ドイツ・エアランゲン在住ジャーナリスト
高松平藏 のノート
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2007年3月26日



知識化組織と博士たち

エアランゲン市の自治体構造の表をみていると、面白いことに気がついた。博士号の取得者がけっこういるのだ。これは組織文化に影響があるのではないか。

1割が博士
同市の自治体組織構造は市長室とならんで第一局から第六局まで、合計7つの部署にわかれている。自治体構造の表には市長から局長クラス、部長クラス、主要プロジェクトの責任者らの名前があるほか、関連組織の責任者の名前もある。その数、かぞえること100人。いってみればこの100人が市の管理・運営の主要人物たちということになる。

この表によると博士号の取得者は11人。エアランゲンを企業に見立てたとき、管理職の11%が博士ということになる。これは、けっこうな割合ではないだろうか。市長・副市長、局長といった『取締役』級のクラスは6人いるが、そのうち半分が博士である。

博士論文といえば物事を知識化して体系的に考える力が要求されるのは明白だ。こういう知的経験を持つ人材がそれなりにいるということは、自治体の組織文化の中に物事の知識化と体系化という指向がはいりこんでくるということではないだろうか。

またドイツで大学の卒業者といえば修士である。それを考えると修士公務員もけっこういるのではないかと思う。彼らもそれなりの修士論文を書くから、やはりある程度の知的訓練の経験がある。

日本とどうちがう
それに対して、学歴と組織文化を考えたときに日本の組織には博士号を持つ人は少ない。博士とは専門バカであるという考え方あるのか、日本の企業などは実務能力などを重視するあまり、『博士号取得者は必要ない』としているようなところもあると聞く。

その代わりに学閥がある。今では、かつてほども組織文化に影響しなくなっているかもしれないが、たとえば3人のうち2人が早稲田卒で1人だけ慶応卒だった、という職場を想定するとわかりやすい。職場で早稲田も慶応も関係ないはずだが、ふとしたことで学閥が組織の意思決定や指向に影響するようなこともあったのではないかと思う。

もっとも日本とドイツでは資格と職業との関係や大学の状態が異なるので単純な比較はできない。また、実際の職場では学歴よりもコミュニケーションの能力や仕事への意欲、実務能力といったもののほうが重要ということもある。それにしても組織文化という側面から見た場合、博士が多いと組織の知識化という傾向につながるのではないか。

日本では近年、知識化社会が進み、それにどう対応するかという議論がある。博士とは専門バカというわけではなく、ものごとを知識化し体系的にとらえる知的能力がある人材と位置づけて考えてみる価値はありそうだ。(了)

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