■33人のダンサー
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ユダヤ人市民の孤児たち(写真=Stadttheater
Fuerth) |
今年は同市の1000年記念の年だが、作品はそれにあわせて行われたダンス・プロジェクトである。
フュルト市はユダヤ人の市民が多い都市だったところで、戦争中に33人のユダヤ人の子供が孤児になった。その孤児たちも最後はポーランドの収容所に強制収容され、戻ってくることはなかった。同作品はそんな孤児たちへの鎮魂のダンスとでもいうものだ。
出演したダンサーの数は33人。各人がそれぞれの孤児の象徴で、世界中から招聘された。日本人ダンサーも1人出演している。そして地元のアーティストによって振り付けがなされた。
作品としては33人のソロダンスが基本になっている。途中休憩もはさむ長い作品だ。なお『マイム・マイム』は日本でもフォークダンスとしてその名が知られているが、もともとイスラエルの民謡で『水』を意味する。
ダンサーの身体や動きの特徴には個人差もあるが、続けさまにソロダンスをみると、やはり国や人種の違いのようなものもでていて、ダンス作品としてはこれも見所のひとつであろう。しかし33人のソロダンスが続くのは、見る側もけっこう大変な一面がある。それをカバーしたのが音楽だ。
黒い衣装で統一した10人のミュージシャンたちが舞台奥でゆるやかな弧を描くかたちでならぶ。客席からはソロダンサーをかこむかのように見える配置だ。
パーカッションを重視した音楽やジャズ風、東欧ユダヤ人がルーツといわれるクレッツマー音楽など、ダンサーの個性や動きに対応して演奏された。時にはボーカルもはいった。音楽のよさが舞台のメリハリをつけることに成功していた。
■招魂ダンス
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地元の新聞も作品を報じた。(12月1日付 Erlanger
Nachrichten) |
圧巻はラスト。ズシンと力のある女性ボーカルが『マイム・マイム〜』と歌う。それにあわせてダンサーが手をつないで円形になって踊る。
円になって踊るというのは、何かしら祈りとか、スピリチュアルな力を増幅させる運動であることを認識する。33人のダンサー各人がそれぞれの孤児を象徴させるかたちであるが、招魂の踊りに見えた。ソロダンスが中心になっている作品だけに、サークル・ダンスの持つ力が伝わってくる。
サークルダンスのあとは、そのまま音楽にのりながらダンサーたちが木箱を積み上げていく。最後は白い大きな布がふうわりと積まれた木箱にかけられる。なんと長いテーブルができた。そこへダンサーたちは皿やコップを並べるのだ。『招魂のダンス』で孤児たちがおりてきて、このテーブルについたような錯覚にとらわれ、思わず目頭が熱くなった。
ダンスと祈り、ダンスと宗教、という類のテーマを書物で読むことがしばしばあったが、それを初めて実感した作品であった。
それにしても、こうした『都市の記憶』を芸術のプロジェクトにしていくあたりは、いかにもドイツの自治体という感じがする。同市の人口は約11万人。日本でもざらにある規模の地方都市でのお話である。(了)