■■インターローカル ニュース
■■ Interlocal News 2004-03-09 (vol. 93)

 

-文化の地産地消 前号次号

 

□□ 目次 □□
【ニュース】 曲がり角にたつ“地産地消”の文化情報誌/読者からメールをいただきました

【ニュース】 芸術の非営利組織、100年目を迎える
【編集後記】 仕事のあとの『飲みにケーション』はないけれど・・・ 

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【ニュース】
曲がり角にたつ“地産地消”の文化情報誌


 大阪の地下鉄の駅にチラシなどを置く設置台がある。そこに『C/P』という記号のような題字のフリーペーパーがおいてある。C/P、Culture Pocket の略である。隔月で大阪市が発行する文化情報誌で A4 サイズ 16 ページ、発行部数は 10 万部。文字がぎっしりつまった『読み応え』のある情報誌で、地下鉄以外にも大阪市内の文化施設などにも置いてある。
 
 この情報誌、行政が発行するものにしてはデザインがすっきりしていて、内容も濃いと評判だ。扱うジャンルは伝統芸能から映画、演劇、現代芸術、詩、コンテンポラリーダンスなど多岐にわたる。巻頭には他の自治体にある文化施設の運営や関西のコンテンポラリーダンスの全貌、7月の大歌舞伎公演にあわせて行われる行事『船乗り込み』といった特集を毎号組み、『市民劇をつくる』『アートの現場』といったコラムが並ぶ。冊子をつくる編集部は長年、文化施設の運営などにも関わった専門家。大阪の文化や芸術の動きや人に精通している。これが官製ながらもクール(かっこいい)な冊子に仕上がる秘密だ。

同誌の創刊は 1999 年。『地域文化活性化のため』だ。大阪市はインディーズ系 CDの販売や文楽の勉強会、現代芸術祭といった 10 程度の事業を行っている。C/P はそれらの事業の広報誌であるが、単なる『ちらし』の集合体ではなく、事業のプロセスや専門家である当事者の考えなどを伝えるといったところに大きな特徴がある。編集部の甲斐賢治さんは『近年、食品などでも産地から市場に流れるプロセスを開示しようという動きがある。文化も一緒。『こんな文化事業があります』というだけではだめ』という。

  発行サイドにはもうひとつの目論見がある。同誌の執筆陣に将来新たな事業やプロジェクトに加わってもらいたい人を発掘する。そして紙面づくりを通じて関係をつくっていくという一面もある。いわば同誌は大阪市の文化の質を高め、人的ネットワークを広げるのに一役も二役も買っているかたちだ。『都市にとって地産地消型の文化事業が重要』(甲斐さん)。

 だが、ここにきて 4 月に発行される最新号が休刊になる見込みがでてきた。大阪市側の管轄に関する変更によるものだ。また今年度、発行継続が決まった場合も同誌の価値や役割を理解できない職員の手にゆだねられ、現在の編集部が解散した場合、従来どおりのクオリティの高さを持った冊子作りは難しくなる。近年、文化政策の専門家からは評価が高まっていた大阪市の動きだけに、今後の動向が懸念される。(了)

(”週刊京都経済” 2004年3月8日付 掲載)

読者からメールをいただきました
読者の方からメールをいただきました。この記事は大阪市が発行していますフリーペーパーC/P(Culture Pocket )が新年度から体制がかわるというもの。専門家の編集部が制作していたため、デザインも内容も『行政らしくない』クオリティを持っていたと好評を博していたものでした。

そんなニュースに対して、『何か手伝います』といった応援メールなどをいただきました。また、下記のような指摘を投稿してくださいました。紹介させていただきます。

◆質的評価を公的な場に (福井恵子さん、東京)

先日、日米留学奨学金で有名なフルブライト・プログラムの事務局長のレクチャーを聞きました。同事業の予算の重要部分を占めるアメリカ政府に対し、最も有効な説得材料は、意外なことに『数字』よりも、一人一人の『成長ストーリー』、事例なのだそうです。つまり質的評価が公的な場にも存在するということなのでしょう。それだけ個々人の主観が尊重され、その主観に対して個々人が責任を持つ社会なのかもしれません。質的評価と、それを反映した事業のあり方。その判断力がなければ、芸術や文化は成熟しないですし、劇場や指定管理者制度などの話も意味が無いでしょう。





