■2枚のチケット
|
5ユーロ分のチケット。マーケティングの巧妙さがうかがえる。 |
先般、フュルト市の市営劇場から一通の郵便物が届いた。そこには5ユーロ分のチケットが2枚はいっていた。
今年、フュルトは市の1000年記念年だが、それにあわせて、6月9〜24日にかけて行われる『バイエルン・劇場デー』の開催地にもなっている。市内の劇場はじめ文化施設で様々な作品が上演されるが、チケットを購入の際、送られてきた5ユーロ分のチケットが使えるというわけだ。
そのようなチケットが、なぜ私のところに送られてきたか。それは年間の公演予約チケットを購入しているからである。同市市営劇場のプログラムはなかなか充実しているのだが、年間予約券というシステムがあり、私は毎年ダンス公演のチケットを2人分購入している。これでワン・シーズン4回の公演を見ることになる。
日ごろ、われわれ夫婦は3人の子供たちに翻弄されているが、夫婦のささやかな時間をダンス公演を見て楽しんでいるわけだ。そして劇場にとってみれば、私たち夫婦は毎年、年間予約券を購入してくれる『劇場好き』のお客さんというわけだ。5ユーロのチケットにはきちんと番号がふってあるから、誰が来たかあとから検証も可能だ。
こんなチケットが送られてくれば、プログラムをけっこうまじまじと見る。妻にいたっては、この公演なら子供たちと一緒に見に行けるなどなど、具体的に検討しはじめる。たった5ユーロ分のチケット2枚に誘われて、家族5人が劇場におしかけるとなれば、マーケティング担当者氏の思うつぼだ。
■難しい劇場運営
一般に劇場が『儲ける』のは構造的にいうと難しい。公演の初期コストが高い上にチケットを販売できる数は劇場の座席分と限られている。しかも近年は娯楽が多様化している。よほどロングラン公演になるか、チケットを高額にしなければ儲かるどころか、収支すらあわない。
ところがドイツ統計局の資料によると、独国内には122の自治体に劇場など、なんらかの公演が可能な公立文化施設が744ある。2003
年から2004年にかけてのシーズンには全国の公演回数が約6万4,000回に上り、延べ約1,900万人が足を運んだ。これは単純計算で、ドイツの人口の約23%程度にあたる。
ではドイツの劇場は儲かっているのかといえばそうではない。ドイツの劇場のチケット収入は全予算の18%しかまかなっていない。
|
ベルナー・ミュラー氏(右) |
あとは税金である。文化予算では演劇・音楽にかける割合が約36%と最も多い。チケット代に換算すると、一人の観客に対して96ユーロ分を負担していることになる。別の見方をすれば税金の『還付』だ。こうした仕組みがドイツを劇場大国として成り立たせている。
ひるがえって、フュルトの市営劇場は1990年からベルナー・ミュラー氏が運営責任者に着任。以来、プログラムづくりなどでマネジメントの手腕を発揮し、『フュルトモデル』として専門家の間で知られていた。1990年代終わりごろの話だが、同劇場は全予算の34%を自前で稼いでいた。(了)