■■インターローカル ニュース
■■ Interlocal News  2005-03-16 (vol. 114)

 

─地域内ネットワークとパッケージ化 前号次号

 

□□ 目次 □□
【ニュース】 街の劇場、本領発揮

【ニュース】 地域経済、地元の結束と国際化
【映像リポート】見えないあなたと美術館へ(ジャーナリスト/河原由香里)
【編集後記】 地域内ネットワークとパッケージ化

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【ニュース】

街の劇場、本領発揮



劇場の役割を存分に引き出した「デモクラシー」(Stadttheater Fuerth/Euro Studio 写真=Thomas Langer)

 ドイツが東西に分かれていたころの話しだ。1974 年にヴィリー・ブラント首相が辞任した。個人秘書のギュンター・ギョームが東ドイツのスパイであった事が発覚。これをうけてのことだった。ところが、ブラントのスキャンダルや政権を支える周辺の人物たちの思惑も交錯したことが引責辞任の裏にある。

 フュルト市(人口 10 万人)の市営劇場で今年 1 月に上演された演劇作品『デモクラシー』はイギリス人の作家によって書かれたもので、ブラント政権の裏を描いた作品。政治の中のパワーゲーム、陰謀、信頼、成功と失敗といったようなことが浮かび上がってくる。

 舞台のセットはというと単純なもので、しかも男性ばかり 10 人が話をすすめるが、<演技とダイアローグの質のおかげでつまらなくない。流れが早く、歴史を手っ取り早く見せる>(地元紙)。同月 9 日には劇場で約 1 時間半にわたりシンポジウムがおこなわれ、老若男女、約 100 人が参加した。

 ユニークなのはパネラーに 2 人の職業専門学校の学生も参加したことだ。これは、同作品の上演が決まったときにドイツ語教師イルセ・アーントさんが興味をもち、劇場に連絡をとって授業でとりあげることになったことがきっかけ。ちなみに同氏は校内で学生の演劇にも取り組んでいる。

 12 年生( 18 歳)の学生たちは作品に出てくる人物や俳優、歴史を調べ、同作品の有料パンフレットにも執筆した。同時に調べた結果を劇場に展示するということも行った。また作品のみならず劇場が持つ機能や歴史についても学んだ。同劇場のドラマツルギーを担当するフェリックス・エッカーレさんも教壇に 2 度立った。

 また、同氏や同地方で活躍する女優のユッタ・クツルダさんを取材。記事は地元紙の『学生のページ』に掲載された。クツルダさんは戦時中のユダヤ人女性を主人公にしたミュージカル『今宵、ローラ・ブラウ』(同氏が 1 人で出演)などでよく知られている。この作品はファンの要望で CD 化されたり、国外からも関心を集めた。

 ドイツの街で劇場はリビング・スタンダードという位置づけにあり、地元の劇場ファンに支えられている。あるいは社交の場としても機能している。ところが近年、若者にとっては遠い存在。そんな中、ひとつの作品が劇場や学校、メディアを有機的につなげたかたちだ。(了)
(ドイツ在住ジャーナリスト/高松 平藏)

(2005年1月17日付 『週刊京都経済』掲載分)

 








【ニュース】
地域経済、地元の結束と国際化


 バイエルン州北部の『中央フランケン地方』は『オートメーション・バレー・北バイエルン』として地元企業のネットワーク化をすすめている。

 3 年前に商工会議所が行った調査で明らかになったのは、オートメーション関連の企業が同地方にドイツ全国の 10 %が集中していることだった。これをうけて昨年 11 月にキックオフのイベントが行われている。ちなみに中央フランケンとはニュルンベルグ、エアランゲン、フュルトが中心になった地域で、人口を合計すると約 170 万人になる。

 ニュルンベルグ商工会議所のクント・ハームセンさん(イノベーション担当=写真上)によると、商工会議所はセミナーや情報交換、大学との協力体制などイノベーションのための環境整備を行う。『企業同士のパートナーシップを強め、オートメーションに強い地方というイメージをより高める。同時にネットワークをつくることで同地方(で企業を経営すること)のメリットが具体的に出てくる』(同氏)。

