ドイツ・エアランゲン在住ジャーナリスト
高松平藏 のノート
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2006年11月27日



 ポップな携帯


土曜日は自動車で10分ほどのところに住んでいる義母と義父の誕生パーティ。11月は2人の誕生月で、毎年2度の週末はパーティにあてられる。ところが今年はわが家が多忙だったため、一度にまとめてパーティをした。

プレゼントのひとつにプリペイドの携帯を贈った。高齢の2人に伴うリスクをあれこれ想定してのプレゼントである。

実はわが家でも1年ほど前にようやくプリペイドの携帯を購入した。私か妻のどちらかが外出したときに連絡用にと購入したものだ。

わが家のライフスタイルから考えると、携帯電話はほとんどいらないのだが、アウトバーンを飛ばしていて事故にあうとか、わが家が休暇でエアランゲンを離れた時でも義母、義父が連絡を取れる状態にしておく、といった理由だった。加えて日本に比べて公衆電話が少ないという事情もある。

今回、義母と義父へのプレゼントした機種については画面の見やすさ、操作性を考えて選んだがどうしても限界がある。日本ではボタンも大きく、操作も簡単、『電話だけ』という機種が売られているとも聞いたが、ドイツの携帯市場では高齢者を念頭においた商品はないようだ。

思い返せば一年前、わが家の携帯を購入するときも、リスク対応という使用目的がはっきりしているため、『電話だけのない?』とお店のお兄さんに問うた。お兄さんは虚を突かれたような顔をした。もとよりダメ元の質問だったが、お兄さんの一瞬の表情が答えだった。


               ※            ※

ところで、私自身、実は携帯電話がまだもう少し大きめのサイズだった時代にヘビーユーザーだった。思うところあって96年ごろから使用をやめた。以来、『携帯持ってません』というと『えっ』というような顔をされたものだが、メールもあったし職場で電話を使わないというわけでもないので、それほど私自身は不便は感じなかった。

だが私は10代のころから長電話はけっこう好きであった。私の父の世代などは電話は用件のみに使うものであったが、時代はおしゃべりを楽しむツールとして定着しかけていた。当時、ある2人の音楽家が長電話での対談を本にする、ということもあり、私にとって、それがかっこよく見えたということも背景にあった。それにしても携帯のヘビーユーザーだったのも、今から思えば、もちろん仕事の上で必要だったが、『ポップなツール』という位置づけもあったと思う。

話をもどそう。
義母は包みをあけたとたん、『まあ、携帯電話』と声をあげ、『私たちも現代人になれたわよ』と言いながら義父の肩をたたいて笑った。

1〜2時間のあいだ妻と義父はマニュアルと首っ引き。使えるようになったとたん、義母は自宅の電話機から携帯にかけてテスト。同じ部屋にいながら『聞こえる?』『ああ、聞こえるよ』と話して笑った。『リスク対応のためのツール』としてプレゼントしたつもりだが、案外『ポップなツール』にもなっているようである。(了)

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