2008-11-24 (vol. 147)
─ ベトナム仏教徒協会 ングエン・タン・ロクさん インタビュー
【インタビュー】
キリスト教社会での仏教
ベトナム仏教徒協会 代表 ングエン・タン・ロクさん

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ドイツ南部のニュルンベルク市(バイエルン州)に仏教を軸に文化や教育について活動を展開しているフェライン(非営利法人)『ベトナム仏教徒協会』がある。同団体の代表ングエン・タン・ロクさんに話をきいた。社会の中で宗教はどのような役割を担うべきかを示唆している。(取材・構成:高松平藏)

ングエン・タン・ロクさん。13歳の時にベトナムからドイツにやってきた。
アジアの獅子舞を紹介

■法人の拠点はビルの一室。ここには黄金の仏像が鎮座し、まるでお寺のような雰囲気ですね。非営利法人はいつから活動していますか
『8年前からです。当法人の範囲はニュルンベルク周辺のフランケン地方全体を対象にしています。正月などは600−700人程度集まりますね。この時は中国の人もよく来ますよ』
『設立と同時に若者のグループもつくりました。こちらのグループは2週間ごとに集まり、仏教を学ぶことはもちろん、語学、音楽、獅子舞などをやっています』

■ングエンさんが取り組んでいる獅子舞は中国やベトナムなどでみられるスタイルのものですが、このチームはアジア関係のイベントなどでも活躍しているようですね。
『メンバーの都合にもよりますが、年間3〜7回程度の公演の機会があります。最近でしたらニュルンベルク空港のフェスティバルや同市で毎年行われるアジア・ナイト・マーケットというイベントなどに出ています』

■アジア・ナイト・マーケットは野外で行われる大規模イベント。アジア各国の食べ物を楽しめる屋台がたくさん出るほか、特設舞台では伝統芸能などアジア文化を紹介する短い公演がたくさん行われますね。
『はい。しかし、それらの7割程度がドイツ人のグループです。3割が“本物”のアジア人です』
『われわれは自分の文化を紹介しようと考えていますし、お客さんも“本当のアジア”の文化に触れることに期待しているように思います。アジアの伝統芸能の公演で演者がドイツ人、となると、お客さんの反応はがっかりしているのがわかる』

■公演はどんなかたちですすめていますか
『私も楽器演奏をしなければならないときがあるのですが、進行に徹することができるときは演じる前に獅子舞の意味などを説明するようにしています。私の経験からいえばそのほうが見ている人たちは喜んでくれます』

仏教は文化・哲学

ニュルンベルク市内のビルの一室にある仏教徒協会。
■若者に対して獅子舞を教えていくことは仏教とどう関連付をしていますか。
『文化の継承ですね。たとえば日本の茶道や弓道にしても奥にある哲学は仏教にルーツがある。つまり、同様に獅子舞も奥には仏経とつながっている』
『加えて、私たちの獅子舞は派手な動きがあります。そういった動きはカンフーやアクロバットが背景。今の若者はゲームやコンピューターが好きですが、獅子舞だと運動をするようにもなりますしね』

■伝統文化に関心の高い若者は少ないように思えますが、いかがですか。
『そうですね。ほかの伝統文化を守ろうとしているグループと同様、若者は少ないですね』『私には5歳の娘と4歳の息子がいます。子供たちにもやはり自分たちの文化を教えたいと思っています。実際、子供たちを当協会にも連れてくようにしています。なぜかというと将来、大人になってどのようなことをするようになっても、仏教が人生の基盤になってくるものです。これを子供に教えたい。具体的には特にドイツ(社会)にはみられない、<親への尊敬>といったようなことを教えたいですね』

■それにしてもあなたがたが生活の拠点にしているのはドイツです。
『ドイツに住む限り、学校などで(家庭の)外の影響が強い。この影響について私は否定したくないです。わかりやすい話ですと、獅子舞のグループとの行動でしょう。グループには8歳から20歳ぐらいの子供や若者がいるわけですが、公演のあとに、彼らがマクドナルドへ行きたがるわけです。私自身、本当は行きたくはないのですが、文句をいわず、彼らと一緒に行くようにしています』
『また、当協会はもともと年長者が設立したものですが、もっと外へアピールしなければならないと考えました。そこでドイツ語が流暢な私が代表に選ばれたという経緯があります。私は13歳のときにドイツに来ました』

■ドイツにおけるアジア文化というと風水をはじめ色々なものが知られています。日本のものでは近年MANAGAに人気があります。
『確かにMANAGAは今のトレンドですが、ブームが終わったころには何も残らないのではないでしょうか。それに対して仏教はずっと残りますよ。仏教とはまさに文化や哲学だと思います』

【取材後記】
ングエン氏も述べているように、一般に宗教には文化や哲学が伴う。たとえば教会や寺院といった宗教施設には独自の装飾や建築スタイルが伴う。これなどは目に見えやすいかたちのものだ。さらには人々の価値観など人格形成にまで影響する。また仏教の活動を通して外国人として、自らのルーツを確認することにもつながっている。

そんなことを鑑みながら、自覚的に社会的組織として教育やアジア文化の紹介といったことにまで展開しているのが同組織。いわゆるカルト宗教のまったく逆の方向性をもって活動しているといえるだろう。(了)

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発      行 : インターローカルジャーナル
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発  行  人 : 高松平藏 
発  行  日 : 不定期

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