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─地産地消と新産業創造 | ≪前号|次号≫ | ||||||
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【シリーズ】“メディカル・シティ”、エアランゲン(1) インキュベーター同士の協力 ドイツ・エアランゲン市(バイエルン州)は 10 万人の 小都市だが、数年前から医療関連の産業育成を行っている。 この夏のメディカル・シティの動きをレポートする。
7 月 9 日、ビジネス・インキュベーター、IGZ(Das Innovations- und Gruenderzentrum Nuernberg-Fuerth-Erlangen / イノベーション-起業センター)で2 年ごとに行われるハイテク・ビール祭りが行われた。 今年で 8 回目を数え、毎年2000 人以上が訪れる。誰でも参加できるため、子供向けのコーナーも用意してある。施設内の企業を自由に見学でき、仮設テントではメッセさながらに企業のスタンドが立つ。 同インキュベーターは州のモデルケースとして 1986 年からスタート。入居条件の厳しさと、責任者のゲルド・アリンガー博士によるきめ細かいコンサルティングが奏功している。『同氏とは頻繁に顔をあわせる』(入居企業)。生まれたての企業にとっては“お父さん”のような存在だ。特にソフトウエア関連に強く、これまで 89 の新しい会社が 1,000 人の雇用を生んだ。 さて、今年のハイテクビール祭りの目玉は “SoftMed” と銘打った仮設テント。医療関係のソフトウエアを開発している企業のブース 14 社が並んだ。 昨年から新興インキュベーター、IZMP(das Innovationszentrum fuer Medizintechnik und Pharma in Erlangen/医療技術と医薬のためのイノベーションセンター)らと同名の共同プロジェクトとして進めており、医療関係者らをまきこんだラウンドテーブルなどを作ってきた。 秋には医療関連ソフトに絞ったコーチング・デーも設ける。背景には医療分野でソフトウエアの役割が大きくなってきたこととがある。そこへバイエルン州がハイテク産業政策に注力していることも加わる。 他方、新興の IZMP にとって、“ベテラン”インキュベーターのIGZ は強い助っ人だ。IZMP の責任者、マティアス・ヒーグルさんは『お互い独立したインキュベーターだが、入居企業にとってIGZとのプロジェクトは興味深い。しかも将来的に意義がある』という。インキュベーターの経験や得意分野を併せることによって、起業環境を高めている姿がある。(了) (ドイツ在住ジャーナリスト/高松 平藏) (『週刊京都経済』 2004年8月9日付に掲載) 【シリーズ】“メディカル・シティ”、エアランゲン(最終回) 集積と連携の中心地
バイエルン州は 2000 年からハイテク主導の政策に注力している。州人口はドイツ全国の 7 分 1 だが、ハイテク関連の就業人口は全独の 4 分 1 をしめる。そんな中にエアランゲン市は位置している。同市はグローバル企業、シーメンス社の一拠点であり、大学のある街だ。ハイテク関連のベンチャー育成という方向性に違和感はない。 しかし、なぜ医療分野だったのだろうか。エアランゲン大学は医学分野でそもそも力がある。ちなみに大学からは 1 年で 599 人の博士号取得者がおり、内267人が医療関係(2002年)というだ。それから、具体的な動きからいえば、シーメンス社が医療分野に力をいれはじめたという事情もある。さらに『分野別の倒産率をみたら、医療関係が低かった』(同市経済担当責任者、コンラード・バウゲル氏)という計算も働いている。 こうした同市の戦略にさまざまな応援団がある。たとえば、ネットワーク北バイエルン(netzwerk|nordbayern)は州経済省と複数の企業が共同で設立したビジネス・サポート会社だ。医療関係の企業のみならず、ベンチャー企業にコーチングや投資家と引き合わせるなどのサポートを行っている。この 5 年間で 250の企業が 8,000 万ユーロ(約 11 億円)の売り上げをつくって 1,700 人の職場をつくった。その内 67の企業が同サポート企業の支援で 8,300 万ユーロ(約 11 億 3 千万円)の資金をベンチャーキャピタルや投資家から調達できた。『地方内のマーケットではなく国際的マーケットを目指す』(運営責任者、カルステン・ルドルフ博士)。 他方、同サポート会社はビジネス・プランコンテストといったことも行う。7月15日、エアランゲン市内で行われた。6 回目の今回は“メディカル・バレー”内の企業を対象にした賞が特設された。 医療技術・医薬開発基金(MedTech Pharma Development Fonds)はその名のとおりメディカル・バレーの起業環境をさらに整える。5 年の期間限定プログラムで 2003年からはじめられた。分散する地域内のポテンシャルを集めて、顕在化させることが目的。集積と連携により有機的に先端医療産業を創出する。エアランゲンはその中心にある。(了) (ドイツ在住ジャーナリスト/高松 平藏) (『週刊京都経済』 2004年8月16日付に掲載) 【編集後記】 こういうのを地域の 『産業クラスター』というのでしょうが・・・ ◆今日のようなお話、つまり分散する地域内のポテンシャルを集めて、顕在化させるということを産業クラスターということなのでしょう。ここ数年、地域経済の中でよく言われて、言葉もかっこいいのですが、どこか私にはしっくりこないところがあります。 ◆日本で聞く『産業クラスター』に対する私の違和感、地産地消というキーワードから考えるとすこしわかりやすくなるかもしれません。ドイツの税制をみると、企業の利益に対する課税、『営業税』なるものがあります。コンセプトとしては地方自治体のための税制です。だから、地方自治体にとって企業誘致のインセンティブになります。 ◆したがって小さい街にでもそれなりに企業があり、地元の人を雇用します。企業誘致は地元の雇用にもつながるわけです。一方、当然のことながら外からも人はきます。そうすると、レベルの高い人材を集めたり、留めておくには生活環境をよくして街の魅力を高めることが必要なことになります。 ◆そこで、ドイツの自治体の充実した文化政策が発揮されるわけですが、企業側も、人材の住環境向上のためにメセナというかたちで、地元の文化にカネを出すインセンティブが出てきます。自治体をめぐる経済と文化の地産地消がこういうかたちでできているようです。ただ、この理屈からいえばレベルの高い人材=教養の高い人材ということが前提になっているのですが、日本をかえりみると、この構造はもうすこしぼやけているかもしれません。 ◆もっとも、ドイツも税制の変更やら続く不景気のために、好循環構造もくずれそうな危機に直面していますし、企業の経営環境という点からいうと、ドイツは必ずしもよくありません。しかし、地産地消と新産業創造というキーワードを重ねると、人材=住民という発想がドイツには見え隠れします。 ◆そもそも城壁で囲まれていたドイツの街は一体感があります。そして城壁の中をひとつの密閉空間としてとらえ、徹底的に自己管理をしていく考え方が歴史的についています。したがって、クラスターというような発想はごく自然に出てくるものだと思われます。また。その密閉空間の成員である住民が人材ということも当然ついてまわるのだと思えます。(高松 平藏) |
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■■インターローカルニュース■■ 発 行 : インターローカルジャーナル http://www.interlocal.org/ 発 行 人 : 高松平藏 発 行 日 : 不定期 Copyright(C) Interlocal Journal |
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