■■インターローカル ニュース |
||||||
|
─地域の文化情報 | ≪前号|次号≫ | ||||
|
□□ 目次 □□ |
|
||||
|
||||||
【ニュース】 文化の地産地消を支援 地域の文化情報専門のNPO誕生 npo recip(レシップ/地域文化に関する情報とプロジェクト) 今年 5 月に大阪で設立された文化情報を専門に扱う NPO が 9 月 29 日付で認証をうけた。 この NPO の名称は recip (レシップ)。regional culture information and projects を略したもので、地域の文化活動に関する情報の収集・流通を担う。また、地域風土を意識した文化事業や地域の文化活動を俯瞰的に捉え、研究・批評を促進していく活動も予定しており、現在、すでに複数のプロジェクトが進行している。 たとえば、名村造船所跡地(大阪)でこのほど行われたアートイベント 『NAMURA ART MEETING '04-'34 vol.00「臨界の芸術論」』に参加。『ドキュメンテーション プロデュース』というかたちで名前を連ねた。同イベントは 36 時間にわたるもので DJ やパフォーマンス、クラブパーティー、映画上映、シンポジウムなどが行われた。イベントの一部始終を記録することもプログラムの一部なのだが、同 NPO が担当。制作側のインタビューや参加者のアンケートなどを通して、複数の視点から記録した。 同 NPO 設立は大阪市が発行していた無料文化情報誌 『C/P(Culture Pocket)』(発行部数 10 万部)が今年 3 月に休刊状態に陥ったことが発端だ。99 年に創刊された同誌は文楽などの伝統文化からインディペンデント(独立)系のものまで幅広く網羅。その内容は文化イベントなどを企画・運営する『当事者』たちのコラムが中心に編集され、『官製らしくない』と好評だった。いうなれば大阪を中心にした『文化の生産者』がどんな思いや考えをもとに活動しているのか、という声が聞こえてくるような誌面づくりで、文化の地産地消ともいえる動きに一役買っていた。 編集を担当していた餘吾康雄さん、甲斐賢治さんらは 4 月以降、地域文化情報を充実させていく活動を継続するために、新たな方法を模索。同誌を通じて培われた文化関係者や文化施設とのネットワークを活かして NPO の設立に至った。8 月の時点で賛同者は 50 人。ギャラリーや劇場・ホールなど文化施設約 150 とのネットワークを構築している。今後は地域文化の情報の充実化を目指し、行政や企業、教育機関などセクターを超えたネットワークを作っていく予定だ。 なお、同時に準会員(フェロー)の募集も行っている。フェロー入会に関する問い合わせは、info@recip.jp まで。(了) 【解説】 文化情報と地方分権 文化情報専門の NPO、recip(レシップ)の役員は以下のとおりです。
ごらんのように私も名前を連ねていることから、以下、この NPO に関わる者として書きます。 ドイツで地域取材をしている私からみると、こちらの街のほうが結晶性の高さとでもいいますか、街全体がひとつの世界として完結していることを感じます。なぜならば、地域社会にすべてがつまっているからです。小さな自治体でも劇場やミュージアムがリビングスタンダードとして必ずといっていいほど整備され、しかもきちんと中身を作っていく仕組みもあります。 つまり、働くこと、学ぶこと、楽しむこと、家族と過ごすこと、といったすべてのヒトの営みが、同一地域で完結できてしまう。これが街の独自性を生み、人々が自分の住む街に誇りがもてる。第一、生活空間としても充実した空間につながりやすいように思います。 街の結晶性の高さを支えているのが地域報道でしょう。都市国家として街が成立してきたのがドイツ。街をひとつの世界として捉える感覚には歴史的な積み重ねがあり、その中でインフラのひとつとして地域報道があります。 ドイツでよく読まれているのが郷土紙クラスの新聞です。