2008-04-07 (vol. 144)
─ 俳優・松野方子さん インタビュー 3/3
『楽しむ』ことで
夢中になれる


教会でミュージカル(エアランゲン市内 2007年12月)
クリスマスには教区の人々の協力のもと子供たちが教会で演劇などを行う。
■ワークショップを進める上でどんな問題があると考えていますか。
『10年ぐらい前になりますが、日本でワークショップがはやりだし、私達の劇団にも要望がありました。しかし、何を求められているのか、何をすればよいのかわからない。そこで劇団の先輩と一緒にイギリスでの取り組みなどを研究したんです』

『そこで見えてきたのが、日本人の物事への取り組みかた。「さあ、今からやります」といったときに、まず構えてしまう。これでは次に進めていくのは難しいと考えた。いいかえれば楽しむという姿勢が大切だといえるわけです。イギリスを見るとそういう姿勢がある。今回ドイツでも確認できました』

■松野さんたちと共同プロジェクトを行った劇団「テーフォー」の代表、クラウス・マイアーさんも日本で小学生を対象にワークショップをされたそうですね。
『片言の日本語で、いきなり「ミナサン、タノシンデクダサーイ!」なんて言う。私自身、その意味が最初ピンとこなかった』

『先日見学した教会でのクリスマス劇もそう。まず子供たちは本当に楽しそうです。そして先生も子供たちにはとにかく楽しくやるように言ってきたという。やはりそうなんだと思った。私が教えるときや何かを発信するときも、相手が楽しんでやれるようにしたいと考えています』

■日本の子供たちは楽しんでいないんですか?
『そうでもないんですが、「うまくやろう」「ここでいいところを見せよう」といったものがどこかにあって、それが緊張にかわってストレスになる。だったら楽しくやればいいのではと思うんだけど、間違うといけないと思うようなんですね。また学校の先生たちもきちんとやらなければならないと考える。そのため、子供たちに「静かにしろ!」なんて言うわけです。しかし、楽しくやれば自然に子供たちも夢中になるものです』 

■以前、世界中でワークショップをしているドイツの演劇人に取材したことがある。彼によると国ごとにいろんな特長があるそうですが、日本はすぐに「先生」「生徒」の関係になってしまうという。
『なるほど。ギムナジウムを見学したときの様子を見ると、先生・生徒の関わりや発想、発言がとても自由だという印象を持った。意見が違うことは悪いという考え方がなさそうですし、先生も決まった答えのようなものを言わせようとしているわけではない。生徒たちが自分で考え、彼ら同士が話し合っている。日本でこういう授業をしたときに果たしてできるだろうかと思う』

『楽しもう、自由にやろうと私が言ったとき、日本の先生たちはそれを止めてしまうようなところもある。生徒にとっても「自由ってなに?」「どうやって楽しむの?」という疑問を。先生も生徒も楽しむこと、自由にすることとはどういうことか、という共通の認識ができないと先に進まないように思います』

■当然のことですが、日本はドイツではない。難しそうですね。
『そうです。それにはまず、子供たちをよく見る必要があります。そしてドイツで見たことをヒントにしながら、どういう楽しみ方を一緒にできるのかを考えなければいけない。そのために子供たちが小さな発信をふっと出した時に、それを拾えるようにしていきたいですね』
(取材日:2008年1月9日)

松野方子(まつの・まさこ)さん
俳優・演出助手。1965年生まれ。青年座研究所を経て劇団仲間に所属。花柳流日本舞踊の師範でもあることことを活かし、今回のドイツ滞在でも日舞のワークショップを行った。また秋田県出身であることから、TV,映画での方言指導も行っている。(最近の作品『点と線』ビートたけし主演)

劇団仲間(げきだんなかま)
1953年、東京で設立された劇団。一般の作品を上演する一方、演劇に対する愛着や理解を持った人を増やしていこうという考えから、児童・青少年演劇に力をいれてきた。主な上演作品に『 森は生きている』『乞食と王子』『モモと時間どろぼう』など。
劇団仲間 http://www.gekidan-nakama.com/
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発  行  人 : 高松平藏 
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