■■インターローカル ニュース
■■ Interlocal News 2004-05-05 (vol. 98)

 

─街にどのぐらい文化が必要か? 前号次号

 

□□ 目次 □□
【ニュース】 街にどのぐらいの文化が必要か?

【読者から】 『カルチャー・ダイアローグ』に対して
【編集後記】 エンド・ユーザー意識 

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【ニュース】
街にどのぐらいの文化が必要か?
第 2 回 カルチャー・ダイアローグ


 ドイツ南部の 10 万人都市、エアランゲン市(バイエルン州)でこのほど、街の文化について話し合う『カルチャー・ダイアローグ(Kulturdialoge)2004』が行われた。講演やパネルディスカッション、分科会で構成されるもので昨年に引き続き 2 度目の開催だ。

■■文化は自治体の義務だが・・・

 先月 3 日に市内の『文化と余暇』局とギャラリーのある建物で開催された。まずは『文化は自治体の義務』と題する講演。同市の文化の責任者、ディーター・ロスマイスル博士
(=写真)によるものだ。

 同氏によると、実は法律的には市のレベルで文化を市民に提供することは決して義務ではない。しかしながら州や国の憲法ではなんらかの文化プログラムを市民に提供しなければならないことが記されている。

 『(生活の中で)文化があることは市民にとって権利だ』。また、文化を用意するのは主に州だが、当然、州内の自治体も用意しなければならなくなる。『人権』の中にも文化に対しての権利が明記してある。だからこそ『市でも何かのかたちで文化を市民に提供しなければならない』(同氏)。

 もちろん、ひとことで文化といっても教育や学術、芸術など扱う分野は幅広いが、いずれにせよ、自治体は市民のために文化の場づくり、市民の文化的なムーブメントに対する支援、情報の流通など取り組むべきことは少なくない。エアランゲン市は人口 10 万人という規模でありながらも市営の劇場やミュージアム以外にもいくつかの文化施設がある。そしてその中身の運営のためのプログラムも充実している。また文学やコミック、人形をつかったパフォーミング・アーツのフェスティバルなど大型の『イベント・カルチャー』もある。

 そんな街にあって、今回のカルチャー・ダイアローグのテーマは『ひとつの街にどれだけの文化が必要か』というもの。昨今、ドイツの自治体は財政難にあえいでいるが、エアランゲンでも文化に対する予算カットがなされている。これが今回のテーマの背景だ。しかし『お金がないから、といって“文化”をしませんというわけではない』(ロスマイスル博士)。

■■課題浮上、『コーディネートがいるなあ』


パネラーの顔ぶれはユニークだ。商工会議所、大学、教会、文化専門の市会議員といった分野の人物たち

 講演の次に行われたパネルディスカッションでは政治、経済、教会、学術といった様々な分野のパネラーが顔をならべ、『街に文化はどれぐらい必要か』というテーマで話し合った。議論ではまず文化が必要なものであることが確認された。 SPD (ドイツ社民党)のウルスラ・ラニングさんは『文化は生地の中のイースト菌。ケーキの上の生クリームではない』というドイツの大統領、ヨハネス・ラウの言葉を引用した。

 次に文化の扱いについての話が出た。『予算カットはやむを得ないが、間違ったカットにならないように注意が必要』(ゲルハルド・ミュンダライン博士、教区監督)。『文化を通して、失業や暴力、教育といった社会問題を解決しようというのは間違い。それは文化自体をこわすことになる』(ミヒャエル・v・エンゲルハート博士、エアランゲン大学教授)。

 さらに同教授は街の文化の充実度が企業誘致と関わっていることも指摘。『企業がチェックするのは医療と教育、文化(のレベル)だ』。またレナテ・ドエブリンさん(エアランゲン商工会議所代表)は『フェスティバルなどのイベント・カルチャーは小売業などにとって大切なもの』と述べた。

 午後からは音楽、劇場、子供・青年向けの芸術、文学、総合の5グループに分かれて分科会が行われたが、その結果をプレゼンテーション。そこで浮かび上がってきたのがコーディネーターの不在。エンド・ユーザー(文化の享受者)への情報提供や、文化のオーガナイザー同士が連携といったことを促進させる部分が不足していることが明らかになった。実際パネルディスカッションでもドエブリンさんが 4 月から市が開催しているダリ展と経済界との接点不足を指摘。『もっと早く展覧会の開催が告知されていたら、関連のイベントなどもできた』と苦言を呈した。