【ニュース】
芸術の非営利組織、100年目を迎える


セレモニーで行われたアートパフォーマンス

 ドイツ南部のエアランゲン(人口約 10 万人)に本拠地をおく Kunstverein Erlangen (クンストフェライン・エアランゲン / 芸術協会エアランゲン)は来月創立100周年を迎える。プロ・アマチュアの芸術家や芸術愛好家、約600人がメンバー。フェラインとは通常『協会』と訳されるが、NPOと同類の法人格だ。  

 1904 年に創立された同フェラインは、あらゆる分野の同時代のアートを紹介・支援を行うことで、市民に対してアートに対する理解や知識、関心を高めることが目的だ。エアランゲン市周辺都市で形成されるフランケン地方と呼ばれる地域で最も古い芸術系フェラインだ。また、戦後の最盛期にはフランケン地方でもっとも有力な芸術賞のイニシアティブをとったり、エアランゲンの姉妹都市での展覧会など精力的に活動してきた。同市の『文化と余暇局』の責任者ゲオルグ・グラフ・フォン・マチュシュカさんは、『(一般に)街の文化シーンはフェラインと大きい関わりがある。エアランゲンに伝統のあるフェラインがあるのはよいこと』と評価する。

 しかしながら、現在はメンバーの高齢化傾向やほかの芸術系フェラインが増えたりなど、往年の勢いは見られない。91 年には若手のグループも組織内でつくったが、積極的に活動する人は決して多くはない。ある会員のアーティストは『最近はドイツの経済状況も悪い。そんな中、自分のことで目一杯だからではないか』と分析する。それでも、代表のハインツ・ウベ・フィッシャーさんは『古いアーティストを守らなければならないが、同時に若い人の活動も尊敬すべきだ。若い人たちと一緒に何かやることは簡単なことではないが頑張っている』と前向きだ。

 加えて市の財政難に伴走するかたちで支援も減少気味だ。これに対して市会議員で文化関係に力を入れているウルスラ・ラニグさん( SPD /社民党)は、市は支援をもっと増やすべきと主張する。エアランゲンはここ数年、医療都市となるべく舵取りをしているが、『高い教育を受けた社員や研究者、エンジニアがある街にくるとき、街の文化もチェックしてくる』(同氏)。

 ところで歴史をふりかえると、18-19 世紀のドイツでは近代化の流れの中でフェラインが盛んに作られた。身分や職業を超えた同好の士の集まりであると同時に公益に尽くすなどの理念と役割があった。時代の変化によってフェラインの存在意義や戦略を考えていかねばならないことは確かだが、ドイツの地方都市の豊かさはフェラインによるものが大きい。現在も独国内で 100 万を越すフェラインがあるといわれている。(了)

(”週刊京都経済” 2004年1月19日付 掲載分 記事中の時系列はこの日付に基づいています)




【編集後記】 
仕事のあとの『飲みにケーション』はないけれど・・・

◆芸術協会に関わらず、各種協会には一般の会社員が普通に参加しています。日本ほど労働時間が長いわけでもなく、職場と住居も近い。そんな条件が協会などに参加する余裕が出てくるのかもしれません。

◆100周年の展覧会最終日のセレモニーもたずねました。地元のビール会社がビールを販売していました。社長もいたので、話をきいたところ本人も協会の会員とのこと。『地元でこういう活動に参加するのは楽しいからね』とさらり。

◆エアランゲンの芸術協会の代表、フィッシャーさん
(=写真)も実は銀行マン。その前の代表は総合電機メーカー、シーメンス勤務の人でした。仕事が終わったあと会社の同僚とつるんで飲みにいく、という習慣がないドイツの人たちですが、仕事終了後は会社の枠を超えた人間関係の交際の機会はこうした協会活動が支えているようです。

◆講演の仕事があり、日本に一時帰国しました。出発予定日に天候の具合でアムステルダム行きの飛行機が飛ばず。1日出発が遅れました。普段は日本に到着した日は 1日のんびりするようにしているのですが、次の日、早速京都で予定があったため関空から列車で直接京都へ。おかげで時差ぼけになる暇がありませんでしたが、同時にエアランゲンから京都へ新幹線で来たような感覚をもちました。ドア・トゥ・ドアで15時間程度。世界は狭くなったといいますが、それを実感しました。まさにインターローカルを地でいける時代なんですね。明日、日本を発ちます。今回は単身帰国で完全仕事モード。いやはや疲れました。ふう〜。(高松平藏)



左から甲斐賢治さん、餘吾康雄さん
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発  行  人 : 高松平藏 
発  行  日 : 不定期

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