ドイツ・エアランゲン在住ジャーナリスト
高松平藏 のノート
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2006年9月20日


結婚の効用

ドイツ人の友人がバグダット出身の女性と結婚した。このカップル、そろぞれ色々な事情を抱えているが、とにもかくにも「結婚の効用」とでもいうものを見る思いである。

友人の結婚式のパーティに招かれた。そして写真撮影を頼まれた。

会場は市内の『市民ミーティング・センター』。パーティなどができる公民館のようなところで、料理は手作りだ。

この結婚パーティ、新郎のほうが友人なのだが、新婦はというとバグダット生まれ。こんなカップルの結婚なので当然、会場はマルチ・カルチュラルな状態にあった。どちらの文化圏の人たちも相互に交流する人、しない(できない)人がいる。もっとも新婦側の友達が作った料理はなかなかおいしい。新郎側の友人たちもパクパクと食べている。

スカーフを被った新婦側の女友達たちは前半おとなしくテーブルについたままだったが、盛り上がってくると一斉にゥラララララと甲高い声をたてて祝福する。そして音楽がなりはじめると、踊りだす。

余談だが、この『ゥラララララ』という発声、ずいぶん前に『アラビアのロレンス』だったか『モロッコ』だったか、何かの映画の最終シーンで砂漠にたつ女性たちが発しているのを見たことがある。砂漠でよく通る声にするためにこういう発声法になったというようなことも読んだこともあるのだが、あまりにもウロ覚えである。どなたかご存知の方がおられたら教えていただきたい。
パーティの前日、市役所で行われた結婚式


話は戻って、前日の結婚式では完全なモスリムの格好をしていた新婦も、この日はスカーフをとり、白いドレスだ。音楽がなると彼女も踊りだす。写真係を請け負った私は彼女たちの踊りにのめりこんで、シャッターをおした。新婦の表情も生命が輝いてくるかのような顔つきになってくる。

さて、新郎のほうはというと、コテコテのドイツ人、いやフランケン人である。フランケンとは私の住んでいるあたりをさす地方で、よくも悪くも彼は地域性の高いキャラクターである。

歳は40代前半。大学を中退、というようり卒業できなかった。その上なんら職業資格がない。ドイツという国は職業意識が高く、職業資格がものをいうので、彼にとって仕事を探すのは難しいはずだ。そのくせ、やっとありついた仕事も長く続かない。

さらに、どちらかといえば頭がカタく、融通があまり利かないという性格が加わる。数年前からは慢性の病気にかかったということもあるが、ずいぶん長いあいだ失業中である。社会保険が充実している国だからこそ、まともに生活できていたといえるだろう。

そんな具合であるから私は彼のことはあまり好きになれなかったし、コテコテのフランケン人である彼がまったく文化背景の異なる彼女と結婚すると聞いたときは驚いた。新婦がドイツでの滞在許可を得たいがための偽装結婚か、とさえ思った。が、雰囲気を見る限り、そのような感じはなさそうだ。まあ、夫婦の関係なんぞは当人たちにしかわからないことも多いものである。

新婦は自国から逃げてきた人である。もともと公務員だったそうで10年ほど前にフランクフルトへ公務で来た。それきり自分の国には戻らなかった。公務でドイツへやってくるような人なので、きっと能力は高いのだろう。

ともあれ、そんな彼女に手綱を握られたせいもあるのか、結婚を決めてからの彼は生活にメリハリがついたようだ。『写真を頼みたい』と私の家へ来たときの雰囲気はずいぶんかわっていた。彼の両親兄弟友人たちからは、『ホッとした』と直接・間接的にきかれた。その後の結婚生活がうまくいくかどうかはアラーとジーザスだけが知るのみだが、『結婚』の効用をみた気分であった。(了)

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