ドイツ・エアランゲン在住ジャーナリスト
高松平藏 のノート
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2007年12月26日



ドイツのクリスマスツリーのはなし

日本の家庭では人工のツリーを飾るのが一般的だが、こちらでは本物のもみの木などの針葉樹が使われる。ドイツのクリスマスツリーの実態を見てみたい。

※欧州経済情報紙 The DAILY nna(2006年12月21日付)に執筆したものに手を加えたものです。データ等は執筆時に調べたものです。
民俗性と近代家族
天井まで届きそうなクリスマスツリーが室内で飾られる。
クリスマスシーズンになると、街の中のあちこちにクリスマスツリーの売り場ができ、ツリーを家に運ぶ人の姿もよく見掛けるようになる。生木のツリーのための専用のスタンドも販売されており、売り場ではうまく立つように木の根元を削ってくれる。

クリスマスはイエス・キリストの誕生を祝う行事とされているが、もともとはローマの民俗宗教の祭りがキリスト教に取り入れられたものだ。私が住むバイエルン州の習俗についての本を紐解くと、なまはげを思わせるような仮面をかぶり、わらでつくった衣装を着て闊歩している写真が見られる。『文明国』以前の土着の祭りがそこにある。

さてツリーの起源については諸説あるが、だいたい15世紀から16世紀にかけてフランスのアルザス地方で登場したとされる。一般家庭に取り入れられるのは19世紀に入ってから。ツリーの下にプレゼントを並べ、家族で楽しく過ごす光景が見られるようになった。

ドイツには家族幻想とでもいうべきものがあるが、そうした家族観が確立されたのが19世紀。クリスマスが互いの一体感を確認し合う機会としての役割を果たしている。それを考えると、ツリーがその格好のシンボルとされたのかもしれない。

ちなみに1824年に作詞された『もみの木』を見ると、針葉樹に重ね合わせて示された『活力』や『期待』のほかに、クリスマスを皆で迎える喜びが盛り込まれている。ここに民俗的な信仰と19世紀にはいって確立した家族幻想の両方を見いだすのは考え過ぎだろうか。

2本がトレンド
2006年のクリスマスシーズンのはじめには2,800万本の木が販売され、前年を30万本ほど上回る見込みという新聞報道があった。これはシングル世帯が増えたせいだとか。また室内だけでなく、バルコニーやテラスなどにも置く人が増加したことが理由と考えられている。ともあれ、自宅に2本飾るのがトレンドになっている。

なお2006年の場合は異常気象の影響でもみの木が10?12%ほど値上がりしており、平均価格は約27ユーロに上る。ドイツの生活感覚からいえば2,700円ぐらいの感覚だろうか。購入される木の高さは平均164センチほど。人と同じぐらいの高さの木が家の中にどっかりたち、クリスマスになると、その周囲にプレゼントがたくさん並べられるのだ。

ところで気になるのは、大量の木がどこから来るかだ。ドイツ森林所有者連盟は80%が国産としているが、新聞報道では70%という数字もある。いずれにせよ、大半が国内で伐採(ばっさい)され、残りはデンマークやアイルランドから輸入されている。

国土に占める森林の比率は30%と、日本の67%に比べかなり少ない。しかし人工林の面積はほぼ同じ。日本の所有者が林業にあまり関心を持たないのに対し、ドイツでは経営的な意識が高く十分に産業として成り立っている。これを考えると、国産ツリーが多いのも納得できる。

地産地消が実現
クリスマスツリーの販売
収集車を待つクリスマスツリー
環境面から見た場合、こうした現状はどんな意味を持つのだろうか。ドイツ森林所有者連盟によると、クリスマスツリーとして伐採されるもみの木の3分の2はこのために植樹されたもの。つまり、畑作と同様に考えて良いだろう。残りの3分の1は森林管理で間伐された木を販売している。

バイエルン州をはじめとする各州政府は、地元産のもみの木の購入を勧めている。地元の林業振興に寄与するのはもちろん、輸送距離が短いため環境負荷も小さいというわけだ。

プロテスタントの地域では、翌年の1月6日までツリーを飾っておき、その後に庭木ごみとして収集する。そのためこのころになると、収集車が集めやすいように家の近くにツリーが『廃棄』され、ごろりと横たわる姿が見られる。

私が住む人口10万人のエアランゲンでは、市内にあるコンポストセンターに集められる。毎年、その量は50トンにも及び、すべてが堆肥化されて再び売りに出される。地元産のもみの木を買えば、再利用を含めての地産地消が実現することになる。(了)

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