ドイツ・エアランゲン在住ジャーナリスト
高松平藏 のノート
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2006年9月21 日


ピンクのニューヨーク

ドイツ人の友人がバグダット出身の女性と結婚した。そのパーティに私は招かれ、写真係りもすることになった。私はモスリムの世界については疎いのだが、少女と接する機会があり、その世界の機微を垣間見たのだった。

パーティの会場は新郎・新婦の両方の友達や家族が来ているが、同じ空間にいながら交流は少ない。実際、スカーフをかぶった女性が4、5人並んでいるところへ気軽に声をかけるのは気がひける。モスリムといっても皆ドイツに住んでいる人たちなのだが、スカーフは一種の壁になっていることは否めない。彼女たちを被写体にするのは躊躇した。

そんな壁を取り払ってくれたのが2人の少女だった。私がカメラをもちあるいてウロウロしていると、そのうちの一人が『私たちもとって!』とやってきた。これが突破口になった。さらに音楽がはじまり、モスリムの女性たちはがぜん元気に踊りだした。ようやく私もレンズを彼女たちにむけはじめた。

余談だが、彼女たちと楽しそうに話していた大人が私以外にもう1人いた。新郎側の友達でドイツ人である。こんな人もいるのだなあ、と思っていて見ていたのだが、話をしてみると、同業者だった。

話しを戻そう。
私に声をかけてきた2人の少女のうち、1人はものおじしない元気な女の子だった。スカーフはかぶらず、濃紺のシックなドレスを着ていた。もう1人の女の子はスカーフをまとい、その中にキャップをかぶっていた。
キャップにスカーフを身につけた少女。(左)
おしゃれ心がうかがえる。

元気な女の子は『次はここで』『その次はむこうで』とどんどん撮影をせがんでくる。彼女は13歳といっていたので、もう1人も同じぐらいの年齢なのだろう。そして撮影がもりあがってきたとき、元気な女の子はもう1人の女の子に言った『スカーフをとったら?』

女の子は一瞬躊躇して言った。『うーん、お母さんにきかないと・・・』。

が、ききにいくのも面倒くさいなあという顔をした。『そのままでも、なかなかいいよ』と私が言うと納得してポーズをとった。

若いモスリムの女性の中には、ドイツの流行、あるいは若者が好む服装の上にスカーフをかぶっている姿をみかける。彼女もそんな感じだった。ジーンズをはいて、キャップをかぶって、そしてスカーフをかぶっている。

スカーフ着用は彼女自身の意思かどうかはわからないが、『お母さんに聞かないと・・・』と躊躇していたところを見ると、親からつけるように言われているのだろう。だとすると、キャップにスカーフという組み合わせは妥協のファッションだ。

彼女のスカーフはラメのはいったピンク色。帽子もピンク。きっと妥協点の中で考え抜いた彼女なりのおしゃれなのだろう。私はモスリムの世界については疎い。しかし、スカーフをめぐるこの世界の機微のようなものを垣間見た日だった。

ところで彼女のピンクのキャップには『NewYork』とかかれていた。もちろん彼女には911とモスリムの関係を意識するようなことはないだろう。『クール』な大都市、ニューヨークをかぶっているだけである。(了)


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