ドイツ・エアランゲン在住ジャーナリスト
高松平藏 のノート
前へ
|インターローカルニュース | ノートのリスト |

2011年9月29日



長男と共同プロジェクト、『柔道コース』


ひょんなことから、子供たちに柔道を教えることになった。まだまだ始まったばかりだが、すこし書いておきたい。

発端は長男
たいへんなことである。
私は長男と一緒に10人ほどの小学生を対象に柔道を教えはじめたのだ。7月に4回ほど、そしてドイツの新学期である9月にはいって1回、合計5回ほど柔道コースで柔道を教えた。まだ始まったばかりだ。

発端は長男だ。
息子は小学校が終わったら、学童保育も兼ねた幼稚園に預けていたのだが、毎週、決まった時間に行う小学生だけのグループで自主プログラムを作った。

その一環で息子が提案したのが『日本文化』と『柔道』を小学生の皆に紹介するというものであった。息子に協力を仰がれた私は『日本文化』に関しては日本のマンガやアニメを扱った。資料をつくって、小学生を相手に『実は君たちの見ているアニメは日本のもので・・・』という具合にやったわけだ。

次に柔道である。当初、息子は柔道の技などを見せる程度のことを考えていた。が、技をかけるには『受け』がいる。そこで、私の登場だ。息子の投げ技を受けるために幼稚園へ向かった。その際『JUDOはこんな字で書く』と漢字を見せたり、単なるスポーツのみではないことも簡単に紹介したのだった。

それを見ていた先生から『柔道コース』をお願いできないかと打診されたのであった。

引き受けた4つの理由
ドイツの小学校は4年生まで。だから7歳から10歳ぐらいの子供が対象ということになる。

子供たちは柔道着も持っていないし、部屋全体をしきつめるような柔道用のマットもない。しかも息子も私も5年ほど前に始めたばかりで、柔道家としてはまだまだ初心者だ。ましてや指導などしたことがない。

それでも引き受けた理由は主に4つあった。

まずは、息子と一緒に取り組めるボランティアであるということだ。息子は当時4年生。7月に小学校を卒業したので、9月からは幼稚園に行く必要はない。しかし、柔道を教える側にまわると責任やリーダーシップが必要になる。長男にとっていい機会だと思えた。

次に、私はドイツでは外国人である。しかし、こうしたボランティアを通じてコミュニティの中へはいっていける。へっぽこ柔道家ではあるが、私はコミュニティのなかで役にたつことができるのだ。こういう機会は大切にすべきだと考えた。

ジャーナリストとして、『大人』として
さらに、私自身の関心と挑戦がないまぜになったものがあった。それが3つ目と4つ目の理由だ。

ジャーナリストとしてドイツ社会を見ていると、価値観の多様化をはじめ、社会の変化をよく感じる。それは教育の現場でも影響がある。

現象的にいえば日本でいうところの学級崩壊の一歩手前のクラスも少なくない。私が通っている柔道場でも、『柔道』をしているにもかかわらず、話をきちんと聞かずに寝転び、私語をするなど、きちんと参加しない子供もいる。

柔道には競技や余暇以外に教育的な機能もあるが、昨今の子供の問題をみたときに柔道を通して、なにかしらできるかもしれないと思った。さらに付け加えるならば、日本の教育的価値を幼稚園というドイツの教育の現場で展開するということは、広い意味での翻訳作業が生じる。西洋医学に東洋医学を組み込むようなものだが、いわば異文化コミュニケーションの実践といえるだろう。

以上が3つ目の理由である。

最後、4つ目の理由は子供の親という立場からすこしづつ広がってきた問題意識だ。自分の子供を育てるということは親の責任だが、ほかの子供に対してできることをする必要があるのではないかというふうに考えるようにもなった。

口はばったい言い方をすれば、柔道歴が短くとも柔道家のはしくれとして、あるいは大人として次世代の社会を担う子供に対する責任感である。

ビジョンはあるがノウハウがない
さて、へっぽこ柔道家による『ジュードー・コース』の内容はといえば、柔道着もない、部屋全体にマットもない状態なので、柔道の動きを応用した遊びや器械体操のようなことが中心だが、たとえば礼をきちんと取り入れるなど、柔道というフレームで行っている。

余談ながら聖泉大学教授・有山篤利さんは、中学校の武道必修化に際して『投げ技マイスター』なる器具をつかった指導方法を考案されているが、それを参考に幼稚園の備品をつかって試してみたところ、子供も楽しげであったし、効果もありそうだ。

一方、このコースを実施するにあたり、私はあるビジョンは持っている。

それはお互いに敬意(リスペクト)を持てる状態をつくるということだ。

『先生』の権威を大きくしすぎることなく、子供が『先生』や他の『仲間』に対して『敬意』を持ち、それに基づく行動をとってもらえるようにする。柔道を通してこういったことが子供たちの身につくようにしたいと思っている。

問題は指導ノウハウが私にはほとんどないことだ。
私にはビジョンもあり、自分の体験・見聞、学習の上で練習メニューもそれなりにつくることはできる。しかし、きちんと練習に参加するのが難しい子供はをどのように扱えばよいかといったようなことに苦労している。ビジョンをどの程度実現できるか未知数だが、息子との共同プロジェクトとして続けていきたいと思っている。(了)

【追記】
私が柔道の指導を始めたことを知った有山篤利さんから、自ら考案された練習器具『投げ技マイスター』を後日ご恵贈いただいた。毎回、練習で使わせていただいている。『柔道を通して今の自分がある。柔道にお返ししたい』というお考えをお持ちで恐縮、かつ頭が下がる思いである。感謝の意をここに記しておく。


無断転載を禁じます。
執筆者の高松 平藏についてはこちら
|インターローカルニュース | ノートのリスト |