朝からコーヒー片手に読む新聞には一般の記事にまじって劇場やミュージアムの運営や責任者の記事、公演や展覧会の批評記事も頻繁に載ります。文化の動きも街の中でおこっているもののひとつとして並列に扱われており、一般の人のあいだに情報として流通しているわけです。 ところで文化や芸術に関して言うと、日本でも自治体の大小にかかわらずアーティストやオーガナイザーのネットワークはかなり緻密なものがあります。しかしながら、こうしたネットワークの中で動いているものが一般の情報として流通することはドイツとの比較でいえば少ない。 昨今、財源の問題から地方分権の議論が盛んですが、地方分権には人々の生活空間である地域社会の結晶性を高めることは不可欠です。自分の住んでいる地域で文化の動きがあるという情報が流通することによって、地域で人々が文化を楽しむ、参加するといったことが盛んなるでしょう。また記録が残ることで、地域の独自性のようなものが確立していくことにもつながると思われます。当 NPO はこうした地域内の文化情報流通の充実化につながるものと確信しています。(了) 【コラム】 街には記者がいる 『最近、どんな仕事してるの』 ジョッキーを片手に話がはずむ。今年の 6 月、ドイツの地方都市エアランゲン市で毎年行われるビール祭りのあるテーブルでの光景だ。集まっているのは同市および周辺都市に住み、そして地元で活動しているジャーナリストやカメラマンだ。 ドイツの人々は自分の住む街や地域の新聞を読むのが主流だ。エアランゲンでも『エアランガー・ナッハリヒテン紙』という街の名前がついた日刊紙が毎朝宅配されている。同市は人口 10 万人。京都市でいえば中京区や南区程度の人口規模だ。 同紙の発行部数は 3 万部。世界やドイツ全国のニュースももちろん載るが半分は市内および周辺都市、州のニュースだ。地元の幼稚園の話題から政治、文化、経済と幅広い。また同紙以外にもエアランゲン市周辺都市を対象にした日刊紙も発行されている。読者は自分が住み、働いている街の動きを把握できる。そして紙面は議論の場になる。 ビール祭りでの交流会呼びかけ人の 1 人、ミヒャエル・ブッシュさんによると、市内で把握しているだけでも25人の記者や編集者がいるという。10 万人の街の出来事をこれだけの人数の専門家が取材して記事化していく。これに呼応するかのように日々、街のどこかで記者会見が行われている。すこし話題性の高い記者会見ともなると周辺都市からも記者がかけつけるので、会場はけっこうな人数になる。 文化関係の報道では専門記者がいるのも特徴だ。街の劇場で上演された演目などは数日後に批評記事を執筆する。文化系のフェスティバルでは期間中の出来事を日々報じる。また劇場の運営面や文化行政の責任者らのインタビューなどもこなす。地方の文化記事といってもその質は高い。 ドイツで新聞の概念が登場するのは 1300 年ごろ。定期的に印刷・発行されるのは17 世紀からだ。エアランゲンでは 1757 年に最初の新聞が創刊されている。その後、政党色の強いものや地方の言葉を用いた詩や地方の文化を扱う新聞も登場する。 ところで数年前から IT の発達にともない市民も記者になれるという市民ジャーナリズムが盛んに論じられるようになった。しかし、ドイツの様子からいえば、職業記者が自分の住む街を対象に仕事をするということからもう少し論じられてもいい。市民でもある記者が地方の独立性を保つ情報インフラをつくってきたからだ。(了) (ドイツ在住ジャーナリスト/高松 平藏) 2004年10月11日付 『週刊京都経済』掲載分 |
||||||
■■インターローカルニュース■■ 発 行 : インターローカルジャーナル http://www.interlocal.org/ 発 行 人 : 高松平藏 発 行 日 : 不定期 Copyright(C) Interlocal Journal |
||||||
|
★引用、転載の場合「高松 平藏」が執筆したこと、または「インターローカル ニュース」からのものとわかるようにしてください | |||||
|インターローカルニュースtop | 記事一覧 | |