 ローカルネットワークの強みを活かして国際化を図る企業もすでに出ている。

 商工会議所が行っている革新的企業を紹介するセミナーで、このほど自社の国際化戦略を紹介した Infoteam Software 有限会社は社員数57人、創業は 1983 年。この分野の会社としてはかなり古い。産業オートメーションのためのソフトウェアやコントロール・システム関連、医療装置など幅広く扱っている。同社のヴォルフガング・ベンデル博士(常務取締役
=写真下)によると自社の商品を顧客の要望に応じたものにカスタマイズするところがもっとも得意とするところ。サービスが収益のもとというわけだ。

 同社は欧州はじめ中国や台湾にも顧客やパートナー企業があるが、業績が悪化したときに国外進出を図った。方法はメッセへの出展や無料セミナーの開催といったもので北京、上海、深センなどで行ってきた。画期的な製品を売るというよりも、自社のノウハウを表へ出すことで顧客を得たかたちだ。

 さらに協力するメリットがあればどんどん組んでいくという姿勢が強みになっている。しかもアジア諸国のパートナーとは一定水準の仕事を行うが、より付加価値の高い研究開発は地元の企業と行うというふうにわけている。ローカルネットワークこそが自社の競争力につながるというわけだ。

 今年はオートメーション・バレー 1 年目。商工会議所はまずは企業同士のパートナー探し、知識と経済の橋渡し、そして立地マーケティングなどに力点をおく。(了)
(ドイツ在住ジャーナリスト/高松 平藏)
(2005年1月31日付 『週刊京都経済』掲載分)




【映像リポート】見えないあなたと美術館へ
        −会話による美術鑑賞の取り組み−

  ジャーナリスト/河原由香里

★OurPlanetTV Planet−eyes 第12回(無料)
『見えないあなたと美術館へ
  −会話による美術鑑賞の取り組み−』
http://www.ourplanet-tv.org/

視覚障害を持った人と美術館へ。
芸術の新しい役割などが見えてくるレポートです。

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【編集後記】 
地域内ネットワークとパッケージ化


◆地域社会といえば、どこでもそれなりの人的ネットワークがあるものです。ドイツの地域社会をみていて面白いと思うのは、劇場での初演作品が上演されるときなどで地元の政治家も顔を見せること。こう書くと日本の『やあやあ』と手をふりながら顔を売り込む政治家の姿を思い浮かべるかもしれませんが、劇場では立場を超えて同じ作品を味わうといったほうがぴったりきます。そして、終演後はワインなどの飲み物を片手に話がはずむといった感じでしょうか。こうやって劇場が地域の人々の関係性を強くしていくのでしょう。そして今回は教育関係者や地元のメディアも巻き込みました。劇場の求心力がよくでました。

◆地域内にある企業の傾向を分析して『オートメーション』というパッケージ化をしたのが中央フランケン地方。無理のないクラスター戦略に見えます。さらにパッケージ化することで、ネットワークの方向性もある程度定まり、最終的には地域の強さにつながるということだと思いますが、今後の動きに注目したいと思います。

◆地域社会とは人が生きるプラットフォームです。それゆえに働く場所、学ぶ場所、文化の場所、といったところがあってしかるべきといえます。そして重層的な社交があることで地域社会(=生きるプラットフォーム)の質を高めていくような気がします。

◆日本で経済と文化の関係性を考える議論が出始めて久しいですが、たとえば地域内の文化ホールが政治や経済、教育など様々な人が立場を超えた社交の場になりうるか。これが地域文化の度合いをはかるひとつの目安になるのではないでしょうか。

◆河原由香里さんのリポートは視覚障害の人と健常者が美術館へ行くという取り組み。どちらにとってもいろんな発見があるという点がユニークです。これも美術館の新しい役割が見えてきます。地域の美術館なども取り組めそうな気がします。(高松 平藏)



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発      行 : インターローカルジャーナル
http://www.interlocal.org/  
発  行  人 : 高松平藏 
発  行  日 : 不定期

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