州にシステムに紹介したことがありましたが、そのときは興味を示さなかった。ところが、最近、州のクラスター・イニシアティブがでてきて、問い合わせがあります』。
『しかし、クラスターを上から決めていくやりかたはよくない。あくまでも下から出てくるものです。地方で大きくならなければならないものです』。(了)






【取材メモ】
ボトムアップ構造
 日本でも2001年度から経済産業局が地域のクラスター政策をすすめている。しかしドイツの地域取材を続けている立場からみると、『官製』の色合いが強い上に、クラスターの範囲が広すぎるように思えてならない。

 ドイツの様子をみていると、まず地域のポテンシャルや特性を調査により把握し、それをクラスターとして推進していくというやり方が主たる方法論であるようだ。ところが各自治体は自治体で独自の調査などをすすめてクラスターを構築しており、場合によっては近隣する都市と共同でクラスターを生成していく。そして、バイエルン州の政策の枠組みにもっていって、州が認知し支援していくというやり方だ。州はあくまでもクラスター支援やモデレーターのような役割に徹しており、ボトムアップ型。

 一方モェラー教授も指摘してバイエルン州はクラスター政策を強く推進していきたい意向が見られる。しかし州内の各自治体の動きをみていると、州政府が上から無理にクラスターを構築していく方法を強めるのは難しいだろう。

 また、独自の経済政策を展開する州内の自治体の規模をみると、たいして大きくはない。バイエルン州では10万人以上を「大規模都市」と位置づけており、州最大の都市ミュンヘンで120万人ほどだ。人口10万人のエアランゲンはメディカル・シティとして医療関係の分野に力をいれているが、小さい街であるがゆえに、産官学の距離が短く、結果的に効率のよいクラスターになっている。




【編集後記】 
地域の経済報道とクラスター


◆1年ぐらい前のことですが、当メールマガジンを熱心に読んでくださっている T さんから連絡をうけました。それは『クラスターに関するシンポジウムをききにいくのですが、質問があれば、かわりにしてきますよ』。というありがたい申し出。

当時、クラスター政策に関してそれほど調べたことはなかったのですが、ただ漠然と日本とドイツの様子はちがうなあと感じており、『クラスターってもっと地域性が大切ではないか』というようなことを質問してもらえますかと T さんにお願いしました。

その後、最近、バイエルン州のクラスターについて調べる機会がありました。モェラー教授へのインタビューもその一環で行ったもの。その結果、漠然と感じていたことが明確になったわけです。地方分権型の国にしていこうとしている日本ですが、クラスター政策もボトムアップ型のための手法として捉えるべきかなと思います。ちなみに日本のクラスター関連のホームページをのぞいていみると『地域経済再生の切り札』という悲鳴にもにた文言も目に付きます。

モェラー教授の言葉に『隣の会社が何をしているところか知らない』といったようなくだりがありますが、京都経済新聞社の社長兼編集長の築地達郎氏も同様のことをよく話していました。地元の企業が何を考えて、どんなことをしているかということを報道する地域経済紙の役割はボトムアップ型のクラスターを生成する基礎データ作りのような機能があるように思えてなりません。

地域社会には意外と気がつかないポテンシャルや特性があるのでしょう。それを発見してのばしていくための装置、たとえば報道機関や調査機関が地域には求められるのではないでしょうか。(高松 平藏)


モェラー教授
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発      行 : インターローカルジャーナル
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発  行  人 : 高松平藏 
発  行  日 : 不定期

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