ドイツ・エアランゲン在住ジャーナリスト
高松平藏 のノート
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2008年2月16日



企業にとっての自治体クオリティ 2─大阪

『企業にとっての自治体クオリティ1』では、ミッテルフランケン地方の商工会議所の調査からドイツの都市像を描いた。もちろんドイツも完璧ではないのだが、ドイツの都市像から大阪府のことを考えてみた

大阪・関西のことを考える
大阪府新知事が誕生したことを知った。
日々、日本のニュースをきっちり追いかけているわけではないのだが、関連のニュースで面白いなと思ったのが、新知事の橋下氏が、経済政策を行うためには企業が必要としていることを聞くといった旨の発言をしていたことだ。その理由は机上で組み立てる政策は、結局のところ中小企業にとって実際には役に立たない、ということがままあるからだという。

『ニーズ志向』という考え方からいえば、実に正しい方針だと思う。うまく実現すれば、経済政策の立案方法が変わるかもしれない。

マーケティングと『生活の質』は違う
しかし一方で、考えようによっては大阪の企業がそれまで行政に対して何をどう自分たちの希望をリクエストをしていたのかな、とも思う。ドイツの話にもどすと、『企業にとっての自治体クオリティ1』で書いた商工会議所の調査などは、そもそも地方選挙にむけた、企業側から地元政治家へのリクエストそのものなのだ。

また、ドイツの街を見ている立場からいえば、大阪の企業側に対する不信感、というほどでもないにしろ企業の『ニーズ志向』に重きを置きすぎるとまずいのではないかと思えるのだ。

というのも、大阪の企業側、つまり財界が都市とはどうあるべきか、といったときに、『アメニティ』だとか『賑わい』など、いろいろなキーワードを元に提言をしているが、根源のところで『都市のマーケティング』と『生活の質のインフラ整備』とを混乱しているような印象を持つからだ。

それはおそらく『企業にとっての自治体クオリティ1』でも書いたように、住民とは労働力である、という見方が企業にはあまりないからではないだろうか。そもそも、大阪近郊から通勤する人が多く、たとえば『奈良府民』という言葉すらある。さらには奈良を素通りして大阪に働きにくる『三重府民』さえいるが、ここまでくると長距離通勤というより『プチ出稼ぎ』だ。

地元雇用主義を政策にしてみては?
ここで、住民は大切な労働力という考え方が現実化するとどうなるか考えてみたい。

まず、当然のことながら『住民』が地元企業の社員になると、24時間、地元にいることになる。そうなれば彼らには長距離通勤のストレスがない。そればかりか、彼らは自分の住む環境にもっと目をやるだろう。そうすると案外、地域社会のコミュニティが濃密になってくるし、企業はもっと地元の居住環境や文化、教育、福祉といった地に足のついた『メセナ』『社会貢献』をするモチベーションが出てくる。

たとえば大阪の企業は雇用の80%とか90%は府内からの人材でまかなう、ということにしてはどうか。そうすると時間はかかるが、最終的に大阪そのものが文化的にもコミュニティの質にも反映するかもしれない。

また、こんな地元雇用主義が実現すると『奈良府民』『三重府民』などのいる自治体の失業率は上がるから、大阪の近隣自治体は企業の地元誘致のためにあれこれ頭をひねることになる。そうすると、これもまた時間はかかるが、住民票だけをもっていた人たちが、本当の住民になって、コミュニティも活発化するだろう。

本来、市民とはその『市』に本当に住んでいる民のことである。そもそも定年してから『地域デビュー』などというのは、『市民』とはいえない。大阪が『地元雇用主義』をとると、『市民社会』の体裁が整う──かもしれない。

また、少子化対策という面からいえば、生活のしやすい地元、つまり職場が近くにあり、居住環境、教育、福祉、文化がそろった地元で住まいすると、住むことそのものに充実感を覚える人が増えるであろう。そうなれば橋下氏ほどでないにしろ、二人目、三人目の子供も授かりたいものだ、と思える夫婦も増えるのではないか。

システム政策という発想
地方自治は難しい。政策は『人気取り』『調整の賜物』といったことになる可能性が含んでいるからだ。

その一方、最近は『ビジョン』や『戦略性』、『経営感覚』の重要性もよく認識されるようになった。これはこれで大切なことだが、都市内で良好な循環性をつくるような思考で政策をつくっていくことも必要ではないだろうか。

こういう発想が一般化すると、企業にとっての自治体クオリティは市民にとっての自治体クオリティとも重なってくるように思える。(了)


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