■■インターローカル ニュース
■■ Interlocal News  2005-02-11 (vol. 112)

 

─お笑いと酒からみえるドイツ社会 前号次号

 

□□ 目次 □□
【コラム】 お笑いとドイツ社会

【ニュース】 10 万人都市の“地酒力”
【編集後記】 舶来酒とぼやき

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【コラム】

お笑いとドイツ社会



 『あなたたちが私を選んだ。我慢してよ。私は数年、あなたたちの首相・・・私は税金を値上げします。選んだものは仕方がない、もうクビにはできない。デモクラシーのいいところ』。

 2002 年ドイツ国内でヒットした辛辣(しんらつ)なお笑いソング『税金の歌』
(=写真)の一節で、シュレーダー首相の声帯模写で歌われた。当時ヒットしていた『ケチ ャップソング』の替え歌で、歌っているのは『ゲルド・ショー』。『ゲルド』は首相の名前“ゲルハルド”の短縮形だ。日本でいえば『純ちゃんショー』といったとこ ろか。

 この年、ゲルド・ショーはテレビで首相のマスクをかぶって登場し話題になったほか、野党のある青年部ではこの歌をホームページで賞賛するといった具合だった。その後も『ヘボどもの歌』など次々と首相や政策を皮肉った歌をリリース。ラジオでも相変わらず首相の声色でコントを聞かせている。

 こうした批判精神のあるお笑いは突然出てきたものではない。以前から歌や関西でいうところの『しゃべくり』で、社会的な問題や政治を皮肉るカバレット というお笑い芸がある。カバリストたちは環境問題や失業問題などもどんどんお笑いの材料にしていく。日本ではあまりお目にかかることのないセンスだ。

 このカバレット、地方ごとにご当地のカバリストがいて、熱心なファンがいるのも特徴だ。たとえばドイツ南部のエアランゲンは人口 10 万人の小さな街だ が、非営利法人として運営されるカバレット専門の寄席があり、ご当地カバリストは地元のビール会社の広告などにも登場する。

 カバレットそのものは 1970 年代に興隆を極め、旧東西ドイツの統一のころ再びブームになった。90年代半ば以降、テレビで放送される軽いお笑いが増 え、商業化が進む。地方の寄席の集客数を圧迫したが、それでもなお健在だ。そしてゲルド・ショーなどのメジャーなものにもカバレットのような批判精神が脈々と流れているように見える。

 日本に比べると、ドイツのほうが政治や社会問題がより身近だ。極端ないいかたをすれば、自分たちの生活の中に並列にならんでいるような感覚がある のだが、お笑いがその一端を担っているのかもしれない。歴史をふりかえると、道化の皮肉に王様があえて耳を傾けたということがあった。自らの政治を相対化するための仕掛けだった。(了)
(ドイツ在住ジャーナリスト/高松 平藏)

2004年11月15日付 『週刊京都経済』掲載分








【ニュース】
10 万人都市の“地酒力”


『 250 年記念の本ができました』と流暢に司会をするのはカバリスト、クラウス-カール・クラウスさん。カバリストとは政治や社会を歌や話芸で辛辣なお笑 いにする『カバレット』の芸人さんだ。2005 年、ドイツ地方都市・エアランゲン(人口 10 万人)のビール祭りが 250 回目を数えるが、それに併せて写真集が 2004 年末に出版された。地ビール会社キッツマンでその発表会が行われ、クラウスさんの軽妙な進行ぶりに会場が笑いにつつまれる一幕もあった。

 184 ページの本の中身は歴史、『ビール祭り以外の日』、ビールの地下貯蔵庫、建築、グルメ、ビールの味、音楽、と複眼的な構成が特徴。クラウスさん も編集者として加わり、ビール祭りの雰囲気を伝える文章を言葉遊びをふんだんにつかって書いている。また市のアーカイブ(文書館)研究員や地ビール研 究の専門家らも協力して、徹底的に調査を重ねて書かれた。