 さて、1日がかりのこの催し、共通の課題が浮かび、問題意識を共有できるところに値打ちがある。同時に市民もまじえて、行政側がどう対応するかというところが大切になってくる。ちなみに昨年は地元のアーティストをもっと文化プログラムに取り上げるべきという意見があがり、フェスティバルなどには反映されている。

 また現在ドイツでは国も奮闘中。財政難から福祉国家としての再構築が迫られているのだ。解決策には政策的なものも必要だが、人々が自分たちの問題としてどれだけ自己負担や知恵を出せるかというところもカギだ。カルチャー・ダイアローグもいわば文化をとりまく環境の悪化に対して、知恵を出し合う場づくりといえる。この日集まったのは 150 人。一般の市民も参加できるが、文化NPOなどなんらかの形で文化活動に参加している人の姿が目立った。(了)

(”週刊京都経済” 2004年4月19、20日付に掲載分を再編)





【読者から】
『カルチャー・ダイアローグ』に対して


 『カルチャー・ダイアローグ』に対して多数のメールをいただきました。

 弟が公務員なので、転送しました、という方や、『日本の文化提供者ほうが、エンドユーザー意識が強いのでは』ということを書いた編集後記に対して『現象的には納得しますが、日本のそれは文化イベント主催側の商業性、浅はかなプロデューサーによる低次元な企画への同調を強いられているような居心地の悪いものが多数を占めています』(東京、SSさん)といった意見もいただきました。

 あるいは、ある文化NPOの関係者の方からは『おおいに受けた』と、長いメールをいただきました。とくに、<4 月から市が開催しているダリ展と経済界との接点不足を指摘。『もっと早く展覧会の開催が告知されていたら、関連のイベントなどもできた』と苦言を呈した。>という部分は日本とも同じだなあ、という感想を持たれたそうです。ドイツも日本でも同じような問題が起こっているということがよくわかります。

 もっとも、補足しておきますと、ドイツの街を見ている限り、フェスティバルなどがあると、本屋さんなどは得にわかりやすいのですが、すぐに関連の本をショーウインドウーに飾りつけします。文化イベントに対して小売業がすぐさま反応している様子は伺えます。

 いずれにせよ、これから地域社会をどうしていくか、ということを考えたときに文化も経済もあれこれ絡み合う時代にはいっています。まずはどこでどんな接点も持てるかを模索し、地域社会の質を高める方向へ向かうことが求められているように思い
ます。

 たくさんのメールありがとうございました。






【編集後記】
 
エンド・ユーザー意識 

◆昨年に引き続き、参加したカルチャー・ダイアローグ。小さな街ゆえに参加者は非営利組織の代表、アーティスト、行政マンなどエアランゲン市の文化関係者が一同に揃う日という感じの1日でした。2名の市会議員もパネラーとして参加していますが、彼女ら自身、メインに取り組んでいるテーマが文化。しかも、エアランゲンの与党と野党の議員です。小さな街で与党も野党も関係ない、というようなところもあるのですが、とにかく、両党の文化専門の議員がいるということはバランスのよさと懐の深さを感じます。

◆一方、新聞でも『一般の市民も参加できます』という趣旨の記事も出ていたのにもかかわらず、結局は『当事者』の集まりになってしまうのが現実。ほとんどが文化をオーガナイズしたり、提供する立場の人たちです。彼らはそれなりに情熱もアイデアも、立派な考え方ももっているのですが、話をきいていて、文化の享受者、企業的な言い方をすればエンド・ユーザーに対する意識が薄いような気もしました。

◆先週、様々な文化関係のプロジェクトを手がけている友人が遊びにきたのですが、『エンド・ユーザーについての意識が低いように感じた』と話してみると、『そうなんだよなあ』といいながら苦虫をつぶしたような顔をしていたので、やはりそうなんでしょう。そういえば、日本から見るとドイツは恐ろしくサービス不在の国です。最近は少しづつよくなっているようですが、『お客様は王様(日本風にいえば“神様”)ではないか』と問えば『私たちは王様が嫌いなのだ』という返事が返ってきそうな意識がまだまだあります。

◆文化行政については日本でも近年盛んになり、ドイツの事例があれこれ参考にされることが多いのですが、エンド・ユーザーという意識に関しては、文化の世界でも日本のほうが、はるかに強いような気がします。これは日本企業が持つ考え方が文化のほうにも移転しているのかもしれません。

◆ゴールデン・ウィークも最終日。皆様、いかが過ごされましたでしょうか?こちらは日本からのメールが極端に少なくなり、『ああ、日本は休みなんだな』と妙な納得をしています。(高松平藏)



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