■■インターローカル ニュース
■■ Interlocal News  2004-11-30 (vol. 109)

 

─ドイツの自治体、日本の改革 前号次号

 

□□ 目次 □□
【ニュース】 地域別 『未来へのチャンス』ランキング

【ニュース】 どう払う、教科書代?
【編集後記】 ドイツの自治体、日本の改革

メールマガジン
『インターローカル ニュース』の
無料配信をおこなっています。


お申し込みは
こちら



【ニュース】
地域別『未来へのチャンス』ランキング

 歴史的な経緯もあり、地方分権が根付いているのがドイツだ。連邦制で地方ごとに特徴を持っており、アイデンティティが明確にある。そんなドイツでこのほど地域別の『未来へのチャンス』のランキングが発表された。

 この調査は経済専門紙『ハンデルスブラット』とシンクタンク『プログノス』が共同で行った。ドイツ全国の 439 の市、郡部が対象で、調査項目は『人口統計』『労働市場』『競争とイノベーション』『経済的豊かさと社会福祉の状況』の 4 分野 29 項目。自治体の規模に左右されない相対的な競争力を算出して評価した。ドイツは戦後、分配の公平性や人権に配慮した社会的市場経済という方針をうちだしているが、これを労働市場や社会福祉といった項目で評価しようということが伺える。

 調査の結果は購買力、失業率、人口移動、犯罪率、自治体財務といったものを目安に 7 段階に分けられる。若い世代の人口流入が増えている傾向の強いところほど、魅力があるという捉え方だ。

 また、ランキングには主に 2 つの状態についてポイントをつけた。まずは現在の産業地域としての強さ。もうひとつは変化に対する強さを数値化した。その結果、技術力の高さがランキングが高さにつながる傾向があった。将来性があるのは技術力の高いレベルの街ということになる。

 さて、ランキングのトップはミュンヘン郡部(同市および周辺地域)。市のみのランキングでもミュンヘン市がトップだ。経済構造、低い失業率、競争力の強さがその理由だ。金融の中心地であるフランクフルトは 11 位、日本企業の多いデュッセルドルフは 18 位と健闘している。この欄でたびたびお伝えしているエアランゲン(人口 10 万人)は全体で 7 位。市のみのランキングでは 4 位になる。ちなみに首都ベルリンは 262 位だ。

 ドイツ全体を見ると、イェーナ、ドレスデン、ポツダムでは経済的な発展が見られものの、旧東独にはランキングの低い市・郡部が集中する。一方、バイエルン、バーデン・ヴュルテンベルグ、ヘッセンといった旧西ドイツの州には将来性のあるところが多い。旧東西ドイツの差が明らかに出ている。

 シンクタンク・プログノスのレポートでは 15 年後を見据えた戦略的インフラ整備、市単位ではなく近隣地域のネットワーク化、地域が持つ強みを伸ばすことが肝要としている。(了)
(ドイツ在住ジャーナリスト/高松 平藏)

ランキング 市または郡部 変化に対する強さのランク 現在の強さのランク
1 ミュンヘン郡部 バイエルン 12 1
2 ミュンヘン市 バイエルン 6 2
3 スタムベルグ郡部 バイエルン 28 3
4 ダルムシュタット市 ヘッセン 8 8
5 フライシング郡部 バイエルン 10 6
6 ハイデルベルグ市 バーデン・ヴュルテンベルグ 7 9
7 エアランゲン市 バイエルン 29 5
8 シュトゥットゥガルド市 バーデン・ヴュルテンベルグ 35 4
9 ヴォルフスブルグ市 ニーダザクセン 1 54
10 レーゲンスブルグ市 バイエルン 3 20
上位10位の市と郡部(プログノスのレポートを元に作成)。高い技術力がカギだ。

2004年9月13日付 『週刊京都経済』掲載分






【ニュース】
どう払う、教科書代?


