ドイツ・エアランゲン在住ジャーナリスト
高松平藏 のノート
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2006年12月18日



 メディアイズム と ジャーナリズム


数年前からブログが広がった。これにともない、ブロガーはジャーナリストかという趣旨の議論がある。私自身は実はこういう議論がなぜこうも盛り上がるのか違和感をもっている。

■ブログの機能は革命的だが・・・
ブログの登場は誰でもテキスト、画像、あるいは音声・動画をつかって不特定多数の人に対して自己表現ができるということに加え、トラックバックなどの機能で、読者も容易に反応できる点が革命的だった。

ブログの機能を改めて書けば、

 (1)簡単に自己表現が可能で不特定多数の人が閲覧できる。
 (2)閲覧者は発信者へ感想なりを手軽に送ることができる。

基本的にはこの2点ということになろう。ブロガーはその発信者側にたつ利用者だ。

技術が人間の思考や態度を規定する部分は少なからずあり、ここからメディアについて考えることは価値がある。メディアのあり方・利用の思想、『メディアイズム』ということになろうか。

ジャーナリズムにとってメディアイズムは大切な問題ではある。新聞はビジネスモデルになり得て、かつジャーナリズムを具体化できる格好のメディアだった。が、メディアイズムの観点からいえば、広告主との関係とジャーナリズムの独立性の問題などは悩ましい部分として依然持ち続けている(はずだ)。ともあれ、ドイツをみると1600年代に初めて印刷による新聞が登場しているから、ドイツでは400年も続いているメディアということになる。

また新聞などのマスメディアは読者への一方通行という傾向が強い。しかもある種の権威が伴う。その点、ブログは閲覧者が発信者へ直接リアクションができるという点は『メディアイズム』としては見るべきものもある。が、言論に対する認識が未熟な閲覧者のおかげで『炎上』という状態になる。

■ブロガーはジャーナリストか
メディアのあり方とジャーナリズムの関係は深いが、それにしても両者をある程度分けないと問題点が混乱する。特に昨今の議論などは、新技術がもつ期待感が混乱を起こしているような印象を私は持っている。

ブロガーがジャーナリストかという命題に対して、私の見解はノーである。
だがブロガーがジャーナリズムに基づいて執筆していれば、そのブログはジャーナリズムを具体化するメディアになっているし、それはむしろジャーナリストがブログを利用しているという構図である。ブログというメディアにどういう内容がのっかるかは、基本的にはブロガーの思想や姿勢に拠るものなのだ。

ではジャーナリズムとは何か。
屁理屈めいてきこえるかもしれないが、『ジャーナリズム』という字面をみると、これは『イズム』である。

ジャーナリズムの役割は、一般的な理解でいうと取材や資料を基に社会の事項、その背景を報じることであり、そして問題提起と事項の評価を行う。

近代社会の成立においては権力の監視を通じて、民主制度を機能させるという役割を担ってきた。また歴史的な時間軸でみれば、その時代の社会を言語によって造型するような役割もあるだろう。

なお、ジャーナリストは責任の持てる範囲で相対的に書く必要はあると思うが、客観報道というのは無理である。どう考えてもジャーナリスト自身や編集者のバイアスがかかってくるからだ。だからこそ程度の差こそあれ記事には分析なり価値付けが行われている。

むろん、ジャーナリストになるにはそれなりの技術や能力は要る。が、現行ではジャーナリストは弁護士や医師のような資格は必要ない。ジャーナリズムを遂行すれば『誰でもジャーナリスト』であることは確かである。

                  ※         ※

余談だが、インターネットが一般化する以前といえば、個人のミニコミの発行者がたくさんいた。ガリ版、コピーにはじまって、経済的に余力のある発行者は印刷した。こういったメディアは発行者個人の表現欲求ともつながっていて今から思えば、インターネットでホームページを開設する感覚に近いものも多かった。

あるいは、ジャーナリズムの世界では──特に日本においては全国紙などのマスコミがその中核をなしているような見方がある。だが、全国紙から飛び出して自らのジャーナリズムを具体化するために媒体を発行する人たちもいた。関西ならば黒田清さんなどがそうであろう。

『反骨のジャーナリスト』(鎌田慧 岩波新書)によると、むのたけじさんは独力で1948年に週刊新聞『たいまつ』を発行するが、<木造の市営住宅の玄関の土間での大組作業や居間の壁を占拠している活字棚>といった状況で発行されていたようだ。ブログの時代からみれば想像もつかない媒体発行の様子である。(了)

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