■■インターローカル ニュース
■■ Interlocal News 2004-07-16 (vol. 102)

 

─地域の競争力と住みよさ 前号次号

 

□□ 目次 □□
【ニュース】 オートメーション・バレー、ニュルンベルグ

【ニュース】 家庭を大切にするとコストダウンにつながる
【編集後記】 地域の競争力と住みよさ

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【ニュース】
オートメーション・バレー、ニュルンベルグ
調査で見えた地域の強み

 戦後の裁判で知られるニュルンベルグはドイツ南部・バイエルン州に位置する街だ。このほど、同市の商工会議所で『Automation Day』と題したセミナーおよび交流会が行われた。  

 先月 30 日に行われた同セミナーは商工会議所をはじめ、地元の関連企業、同市の技術系単科大学、さらにソフトウエアに関する産学共同の非営利組織 ASQF(Arbeitskreis Software-Qualiteat Franken e.V.) オートメーション専門グループによるもので今回 6 回目を数える。企業の専門家ら 200 人以上が集まった。

 今回のテーマは .NET(ドット・ネット)。マイクロソフトが2000年に発表した次世代戦略で、情報機器のすべてがインターネットに接続されていることを前提にした一種のコンセプトだ。これまでのOS(オペレーション・システム)とは異なる考え方で、言語とツールが複雑になってくることからソフト開発の部分でコストが跳ね上がる。その対策が今回のセミナーの中核。 マイクロソフト社のラルフ・エベルト氏が .NET に関する同社の戦略やビジョンなどのプレゼンテーションを行った。  

 他方、.NETを活用した企業 4 社が自社のシステムと交換する価値があるかどうか、導入時の投資、信頼性などについて話した。最後は『リアルタイム・イーサーネット』と題した議論がおこなわれた。また会場内ではいくつかのスタンドが立ち小メッセさながら。セミナーの合間に参加者同士の交流が活発におこなわれた。

 ASQF にオートメーション技術に特化した専門グループがつくられたのは2002年。商工会議所が調査を行ったところ、ドイツ国内のオートメーションに関する企業のうち 10 % がニュルンベルグと周辺地域に集中する『オートメーション・バレー』であることが顕在化した。これを受けてのことだ。従事者は 2 万人にのぼる。

ちなみに同市は人口 50 万人、隣接するエアランゲン市、フュルト市はそれぞれ 10 万人。合計 70 万人の人口規模になる。カール・ハインツ・ヨーンさん(ASQFオートメーション専門グループ代表
=写真)は『戦後、総合電機メーカー・シーメンス社が同地域を一拠点にした。これがオートメーション・バレーになった背景では』と語る。

 ひとことでオートメーション従事者といってもマーケティング、製造、システム導入など分野はばらばら。そのため調査前は『オートメーションに強い地域』ということが見えてこなかった。

 また、さまざまな技術やノウハウが統合されてはじめて製品や製造ラインにつながる。そのため細分化された技術を把握する必要がある。交流会をつくることは必然だった。人的ネットワークの強化で地域の強みを伸ばす動きだ。
(了)

(『週刊京都経済』 2004年7月12日付に掲載)





【ニュース】
家庭を大切にするとコストダウンにつながる


 家庭と仕事、このふたつの相性はよいとはいえない。家庭を大切にする人は仕事を減らさなければならず、仕事一筋では家族との関係はギクシャクしやすい。ところが、どうやらこれは誤りのようだ。

 ドイツの地方都市エアランゲン市(バイエルン州)周辺郡部に位置する infoteam Software有限会社で、昨年に引き続き『社員に優しい人事方策による経済的成功』と題した講演とワークショップが 5 月 13 日に行われた。約 40 人が参加した。

シンクタンク Prognos 研究員、ティルマン・クニッテルさんの講演によると、社員が仕事と家庭の調整がしやすい環境づくりを行った企業は、一定のコストダウンが見込まれるという。同シンクタンクは、小さな子供を抱えた社員に対する労務環境の整備でどれだけの投資とメリットがあるかを調査した。従業員人数 140〜13,050 人まで大小さまざまな規模のドイツ企業 10 社が調査に協力した。

 小さな子供がいる社員は保育所などへの送迎や突然の病気への対応といった負担がある。また育児休暇を終えて、会社に復帰するときに技術の進歩などにより、困難を極めることも少なくない。ドイツでは出産後3年間の育児休暇が認められ、勤務先の企業への復帰は法律で保障はされてはいるものの、結局退社ということも多い。

 それに対して、柔軟な勤務体制や育児休暇中の社員との頻繁な連絡、社内保育施設、テレワークといった対策で、社員数 1,500 人の企業を想定した場合、投資コストは 30万5000ユーロ(約4,100万円)。それに対して、38万ユーロ(約5,100万円) のコストダウンができ、7,5000ユーロ(約1千万円)の利益になる。

 コストダウンの内訳は、育児休暇を短めに取る人が増えて、復帰コストが下がる、あるいは病欠による損失が減るといったことが要因。実際に調査に協力した企業でも労務関係の整備により、この 5 年間で育児休暇の平均取得期間が 33 カ月から 19カ月に減った。あるいは 30〜40万ユーロ(約4千万〜5,100万円)のコストダウンに成功した企業もあった。

 将来は情報化社会とグローバル化の中で企業の経営環境は複雑化する。ドイツ国内では失業者の減少は期待できないが、専門家の不足により、必要な人材の調達が難しくなると考えられている。これに対して家庭の変化にも対応できる労働環境づくりは企業の競争力につながるというわけだ。

 なお、この試算には社員のモチベーションや満足度、ストレスの減少ということははいっていないため、実際は数字以上のメリットが見込まれている。(了)

(『週刊京都経済』 2004年6月7日付に掲載)





【編集後記】
 
地域の競争力と住みよさ


◆地域の産業育成と、住んでいる人々が主役になる『まちづくり』というのは同じ地域の話しであるにもかかわらず地続きの議論は少ない印象をもっています。私が住むエアランゲンやその、周辺地域をみていてもそのへんのつながりは薄いように思います。ただ、日本との比較でコントラストを強めていえば、ドイツの場合、職住近接、短時間労働というスタイルがまだまだ主流。このへんが日本と違うところ。

◆これには、驚きました。ニュルンベルグの会社に勤めていた人がエアランゲンの会社に転職した人がいたのです。理由はニュルンベルグからエアランゲンに引っ越したからというもの。両市は隣接しており自動車でしたら30分程度で行き来できる距離であります。このケースは極端な例かもしれませんが、とにかく地域社会の企業には地域社会にきちんと住んでいる人が働いている構造が堅固。長距離通勤、長時間労働の裏返しで、会社を定年した男性がようやく『地域デビュー』するという話が日本にはありますから、大きな違いであります。

◆そんな上での家族と会社を考える議論があり、一方で地域の経済分野での強みを伸ばそうという動きがあるわけですが、ドイツの仕事と生活のスタイルを勘案すると、地域の競争力と住みよさを同時に追求する結果につながるように思えます。ついでにいえば、社会の中で文化・芸術がどうあるべきかという議論も近年盛んでありますが、ドイツと日本ではかなり状況が違ってきます。(高松平藏)


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発  行  人 : 高松平藏 
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