 さて、こうした本の出版は街をあげての記念行事と考えると決して珍しいことではない。また日本でも地酒や地ビールはあり、愛好家や研究者もいる。しかし特産品として地方の『輸出品目』のような位置づけられていることもある。地ビールにいたっては最初から地域経済振興の一環というところも多いから なおその傾向が強い。

 それに対してドイツの地ビールは地域で消費されるのが基本だ。そのせいか求心力も強い。街にはビールをめぐる文化・学術的な蓄積ができ、街の個性 の一端を担う。公的な地域の価値にまで昇華するわけだ。

 同書をみても『地元づくし』だ。編集は市内の出版社。写真も地元のカメラマン。それから発表会が行われたキッツマン社はじめ、ビール関係の会社やパ ン製造販売会社など市内の企業が本の製作を支援している。文化支援、いわゆるメセナだ。出版の発表会には市長をはじめ、地元の経済や文化の関係 者、同地方のビールの専門家、地元の報道関係者らが集まった。そして司会をしたクラウスさんも同市在住の『ご当地カバリスト』だ。

 初版は 5,000 部。そもそも街に関する本はよく出版されており、書店の一角には『ご当地本』のコーナーがある。地元ビールに関する本も今回が初めてではない。ちなみに 2002 年に出版された約 800 ページの『街の辞典』は約半年で初版の 5,000 部が売れた。ドイツは伝統的に地方分権の国だがこうした人々の愛着とまとまりが分権を支えている。(了)
(ドイツ在住ジャーナリスト/高松 平藏)

前列左からミレ・シンドリッチさん(カメラマン)、クラウスさん、ラルフ・ビルケさん(編著者)。後ろに立っているのは市の担当者、ガブリエル・リシエキ博士。(2004年12月9日)
 2004年12月21日付 『週刊京都経済』掲載分





【編集後記】 
舶来酒とぼやき


◆お笑いもお酒もその土地や国が持つ文化がよく見えてくるものの 1 つです。エアランゲンで地ビールを普段飲む生活をしていると、全国をターゲットにマーケティング戦略が盛んに語られる日本のビール業界が少々しらけて見えてくるというのが正直なところです。それにしても、友人の娘さんが昨年、日本に 短期滞在。居酒屋が楽しかったとか。

◆日本におけるビールの歴史もすでに 100 年以上になります。普及のしかたといえば『舶来酒』が東京から地方へという順序で広がったのですが、鉄道網の整備や軍隊がその一端を担ったようです。まさに近代化の過程で普及したといえます。一方、1990年代末からの地ビールブームは『舶来酒』から地酒化する段階にはいったといえるのかもしれません。苦戦しているところは多いようですが、30年後、50年後、どんなふうになっているか。期待したいところです。

◆先週から今週にかけてドイツはファッシング(カーニバル)の時期です。この時期、仮装をしたり、どんちゃん騒ぎをするときです。ファッシングのイベントが 各地でおこなわれますが、そこで道化が出てきて、風刺の含んだ笑いをいうわけです。『昔はロビンフット(政府)は金持ちから金をとった。今は(財政難から)貧乏人からカネをとる』『シュレーダー首相は昨年、ロシア人の 3 歳の女児を養子にした。子供をつくる仕事まで他人まかせだ』などなど。

◆日本ではこの手のお笑いは少ないですが、私が思い出すのが人生幸朗さんのぼやき漫才。その師匠の都家(みやこや)文雄さんはより批 判精神旺盛だったことから戦時中、何度も警察に拘引されたとか。

◆日本で批判精神が発揮されるのは川柳にあるのかもしれません。川柳コンクールなどをみると、日常の中での『ぼやき』が多いですが、中には政策に対 する批判を込めたものもけっこうあるようです。(高松 平藏)


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発  行  人 : 高松平藏 
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