 ドイツ南部のバイエルン州で教育費をめぐる問題が浮上している。州によって教育制度が異なるドイツだが、同州では教科書は州が負担していた。しかし財政難を背景にこの負担を放棄し、全額保護者負担にすることを検討。これによって 700 万ユーロ(約 9 億 5,000 万円)の州負担が減るという数字をはじきだした。

 しかし、この案に対して反対が続出。最終的には州与党 CSU (キリスト教社会同盟)は保護者の負担額に弾力性をつけた。2005 年から各家庭の経済状況に応じて20−40 ユーロ(約 2,400−2,700 円)を保護者が負担することになる。

 さてドイツでは戦後、公正な富の分配を図るために『社会的市場経済』という立場をとってきた。これが手厚い社会保障につながる。現在、日本と同様に社会保障を中心にした改革が行われているが、その本質は分配の仕組みの見直しだ。

 今回の教科書問題は、誰が負担するのかという見方をすると確かに州政府の悲鳴が聞こえてくるが、分配という考えかたから見れば保護者が各自の経済状況に応じて教科書代を支払うということはいかにもドイツらしい。一応の決着をみたといえる。

 ところが、次に州内の自治体で混乱がおこっている。というのも州政府の決定に沿うと、保護者の経済状況のチェックと費用の回収および管理業務が必要になってくる。その業務を各自治体が行うのか、それとも各学校で行うのかという具体的な筋道はついていないからだ。

 たとえば同州に位置するエアランゲン市内のギムナジウム(高等教育学校)の校長は 10 月 8 日付の地元紙で、学校ではこうした業務はできないという旨を展開している。まず保護者の経済状況のチェックが難しい上に費用の回収まで行うとすれば管理コストは膨大にふくれあがるからだ。

 それに対してある CSU の議員はエアランゲン市がすべての業務を行うということを匂わせた発言をしている。しかし、実際の負担がどれぐらい生じるかという現実的な認識に乏しく、ギムナジウムの校長は懐疑的だ。

 教育は個人の生き方を左右するだけではなく、国や地域を支える『人づくり』という側面もある。ドイツの場合、伝統的に地域主義が根強く、州の教育方針が州のあり方に影響があると考えられる。ちなみに以前から保護者が教科書費用を負担している州もある。(了)
(ドイツ在住ジャーナリスト/高松 平藏)

22004年10月18日付
 『週刊京都経済』掲載分





【編集後記】 
ドイツの自治体、日本の改革


◆最近日本では『三位一体の改革』、すなわち『国の補助金の改革』、『国から地方への税源の移譲』、『地方交付税の見直し』ということが進められています。地方が自分たちのニーズにあったカネの使い方ができる、ということに期待されるわけですが、実際はどうも改革というにはいまひとつのようですね。

◆元気な知事が数年前からたくさん出てきました。三位一体の改革で地方の結束が固まったということは起こっているようですが、それに対して、霞ヶ関のほうは中央集権という明治以来のやり方から抜けられないというのが実情のようです。

◆さて規模より質。そんなことばが見えてくるのが『地域』のランキング。自治体が『主権』をにぎるには財政的裏づけは必要ですが、戦略的に自治体を運営していけるかということのほうが重要に思えてきます。『戦略的に』といった場合、経済のみならず、政治や文化、教育、福祉といった分野も一緒に編み上げていくという発想が必要でしょう。その基本には市民が自分の街でどんな生活(働くこと、学ぶこと、楽しむこと、自己実現)ができるかという視点が大切だと思います。

◆地域を支える人づくりという側面からいえば、地域がどんな教育指針を作るかということも戦略的な課題になってくるでしょう。教科書代をどうするかという問題も地方分権だからこそ出てくる出来事です。ちなみに『三位一体の改革』の中で国が義務教育財源の委譲も打ち出しています。将来日本でも同様の問題が発生する可能性もあります。

◆日曜日からクリスマスシーズンにはいりました。正確には『待降節』といいます。これはクリスマス前4週間の準備期間で、11 月 27 日以降の日曜日から始まるものです。これに伴い、エアランゲンの宮殿広場ではクリスマス市場がはじまりました。
(=写真)日本でいえば正月の縁日のようなものでしょうか。この日曜日は夕方家族で広場をのぞきにいき、子供たちと大きな綿菓子を食べてきました。(高松 平藏)



■■インターローカルニュース■■

発      行 : インターローカルジャーナル
http://www.interlocal.org/  
発  行  人 : 高松平藏 
発  行  日 : 不定期

    Copyright(C)  Interlocal Journal

 

引用、転載の場合「高松 平藏」が執筆したこと、または「インターローカル ニュース」からのものとわかるようにしてください

|インターローカルニュースtop | 記事一覧 |