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【ニュース】 地域による、地域のための、地域資源の公開 “Die Lange Nacht der Wissenchaften (科学の夜長)” ドイツ南部のバイエルン州に位置するニュルンベルグ、フュルト、エアランゲンの隣接する3市を舞台にこのほど、“Die Lange Nacht der Wissenchaften(科学の夜長)”という催しがおこなわれ。地域にどんな知的な動きや施設があるのか。産官学が協力しあって地域内に照準をあわせた文化政策的な催しだ。 ■深まった企業と地域の関係 同イベントが行われたのは 2003 年 10 月 25 日、土曜日の 19 時から翌日 1 時まで行われた。3 市内に立地する 150 の企業、大学、大学病院、研究機関などが“パートナー”として門戸を開くというもの。各施設で技術の展示やこの日のために300 ものアトラクションなどが用意され、午前 1 時からは朝までパーティが行われた。 舞台になった 3 市の人口は合計 70 万人(ニュルンベルグ市 50 万、フュルト市、エアランゲン市各 10 万)。1 万人の動員を目標にしていたが、12,000 人が訪れた。学生や子供の姿も多く、場所によっては入場を制限するところもあり、ひっきりなしに走るツアーバスは常に満員。同地域内が持つ技術や施設を紹介する機会で、人々はあたかもパビリオンをまわるかのように訪問することができる『地域内万博』といったしつらえのものだ。 『地域内万博』のパビリオンは実に多様だ。たとえば、エアランゲン大学の図書館では復元された昔の閲覧室が紹介され、本のバザーや活版印刷技術を用いたアーティストのワークショップが行われる。 レーザー技術の研究所では最新の技術の解説や映画が上映される。医療技術ベンチャー企業のインキュベーターのカフェではDJがにぎやかにダンスミュージックを流す。そのかたわらで、老眼の擬似体験ができる器具のデモンストレーションや、骨の治療技術の紹介がされる。 企業や大学だけではなく、農業地帯も舞台になった。クノーブラヘランドと呼ばれる農業地帯では寒空の下、農業用水の技術紹介がされ、治水のコントロールルームでは敷設工事の映像が映された。 さて、このイベント、企業にとっては地域社会との関係づくりにも一役かっているようだ。日本でも知られる鉛筆の老舗、ステッドラー(ニュルンベルグ)でも鉛筆が作られる過程やインクに関するする技術の紹介を行った。同社広報部長のマルク・ペラトナーさんによると、『学生からワーカーまで様々な人が訪ねてくれた。また、イベントを通じて多くの報道関係者、顧客、興味を持ってくれる人との接点をつくる機会にもなった。地域との関係作りにとって大変重要なものになった』という。同社にはこの夜、約 1000 人が訪問した。 ■コンセプトは地域資源の顕在化 このイベントをプロデュースしたのはクルチュア・イデー社(ニュルンベルグ)。同社社長のラルフ・ガブリエルさんは近年、ミュンヘンでも同様の会社を経営し、音楽や本、技術をテーマにした夜間イベントを次々と展開していた。このスタイルをもってきたのが今回の『科学の夜長』だった。 催しに参加した人からは、『3 都市で一度に行うと、多すぎてまわれない』といった不満こそあれ、おおむね好評だ。『普段見ることができないようなところを訪ねた。人が多すぎて入れないところもあったが、次回があれば、また行きたい』( 40代男性)。あるいは、7 歳の男の子をつれて電機メーカーを訪ねた女性は『ロボットや機械に息子は大喜び。また会社の存在は知っていても、訪問する機会はめったにない』という。 この催しのコンセプトは地域資源の顕在化。自分の住む街にこんなところがあることを知ることや、再確認ができるしかけだ。 着目すべきは文化イベントの手法であらゆるセクターを編み上げる力だろう。その根幹を支えたのが『地域資源の顕在化』というコンセプトだった。プロジェクトリーダーのピエレ・ライヒさんは『“パートナー”探しに270件あたった。コネで“パートナー”になってもらうというよりもコンセプトに賛同してもらうようにした』という。 また、30 万ユーロ(約 3,770 万円)の予算のうち、3 分 1 はバイエルン州科学・研究・芸術省からのとりつけた。ミュンヘンでの実績から州政府との接点はすでにあったが、それにしても『コンセプトがよかったと思う』(同氏)。 もともと地方都市の独立性が高いドイツだが、地域による地域のためのイベントは、各セクターの結びつきを強固にし、ひいては地域社会そのもの強さにつながりそうだ。(了) (”週刊京都経済” に掲載分を改編) 【編集後記】 企業がのってきた理由 ◆ごくたまにですが、取材で工場を訪ねたりすることがあります。素人目には一見なにやらモノが雑然として置かれているように見えるのですが、実は生産のためのデザイン思考に基づき、有機的な配列になっています。それが見えてくるとより、面白いものです。『科学の夜長』でもそういう面白さを久々に味わいました。 ◆企業は株主向けの IRInvestor Relations) を作成したり、新商品ができれば記者会見を開いたりします。それは企業の動きや考えを表明する機会であります。ドイツの企業もそういうことは行っていますが、もっと強い意志をかんじることがあります。 ◆それは、『社会の中でわれわれは何を考えて、どうしていくのか、そしてどんなことを行ってきたか』。こんなことを整理し、オープンにする姿勢を感じるのです。そして、それは企業のみに関わらず、行政や政党なども感じます。いいかえれば、組織自身が語るといいましょうか、『主語』を明確に持っているような印象をうけます。 ◆具体的にはオープン・ドアの日を設けたり、アニュアル・レポートを発行したりということがあるわけですが、『科学の夜長』は、企業や研究機関の『表明しようという主語』をくすぐった企画だったのではないかという気がします。 ◆『科学の夜長』に加わった企業の動きは、社会的責任や説明責任という言葉に置き換えられるような話なのですが、日本を省みると、もっと地元志向の動きがあってもいいかもしれません。 ◆そういえば小学生の時に『社会見学』として訪問したスリッパ工場やお菓子工場、壁新聞づくりで取材した肉屋さんに郵便局。実に楽しかったなあ・・・。(高松平藏) |
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■■インターローカルニュース■■ 発 行 : インターローカルジャーナル http://www.interlocal.org/ 発 行 人 : 高松平藏 発 行 日 : 不定期 Copyright(C) Interlocal Journal |
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