ドイツ・エアランゲン在住ジャーナリスト
高松平藏 のノート
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2007年6月13日



メルセデス・ベンツ への偏見と観察

ベンツといえば高級車だが、当然のことながらドイツの街のあちらこちらを走っている。ベンツにまつわる雑感を記しておきたい

国産車『ベンツ』
日本では『ベンツ』と呼ばれるが、ドイツでは『メルセデス』とか『メルセデス・ベンツ』という。ダイムラー・クライスラー社の製品ブランドのひとつである。

ベンツといえば日本では暴力団が好む自動車という印象もあるが、ともあれ一般に高級な外車と認識されている。しかし、ドイツ国内ではあくまでも『国産車』だ。身近にベンツは走り回っているし、日本のタクシーにトヨタの高級車『クラウン』が使われているのと同様、ドイツでもタクシーに使われていることも多い。

また乗用車以外にバスやトラックも製造されているので『ベンツ・バス』が街を走り、工事現場には『ベンツ・トラック』が働いているということもよくある。

社会的な位置づけ
とはいえ、それでもこの車にはステイタスはあるにはある。
あるドイツ人の建築家の友人は毎日ベンツに乗って通勤している。彼はもともと受けた教育が低く、最初は現場の仕事をしていた。しかし途中で奮起して専門教育を受けて建築家となった。彼の資質と根気がそうさせたのであろうが、同時に『ベンツに乗る』というのが彼のひとつの目標でもあった。たぶん、それを勉強の励みとしたようなところもあったのだろう。

またベンツを扱う販売会社などは地元に対する文化支援なども盛んに行う。
文化支援は日本でもトヨタなどが盛んに行っているが、地域の販売会社が地域に向けて文化支援を行うことはほとんどないだろう。エアランゲンの販売会社の経営者は同市にある文化財団の設立者の1人であるし、ベンツを扱っている限り、そのブランドに対する社会的期待にこたえるのは当然というのが経営者氏の基本的な考え方だ。

行儀の悪いベンツ・ドライバー
日本の交通文化ですごいところは、車種によって瞬時に格差ができることである。軽自動車はその『最下層』とでもいおうか、よく割り込まれたりする。逆に高級車はブイブイいわせながら強引に走るところをよく見かける。

交通とは道路とルールによる移動のためのシステムと考えると、車種で格差ができるということは明らかに間違っている。ドイツの場合、私の印象でいうと、システムとしての認識が高い。が、それにしてもベンツといえば、行儀の悪いドライバーが多いように感じることが多い。

たとえば、傍若無人ともいえる駐車を見かけることが多いし、アウトバーンではあおってくる車種のひとつだ。

また日本でもそうだが、道路がYの形になった場所で、合流するときは交互に一台づつ合流していく。これはルールではないが、マナーとでもいうべき流儀だ。が、ベンツは自分の前に入れさせることが少ない。

行儀の悪い自動車を見ると、私も妻もカッとなるが、その車がベンツだと『やっぱりメルセデスだ』と妙な納得をしながらイカるのであった。

管理職の質を映す?
これもまた、あくまでも印象なのだが、行儀の悪いベンツというのは、2000年以降に生産されたモデルが多く、ドライバーの雰囲気をみると、キャリアでいえば管理職クラスが乗っているような気がしてならない。

一方、老夫婦が80〜90年代生産された古いベンツに乗っているケースもよくみかける。この老夫婦たちはかつての管理職で、当時買ったベンツを大切に乗り続けているのだろうか。こういうドライバーはいたって紳士的だ。もっとも齢(よわい)を重ねたので無理な運転をしていないだけなのかもしれないが、老ベンツとニュー・ベンツの運転の違いを見ていると、管理職の質がうまく映し出されているように思える。

このところドイツの企業経営ではグローバリズムを背景に利益一辺倒や株主のみを重視したような姿勢が強くなったというふうに言われる。こういう企業経営を一言でいえば『行儀の悪い経営』といえるだろう。これに対して新聞でも『経済は目的ではなく、あくまでも人間のための手段だ』とクギをさすような論調の記事を目にする。

本来、企業の管理職や経営者は経営上の『行儀』を踏まえなければならないのだが、そういう視点を欠いた人物が増えたというふうにも言われることが多い。企業内でもそういう危機意識はあるようで、グローバル企業のシーメンス社の場合、2000年ごろから管理職に対して自らの『社会的存在』とか『社会的責任』を認識するための研修を行うケースもあるようだ。

ベンツに話をもどそう。
このブランドを社会的ステイタスを示すものとみれば、そのドライバーは、よりルールとマナーを意識した運転をすべきである。なぜならステイタスを持てるものほど紳士的にあらねばならないからだ。王者の義務である。ところが老ベンツとニュー・ベンツのドライバーを見ていると、最近の企業経営とか経済の風潮と重なって見えるのである。(了)

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